Under20,Over20 26
クリスマスイブだとは言え、特別何か大きく物事が変わるわけでもない。
たとえ、自分が20歳の誕生日を迎えたとしても…
残るのはむなしさばかりで、前向きに考えられる要素が見当たらない。
1ヶ月も前から思っていたこと…20歳になる意味を、まだ見出せないでいる。
ついに…20歳になってしまうんだな…
毎年必ず街中に響き渡る午後7時の鐘がその合図。
今の時間は、午後4時。
もうあと数えるくらいしか時間が残っていない。
結局この1ヶ月、いろいろなことがあったようで、実は何もなかったのかもしれない。
いや、確かに充実していたと言うか、毎日何かに追われていたかもしれない。
だけど、残ったものは何もない…むしろ失ったものの方が多いような気がする。
いや…まだだ。まだクリスマスパーティーが残ってる。
風中も来る、ほとんどくるみが主催のような、そんなイベント…
そこでおれは、はっきりと告げなくてはならない。このまま20歳を迎えてたまるか。
自分の家の中、自分の部屋のベッドの上で、刻々と迫るその瞬間に向け、何とか平静を保てるように深呼吸をして心を落ち着かす。
するとその時、まるで狙っていたかのように家のチャイムが鳴った。
ところが、家の中はまったく反応がなかった。
ということは、親は出かけているのだろうか?帰ってきた時は確かにいたのだが。
まったく、息子の誕生日だというのに何を考えているんだよ。
まあ、買い出しに行っているだけかもしれないが。
自分の部屋は2階にあるので、実際1階に下りるのは面倒なのだが、この際仕方がない。
「まったく、シンドイことやらせるなよな…」
腰を上げ、部屋のドアを開け、玄関に向かおうとした。
その時だった。
「わあっ!」
「うわああぁっ!」
その瞬間は、心臓が止まりそうな勢いだった。
ドアを出てすぐ正面に、くるみの姿があるではないか。
そう…どうやらおれが出るまでの時間の中、くるみは玄関を勝手に入り、ここで待ち構えていたらしい。
というかカギもかけていかないなんて、なんて親だ。
「くるみかよ…お前か、さっきのチャイム」
「きゃはは、『うわああぁっ!』だって〜!お兄ちゃんの驚く顔って、面白いねっ!」
話も聞いちゃいない。
「とにかく、お兄ちゃん。もう行かないと間に合わないよっ!」
いつも以上にハイテンションなくるみが続けた言葉に、並ならぬ違和感を覚えた。
その違和感に、すぐおれは気づいた。
「ちょっと待て。行くって…ここで何かするんじゃなかったのか!?」
「あ、そっか…そこまで詳しく言ってなかったんだっけ〜!きゃはは!」
いや、笑い事じゃないと思うのだが。
見てみれば、くるみはよそ行きの格好をしている。前にバイトに行く時に着ていたような黒のドレスのようなもので、やはり少しくるみには似合ってない印象がある。
「じゃあ、これからのお楽しみだねっ!ヒミツヒミツ!」
…こんな言動だから、なおさらだ。
「なんだそりゃ…」
でもまあ、ちょっとブルーだった時にこのくるみの明るさに、おれは救われているのかもしれない。
「ほらほら、行くよっ」
「わ、コラ、腕を引っ張るな!まさか出かけるとは思っていなかったから、とりあえず着替えさせろって!」
「あ、そうだね。じゃあ早くしてね、お兄ちゃん!」
まったく、こいつは…やることがいちいち先走りすぎなんだよ。
しかも、肝心なことに限って言わないのだからタチが悪い。
おれがくるみといて疲れる原因というのも、実にそこにあるのかもしれない。
「もうっ、お兄ちゃん遅いよ!」
玄関で大人しく待っていてもらえると思ったら、おれが外に出るなり、そんなことを口走っていた。
「お前の事前説明が不足すぎなんだよ…」
今までと同じことをやると思い込んでいたおれも悪いのかもしれないけど。
「ところで、風中は?」
そう…今日は風中と一緒という話なのに、彼女の姿がどこにも見当たらない。
さすがのくるみも、風中にはちゃんと説明しているよな…と、さっきのことを考えてみれば、不安になるのも当然なのだが。
あ、どこかに行くことさえ告げていれば、詳細は風中の方からくるみに聞くか。
少なくともおれのように詳しい話を聞かないということはないだろう。
…ちょっと自分で言っててむなしくなってしまった。
「あ、えっと…里美ちゃんは直接その場所で待ってるって!」
「へえ…そうなのか」
少なくとも、会場だけは風中に教えているようだ。
そんなことで安心しているというのも、ちょっと笑ってしまいそうになるが。
「じゃあ、行こ行こっ!」
あくまでも先を急ごうとするくるみに、おれはわざとゆっくり足を踏み出す。
そんななんとも平和な時間が過ぎていく中で、一気に状況が一変する出来事が起ころうとは…
「空下…君」
背後から聞こえるその声に、おれは息を飲んだ。
前の方を歩いていたくるみが先に振り向き、そしておれと同じく動きが止まっていた。
今までの話からすればここに来るはずのない彼女が、おれらの前にいる。
夜に向かう冷たい風が、いっそう強く吹き抜けていった。