Under20,Over20 20
 
 
「じゃあくるみちゃんにもお礼を言わないとね」
 あまりにもこの話にかけ離れた人物の登場だった。
「な、なんで…」
 力が抜け、おれはそう口を動かすことで精一杯だった。
「だってくるみちゃんから私に頼んできたから。空下君を手伝って欲しいってね」
「と、いうことはまさか…昨日風中が教室に入ってきたのって、おれがいることがわかってて…?」
「ごめんなさい。でも私も大変だったんだから。くるみちゃんに頼まれた後すぐ先生のところに行って、なんとかコピーだけ取れて。あの時は余計な心配を空下君にかけさせたくなかったから、そのことを空下君に聞かれた時、適当に理由を作ったけど」
 そう言って、さぞかし疲れたんだろうな、という表情を風中が見せる。
 そうか…それであの時おれにも嘘だとわかるくらいの慌てようをしていたんだな。
 間違いなくどもっていたし、なにより風中の表情が見たことがないものだったのだ。一通りその嘘の理由を言った後、口を開けたり閉めたりするだけで、まったく声にも出ていなかったのだから。
 風中ってポーカーフェイスではないんだな、とわかった瞬間。なんだか意外だったのを覚えている。
「なんだよ…じゃあ風中にしてやられたってことか」
「人聞き悪いよ、空下君」
 そんな、風中と2人きりの1日が始まった。
 
 
 公園をぐるりと回ったり、食事をしたり…いたって普通のデート。
 それでも、おれはとても楽しかった。
 時間も、思っているよりも2倍3倍と早く経っていく気がする。
「空下君、あれいいと思わない?」
 幾ばくかの時間が過ぎて、街中のショッピングロードを歩いていた時に風中がさしてきたそれは、小指くらいの高さの、小さなねこのぬいぐるみ。
「へえ、風中もちゃんと女らしい趣味持ってるんだな」
「あ、それ偏見。なんだかトゲのある言い方してるよ。もっとほめてほしかったな」
 そう言うと風中は再び、そのぬいぐるみの方に視線を戻す。
 相当気に入っているのか、大きく目を見開いて、ひざに手を当てて、のぞきこむように前かがみになっている。
「お気に召されましたか?」
 高校生のアルバイトだろうか。若い女性の店員が、そんな風中に声をかけてきた。
 そしてその店員はぬいぐるみを手に取り、なにやら後ろの方にネジがあるらしく、それらしきものを回しはじめた。
 次の瞬間、流れてきたのは…オルゴールの音色。
「『クリスマス・イブ』ね。きれい…」
 なぜねこにクリスマスの曲?とも思ったが、時期が時期だけにそういうこともアリなのだろう。
 微動だにせず見入っている風中…目が太陽の光に反射して、輝いている。
 今おれは、そんな風中の行動のすべてを1人占めしているのだ。うれしくないわけがない。
「プレゼントしようか?そんなに高くないし」
 こんな気にもなってしまうというものだ。
「えっ、いいよ。悪いから…」
 ぬいぐるみから初めて目をそらし、それがおれの方に向けられる。
 目を細めた、おだやかな表情。これはずいぶんなお気に入りと見た。ますますもってプレゼントしてあげたい。
「今手持ちはけっこうあるんだ。この前の課題を手伝ってもらったお礼だよ」
 まあ、今日のためにいつもより財布の中身を増やしているのだが。
「すいません、これいただけますか?」
 おれが店員さんに言うと、営業スマイルなのかどうなのか、にっこりと微笑んで、
「わかりました。今すぐお持ちいたします。…とてもいい男の人ですね。大事に想ってあげてくださいね、彼女さん」
「あっ、そんな…私たちは、えっと…はい」
「えっ、風中?」
 焦るのはおれも同じで、気持ちはよくわかるのだが、最後認めてなかったか?
「ふふ、お2人とも、仲良くしてくださいね」
 手早く会計を済ませ、店員さんに見送られながらおれらは店を出た。
 あとは時間的にも、学校に課題を出しに行くのみとなっていた。
 
 
「なんだか…誤解されてたみたいだな」
 学校へ向かう道、ちょうどバスが来ていたので乗り込み、ペアシートでおれと風中は隣同士で座っていたのだが…
「あ…うん」
 風中はどうもあの店員さんの言葉の後から、様子がおかしくなっている。
 それは当然といえば当然だろう。おれだって気持ちを落ち着けるまで時間がかかったものだ。
 いや、しかしむしろおれが気になったのは、店員さんの言葉よりも、風中の反応…
「えっとさ、風中…」
「あ、もうすぐ着くみたいだよ、空下君」
「え?ああ、そうみたいだな…」
 やはり、風中も意識しているのだろうか?
 バスは、目の前にそびえたつ桜の木を前に、学校の中へと入っていく。
 その桜の木がきっかけとなって引き起こる、この先の出来事も知らずに…