Under20,Over20 18
 
 
 風の祝福。
 1歩踏み出しただけで、冷たくない心地良い風がおれの前を通りぬけていく。冬にしては珍しい。
 噴水の音を、耳を研ぎ澄ませて聞いてみる。
 滝の流れのような音。
 そのメロディーに引き寄せられたのか、その周りで小鳥たちがお喋りをはじめている。
 公園と言うのは、不思議と落ちつくものなんだな。最近と言うか、けっこう公園になど足を運んだことがなかったので、ちょっと視野が広がったような感覚がする。
 ではなぜおれが今、公園にいるかというと…いや、言うまでもないんだが、今日が風中との約束の日なのだ。
 昨日は金曜日で、今日が学校休みの土曜日。
 その昨日に書き上げたレポートを翌日までに提出すると言うのは、まさに鬼のような話だったのだ。
 しかしバカなことにおれは昨日ずっとそのことに気付いていなかった。
 それがわかったのは、昨日風中を最後の最後で誘った後なのだ。
『じゃ…明日でいい?休みだし』
『ああ、もちろんいいけど…また急なんだな』
『だって明日休みなのにレポートの提出しに学校まで行くんでしょう?だったらついでにと思って』
『…ああっ、そうか!明日休みだったんだ!』
『えっ?もしかして空下君…わからないで残ってやっていたの?今日中に提出しようと頑張っていたのかと思っていたから…』
 そう、本当は書き終わったところで提出するつもりだった。ところが帰りがけ職員室に寄ったら、担当の講師がいなかったのだ。だから明日までだし、それでいいかと思っていたが…
 そういえば思い返すと、おぼろげに風中がその時『残念だね』と言っていたような気がする。
『う…わ、わかってなかった…風中はずっとわかってたってことなのか…?』
『もちろん。ふ、ふふふ…』
 こんな感じで、あんなにいいムードだったのにそのすぐ後に笑われてしまったのだ。
 まあ、結果的にはよかったのかもしれない。『ムードがいい状態』になんて今までの経験上なったことがなかったため、どう話を終わらせれば良かったのかわからなくて困っていたところだったのだ。
 笑ってくれたから場が和んで、なんとかなったのだろう。
 とにかくそういうことで、今日はレポートの提出兼風中とのデートということになる。
 こういう風に言うと風中とのデートの方がおまけのように聞こえるが、そんなことはないぞ、うん。風中はどう思っているかわからないけど。
 しかし、この待っている時間…
 おれは息苦しくて仕方がなかった。
 風中とのデート…そんなことなんて考えたことなくて。これは夢なんじゃないかと本気で思ったりする。
 まあ、夢であって欲しくはないけど。
 時間は…まだあと10分ある。急がなくても良かったな…
 でも、こうやって待っているというのもなかなかいい緊張感がある。それだけ会えた時の感激度が違うと言うか…ちょっとベタなことを考えてしまったな。
 …自分でやってしまったこととはいえ、ちょっと吹き出してしまった。
 気を落ちつけるため、今は葉もつけていない大きな桜の木に寄りかかって、おれは目を閉じてみる。
 そういえば考えてみたら、風中と初めて話したのは桜の木がきっかけだったんだよな…
『悲しい…ね…この桜の木、人々に幸福を与える木だって言われてるんです…知ってますか?だけど…この木は誰かに幸せを与えることはできても、決して誰かから与えてもらってはくれない…』
「確かにそうかもしれないな…」
 意識してない頭なりに考えてみると、風中の言うことにも一理あるかもしれない。
 桜が主役にならない、冬…
 そんな時に人々は、わざわざ立ち止まって見つめたりなどしない。
 きっとそれは人間にも言えることなのかもしれないな…と思ってみたりする。
 これから先のおれの不安って言うのは、こういうことも含まれていたのかな…
 自分でもわからないから、余計にタチが悪いんだよな。
 …やめよう。本気で落ちこんでしまいそうだ。
 と、目を開けた瞬間だった。
 ちょっとだけのぞいたまぶしい日差しだったが、またすぐ目の前が暗くなったのだ。
「さーて、私は誰でしょうか?」
 反射的に吹き出してしまうほどの、古典的な登場だった。