Under20,Over20 15
玄関を出て空を見上げると、そこには海をそのままひっくり返したような、くすみのない青空が広がっていた。
冬の晴れというのは、とても気持ちがいい。
風がいくら寒くても、体の芯まで暖めてくれそうな勢いの太陽の光…
夏の刺すような日差しと違って、日なたぼっこには最適なこの陽気…
改めて太陽という惑星の偉大なるエネルギーに、ただ恐れ入るばかりだ。
「…とまあ、そんなとこか?」
おれは詰まった息を一気に吹き出して、上げていた首を正面の方に戻す。
一応、文系のはしくれとして空を見上げた時の文章表現を考えてみたわけだが…
「なにが『そんなとこか?』なのよ。お兄ちゃん最近ひとりごとが多くなってきてるね。きゃはは、オジイサンっぽ〜い!」
いきなり失礼なことを言われ、おれは最悪極まりない気分へと一気に陥ってしまったのだった。
その正体はもはや考えるまでもない。おれの家の玄関前でまるで待ち構えていたかのように突っ立っていたのは、くるみだった。
さすがにこのまま黙っているわけにはいかない。くるみはすぐ調子に乗るからな…だから昨日のようなことが起こってしまったわけだし。
「オジイサンって…いい加減にしろよな。もうカンベンしてくれよ」
「だってホントにそんな感じなんだもん!」
しかも同じようなことが昨日も起こっていたような気がする。デ・ジャブか?
しかし、ここでおれは気づいた。なんだか今日のくるみの雰囲気が違うのだ。
まず、会話だ。調子に乗ると思っておれが今の話を止めようとしたのは確かだが、こんな一言だけでくるみが暴走することを阻止できるわけがないと覚悟していた。いつもがそうだったから。
だが、くるみは今の一言だけで、さらに突っ込んでくるということをしなかったのだ。
それは、まだいい。
一番驚いたのは、そのくるみが着ている服装のほうだ。
いつもは少し小さめなTシャツに、これまた短めな温色の鮮やかなスカート、あとは風よけさえできればいいと、適当に何かをはおってきているだけと、まさに子供のような格好をしていたのだが。
今目の前にいるくるみは、まずロングスカート。上着はシックな黒のコートをはおっている。おまけに足元を見てみたらハイヒールまではいている。
今までのくるみには見られなかった、大人な雰囲気の格好だった。
当然、突然の変貌具合におれが疑問を持たないわけにはいかない。まわりくどくしても仕方がないと思ったおれは、直球で聞いてみることにした。
「ところでお前、その格好…」
「あっ、いっけな〜い!バイトの時間に遅れちゃう!急がなきゃっ!」
しかしおれが全部言いきる前に、くるみが腕時計を見て叫んだため、止められてしまった。
そういえば、くるみが腕時計をするのも珍しい。いつも時間がわかってないから何をするにも間に合うのかどうかわからず、いつもかけずり回っていたのだが…
そんな感じで探ろうとしていたことを見事にすっ飛ばされたおれだったが、今くるみから聞き捨てならないことを聞いたような気がした。
「ちょっと待てよ。バイトって…お前、働くのか!?」
そうなのだ。おれの知る限り、今までくるみがバイトに出るという話を聞いたことがなかったのだ。
くるみが突然さらりと流れるように言うものだから、おれもそのまま流してしまいそうになるところだった。
くるみがバイトをすると言い出すことは、実に珍しいのだ。自由に生きているような女だからな。何かに束縛されるのは嫌いなはずだが。
「だってバイトって働くものでしょ?」
「聞きたいのはそういうことじゃないっつの」
何も考えていなさそうなそのくるみの笑顔が、どうもイラつく。
「きゃはは、これも私の人柄の良さだよね〜一発で採用してくれたんだから!」
しかもおれの話をまともに聞いちゃいない。
こうなってしまったからにはどうせムキになって反論したとしても、きっと今のくるみだったらこの先も聞く耳持たないだろう。
おれは黙って話を合わせることにした。