Under20,Over20 14
心臓の音が更に高まってくる。
呼吸も止まってしまいそうなほど、息が苦しい。
風中に腕をつかまれているその部分だけ、焼けるように熱い。
『…何か言ってくれないの?』
おれの頭の中に、何度も繰り返される風中のその言葉…
それは単に風中がこの場の雰囲気に流されているのか、それとも万に1つの、ありえないと思っていた出来事が起こっているのか。
いきなり言われて混乱したおれがすぐさま答えを用意できるわけはなく、時の流れはようやく動いた気はするものの、再びお互いが何も話すことの出来ない状況になってしまう。
「とにかく…歩こうか」
せいぜい、おれにはこのくらいのことしか言うことができなかった。
風中が小さくうなずいたのが見えたので、おれは一歩を踏み出す。
今度は反動で戻されることなく、風中も素直におれの後ろをついてきた。
それから30分くらい歩いて、ようやくおれと風中は駅に着いた。
結局あれから話らしい話もしていないな…
おれは後悔をしていた。なんでさっき自分の気持ちを伝えられなかったのだろう、なんで気の利いたことの1つも言えなかったんだろう…と。
それは単にチャンスを逃してしまったという理由だけでなく、自分の答えをはっきり言っておけば、今までずっと悩んできた20歳への不安を拭い去ることのできるヒントを少しは見出せていたかもしれないと思うのだ。
まだ完全な答えが見えなくてもいい…いや、もとより完全な答えなどないのだ。
自分が一生懸命、何事にも全力でぶつかっていけば、おのずと答えに近づいてくる。そんな気がする。
100%そうだとは限らないかもしれないけど…今の自分にできることはそれくらいしかない!
「じゃあ…電車の方向逆だからここで…ごめんなさい、途中変なこと言ってしまって。それじゃ…」
この風中の言葉は、この日最後のチャンスの合図。そう思ったおれは、覚悟を決める。
「風中…ちょっと待ってくれ」
おれの言葉に、歩み出した風中の足が止まる。
「あのな…」
おれは一旦そこで言葉を切る。
ちょっとした緊張感からなのか、風中の顔をしっかりと見ていない自分に気づいたのだ。
こういうことは、面と向かって話さないと。いつまで経ってもこのままじゃ成長しないよな。
「何?空下君…」
聞き返してくる風中の表情は、なんとも言えないものだった。
困っているようにも見えて、でもそうではないような気がする。
憂いを帯びているようで、いやただほほえんでいるだけのようにも見える。
でも、どちらにしても呼びとめてしまったからには逃げることもできないんだよな…
風中の後ろでやわらかく輝いている満月は、スポットライトみたいにおれたちを包んでいるように感じる。
そんな心強い後押しを受けて、おれはようやく声を発することができた。
「明日…散歩にでも行かないか?公園にでも」
言った瞬間、おれはため息が漏れそうになりながらも必死に食いとめる。
この期に及んでこれかよ…それぐらいのことしか言えないのかよ…
ことごとく決断力のなさに腹が立ってくる。
ところが、救われたこともあった。
風中が、あの今日の授業中におれがあくびをしたところをちょうど振り返った時のように、おれの好きな笑った表情をして…
そして、しばらく間を置いた後…
こくりと1つ、うなずいたのだ。