Under20,Over20 9
「風中!?どうしてこんな時間に!」
すでに講義が終わってから1時間半は経っている。なのに、そこに風中が立っているのだ。
「ちょっと忘れ物をね。ところで空下君はまだ課題終わってないの?」
予想だにしていなかったことに戸惑うおれをよそに、風中は至って普通に、まわりに人がいる時と同じような顔をしている。
「う…やっぱり聞かれたか。ひねくれて言えばあともうちょいで終わるな」
「何それ。じゃあひねくれて言わなければ?」
「全然終わらね〜!風中、手伝ってくれ〜!」
おれは、わざとオーバーリアクションをして、おどけた感じで言った。
朝は、まだ意識しないようにして平静を保ってはいた。しかし今の教室で2人きりという状態となっては、照れるばかりで会話さえまともにできないと思う。
だからこそ今は逆に自分から盛り上げていかないと。
会話が止まったらどうするんだ、と言ったようなことを考えそうで。
それに、今から風中が手伝ってくれるはずがない。こんなに遅いのに、わざわざ他人の課題のために残るなんてことは普通はしない。というか、おれだったらまずありえない。
「…ふふ、じゃあ手伝ってあげようか?」
「え、マジで?」
しかし風中は、おれの考えを見事に覆した。予想と反して快諾までされてしまったことに、拍子抜けさえした。
「はいこれ。今日の課題で私が提出したレポート。これがないと参考にできないと思って」
「おお。サンキュ」
なんだか気持ち悪いくらいに用意がよすぎるように思うが、きっとそれはおれの気のせいなのだろう。
しかし、そんなことよりもおれには気になることがあった。
「ところでこれ…なんでコピーなんだ?」
「えっ、そ、それは…」
風中が言葉に詰まる。
そうなのだ。文字のかすれ具合にしろ、レポート用紙らしからぬ紙質の厚さ…これはどう見たってコピーだ。
もともと印刷されたように見えるくらいに綺麗な字を書く風中だが、その差は歴然。間違いない。
考えるようなしぐさを見せる風中。困った顔を見ることなどなかなかないので貴重な体験をしているような感じ。
しかしその時間も束の間、風中がもっともらしいことを答えはじめた。
「そ、そう!パソコンでバックアップを取るのと一緒で、私リポートを書いたらコピーを取っておくの。何かあった時でもすぐに代わりを用意できるでしょう?」
「ふ、ふーん。そうなのか…」
いくらなんでも、おれだって今の風中の言葉がウソだってことくらいわかっている。
しかし今のおれには、風中に追及できるほどの心の余裕も、そして聞くような度胸も、なかった。
これ以上風中を困らせたくなかったのだ。