Under20,Over20 7
 
 
 この大学には、学食というものがない。
 だからそのかわりとも言える購買スペースが、いつも昼時になるとごった返すことになる。
 ごった返すというのがどのくらいなのかというと、そのスペース内に人が限界までつまったところで、まだ外で待たなければいけないほどのものなのだ。
 大学は5階建てなのだが、極端にここだけ狭い。もっと広げてくれないものだろうか。
 とにかくそんなこともあって、おれと直樹は授業が終わるなり廊下やら階段やらをダッシュして、速攻でゲットしたカップラーメンを、息があがりながらも教室に持ちかえってきたのだった。
 大きく深呼吸して一段落したところで、なぜか教室に置いてあるポットのお湯をそそぎ、おれらは3分たつのを待っていた。
「くっくっく…それにしても、『わかりません』か…あれには笑ったな」
 おれはその言葉にため息をついた。
 結局、あの状態では話を聞いていなかったのはもはやバレバレのことであったため、ただでさえ増やされた課題の上に、さらに今日の授業の内容をまとめたレポートを書くことを、余儀なくされたのだ。
「ったく、よく笑い話にしてくれるぜ。こっちはそのおかげで大変だって言うのに…」
「それは自業自得というものだ。おれには関係のないことだよな?」
 確かに、そう言われると何も返す言葉がないな…
 ここまでやることが膨らんでしまったからには仕方がない。これは当初に考えていた通り、本当に今日は学校に残ってやっていくしかないようだぞ。
「おっ、ラーメンできあがる時間だな。じゃあ食おうぜ…」
 おれの苦労を知らずにそう言い出した直樹だったが、何はなくとも、とりあえずメシを食わなければ戦はできず…か。おとなしくその言葉に従った。
 だが直樹はその後、突然あたりを見回しはじめたと思うと、ラーメンのフタも開けずに口を開いた。
「と、言いたいところだが。ちょっと用を思い出した。悪い、席外させてもらうわ」
「あ、ああ…わかった」
 なんだかよくわからないが、おれは直樹のその勢いから二つ返事で承諾してしまった。
 よくよく考えればカップラーメンを持ち出してまで今からやらなければならないことなど、そうあるわけがないのだが、その時のおれはそのことに気づかずにいた。
「聞いたよ〜、授業中に寝てて先生に当てられた時にわけわかんないこと言ってたんだって?」
「げ、くるみっ!?」
 そう…おれが振り返ったそこには、くるみがおれの重要な秘密事をつかんだかのようにあやしい笑顔を浮かべながら仁王立ちをしていたのだ。
「へへ、後ろで立ち聞きしちゃったんだ。だって永野くんの声が大きかったんだもん。お兄ちゃんもバカだよね〜余計に課題増やされちゃって」
「うっせ、ほっとけ」
 つまり直樹はくるみの姿を見つけて、自分が大声でしゃべっていたことを追求されるのを恐れて逃げたというところか。
 まったく、あいつの危機回避能力には恐れ入るものがあるな。
 …単に自分が鈍いだけってウワサもあるが。
「で、今度はどんな妄想をしてたわけ?」
「それはな…っておい!妄想ってなんだよ、妄想って!」
「きゃはは、お兄ちゃんっておもしろいね!」
「乗せたお前が悪い!」
 まったく、会話しだしてから1分も経っていないというのに疲れを出してくれるなんて、そうできることじゃないぞ。ある意味くるみの芸当はすごいものなのかもしれない。
 でもくるみの言うことが100%違うのかって言うと、認めたくはないがそうでもないというのがタチの悪いところだ。おかげで反論もできやしない。
「ふ〜〜〜ん」
 そんな中、くるみがおれの顔を見て、うんうんとうなずきながら妙な納得をしていた。
「なんだよ、くるみ。何か言いたいことでもあるのか?」
「ううん、べっつに〜。ま、お兄ちゃんも複雑な年頃ってわけだ」
 おれは「はあ?」と、くるみの言った言葉の意味がさっぱりわからず、素で返してしまった。
しかしおれの疑問に聞く耳持たず、くるみの言動はさらに一方的なものになっていく。
「何か手伝うようなことがあったら言ってね、協力したげるから。きゃはは、じゃあね〜」
 なんて奴だ。一方的に話してまたそのまま逃げやがった。
 それにしても忙しい奴だな、あいつ。あんなに時間に追われて、いったい何をしてるんだか。
「…ああっ、そうだラーメン!」
 おれは目の前にあるカップの存在に改めて気づき、慌ててフタをはがした。
 危うく、ラーメンの存在を忘れるところだった。