Under20,Over20 3
 
 
「おはよう、風中さん」
 先に口を開いたのは直樹のほうだった。
「よ、よお…風中」
 おれも続けて挨拶を交わすが、なんとなくどもってしまう。その『なんとなく』に当てはあるんだけど、あえて今の自分には意識させない。
 意識させると、ロクなことにならないと思うからだ。
 まあ、すでに意識しているようなものだけどさ。
「2人で何を話してたの〜?」
「いやね、今さあ…」
 直樹が口を開きはじめる。
 しかし、おれはそれをさせまいと直樹の靴の上を風中に見えないように机に隠れたところで踏みつけた。
「いてっ!」
「ん?どうしたの?」
 風中はその様子に当然のごとく疑問を抱きはじめているようだ。
「いやいや、何でもないんだ。な、直樹。ははは…」
 足を踏みつけられた…というかおれが踏みつけたんだが、その当の本人はそんなに痛かったのか口を開け閉めするだけで声が出ていない。
 おれにとっては好都合。結果オーライというところだ。
 今のくるみとの話を下手に彼女には聞かせたくなかった。
 おれの目の前にいる女性…名前は風中里美。
 今日も丁寧に手入れしてきたのだろう、黒くてやわらかそうな肩の下くらいまで伸びているストレートなロングヘアーが彼女のわずかな動きに敏感に反応して揺れている。
 もちろん成績もおれとは天と地との差…まあ、自分のあまりの悪さに比較対象にもならないのだが。
 おれの憧れであり、そしてまた心に秘めた想いを持っている相手の人でもある。
 だから、いくらいとこであれ、別の女性とのやりとりとかを知られたくないのだ。
 特に今日のことは、変に取って誤解されては困る。
 幸い直樹との会話は、今しがた風中が入ってきたため聞いてないはずだ。
 できるだけ長く話していたいが、いつ直樹が復活して何を言うかわからない。おれは早めにこの会話を切り上げることに決めた。
「ところで…そうだ、今日の課題はやってきた?」
 そうなのだ。今日の授業には前回に出された課題がある。
 そう言っておきながら自分はやっていなかったりするのだが、もし風中も同じだったらきっと早く席について最後のあがきをしたいと思うだろう。
 しかし、成績が天と地との差であることを、おれがその時把握していなかったのがミスだった。
「うん、大丈夫だけど?あ、もしかして空下君やってないの?」
 う。逆に返されてしまった。
「あ、その顔は図星?じゃあ最後のあがき、私の参考にしながらやってみる?」
 なんか、ことごとくおれが考えていた計画がそのまま自分に反映されているような。
 しかし、参考にしたいのも確かではある。
 …いや、だからといって最初からそのつもりで言ったわけじゃないぞ。ホントに。
「ごめん。じゃあ借りるわ。授業始まる前に返すから風中は自分の用意していたら?」
 我ながら自然な流れだと思う。これで素直に風中が自分の席に行ってくれれば、それでおれの目的は完了することになる。
 しかしやはり、おれのシナリオ通りにコトが進むわけがなかった。
「ううん、いい」
 はっきりと、否定されてしまった。
「どうして?」
 そうおれが聞いた時、なんだか正体不明なイヤな予感というものが体中を駆け巡っているのに気づいた。
「ちょっと聞きたいことがあって」
 その言葉で、仮定から少しづつ確信に近づいていく。
「今日の朝ね…」
 まさか。
「くるみちゃんに翻弄されていたの、空下君だよね」
 完敗。
 おれはイスに大きく反り返り、その勢いで後ろに倒れそうになってしまった。