Under20,Over20 1
雪と言うものは、どうしてこんなにもはかなげなのだろうか。
街行く人々を魅了する白い結晶。
しかし、落ちては消え、すぐにただの水に戻ってしまう。
たとえ消えずに積み重なってしまったとしても、いつかは消えてしまう。
まるで、大人になる人間が、子供だったころをすべて洗い流されてしまうように…
「…なんてな」
おれ…空下修一は空を見上げ歩きながら、いつもの自分に似合わないことを考えてしまったことに苦笑いしていた。
いったん慣れないことをしてしまうと、体中に電気が走ったような気がするから不思議だ。その証拠に鳥肌まで立ちはじめている。
まあ、寒いからなのかもしれないけどね。そういうことにしておこう、うん。
そんな自己満足の世界に入りはじめたおれの隣で、明らかに蔑んだ目であきれたような声を出す女がいた。
「何が『なんてな』なのよ、いきなり。気持ち悪〜い」
予想はしていたものの、なんてむかつくことを言い出すんだ、こいつは。
「バーカ。たまにはいろんなこと考えたくなるんだよ、男にはな。くるみにはわかんないだろうけどな」
ちなみにこいつの名前は空下くるみ。今のような悪態は日常茶飯事で、たまにグサッとくるようなことを言い出すような、おれが今まで見た中で最も苦手とする女。
あと、名前を見て気づくと思うが…そう、おれとくるみは親族なのだ。
と言っても妹だというわけじゃない。まあ、おれも認めたくはないが。
くるみはおれの父親の兄弟の子供。要するに、いとこ。
家も一緒なわけではない。なのにどうしてこういう風に一緒に歩いているかというと、くるみの住んでいる家とおれの住んでいる家はおれが生まれる前から隣同士。おまけに学校まで一緒なのだ。冗談じゃないが。
いとこであり、幼馴染みでもある…この上なく最悪な状況だ。
つまり、おれとくるみは今、この雪の降るクソ寒い中を歩いて学校に向かっているというわけ。
…って、さっきまで違う意味で寒いことを考えてたし、余計に冬の風が冷たく感じる。つまりはおれのせいでもあるってことだな。あんまり冬の朝のせいにしないことにしよう。
と、突然くるみがおれの方をずっと見ていることに気づいた。
「なんだよ、くるみ。なんか言いたいことがあんのか、おい?」
「へぇ、『いろんなことを考えたくなる』か〜。ふ〜ん…」
するとくるみはぷっと吹き出しながらおれに地獄へ突き落とされるほどの宣告をされた。
「…ハタチになることがそんなに不安なわけ?」
「うぐっ!な、なんでお前それを…」
さすがくるみの得意技だ。さっそく痛いトコつきやがった…
まさかバレるとは思っていなかったので、正直驚いた。
「あ、やっぱりそうだったんだ。なんか最近ボーッとすること多いしね〜もうすぐ20歳の誕生日だから、もしかしてそうじゃないかな〜って」
そう、もうすぐやってくる誕生日…クリスマスイブの12月24日。その日についにおれは10代ではなくなってしまうのだ。
20歳になってからできることもあるだろうけど、まだやり足りないことだってある。
しかし、よく見破ったな…こいつ。
「そ、そう思うんだったら少しは遠慮しろよな。ったく…」
「や〜い、オジサンオジサン!」
どことなくうれしそうな表情で言ってるし…
こ、こいつは…どこまで人を小馬鹿にするつもりなんだ?
言われるばかりでは割に合わない。おれも多少抵抗を試みてみる。
「なんだよ、ガキなお前には言われたくないな」
「なによ、それ。私19だし〜、今が旬のピッチピチなんだから!あ、もしかしてエンコーだと思われるかも…困っちゃうね、お兄ちゃん!」
「…お前、言ってて恥ずかしくないか?それにお兄ちゃんと呼ぶのはいいかげんやめろ」
くるみはおれのことを「お兄ちゃん」と呼ぶ。それは子供の頃から言われていたことだったが、もういい加減にやめて欲しいところだった。
「え?でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだし〜それとも、私が妹みたいに見えるからイヤ?そうだよね、妹とは結婚できないもんね〜」
「お、お前なあ。誰と誰が結婚できないって?…あっ、こら待て!」
くるみがすでに走り出していた。自分でも少し言いすぎたと自覚したのだろう。
「きゃー、デートだけって約束なのに!襲われる〜!」
…いや、そういうわけではないらしい。
って、そんな落ちついている場合なのか、おれ?
「バ、バカ!往来で冗談が過ぎるぞ!」
まったく、ホントに手のつけられない奴…