おしえて、恋のイロハ。
Final Teach おしえて、恋のイロハ。

 
 
 吐く息が電灯の白い明かりに照らされて、張り詰めるような冷たい空気に溶け込んでいく。
 私がこの数年間、幾度となく座っていた公園のベンチ。夜に来るのはたぶん初めてで、いつものように静かなのももちろんだけれど、何も見えないところもあるくらい暗いのに、不思議とどこか幻想的なものを感じた。
 私の目の表面に浮かぶ、また油断するとこぼれ落ちそうなフィルターを通しているからなのかもしれない。
 1つ1つの小さな明かりは十字を描いて、輝いていた。
 私の隣には、1人の男の人がいる。
 卒業式が終わってもまだ卒業できていないこと…私の気持ちに卒業できる最後のチャンスが、今ここにある。
 
「木下先輩…えへへ、伝えたいことがあるんだよ」
 
 なるべく重くならないように。いつもの私が出せるように。
 隣にいる…そう、木下先輩に伝えなければいけないことがある。
 
 
「無理するなよ。顔に出てる」
 頭の中に繰り返される、その言葉。
 私が竹内くんに好きだと伝えた直後に言われた、メッセージ。
 
 きっと、竹内くんは私以上に私のことを分かってくれていたんだ。
 他の人に気を遣って、自分自身の気持ちを押し殺していた私を…
 
「だから、嬉しいけど…ごめん、その気持ちに応えることはできない」
 告白されて、それを受け入れたはずが断られる…でもそれは、思えば当然の結果だったんだ。
 私はその言葉を聞いた時には、もう顔を見ることができなくなっていた。どんなに私は竹内くんにひどいことをしているのか…よくわかっているつもりでも、きっとそれ以上に辛い思いをさせてしまっているはずで。
「そんな辛そうな顔すんな。こっちが辛い」
 最後のその泣きそうでいて悲しそうにも見える顔だけは、私の目に焼きついた。
 
 
(ごめんね、竹内くん…)
 私がその顔を思い返しながら、もう一度心の中で謝っていると。
「こっちからも言いたいことがあって」
 勢いに乗せて想いを伝えようとしたのに、それをさえぎられてしまうほどの木下先輩の言葉が飛び込んできた。
「さっき、飯倉さんに会ってきた」
 もしかしたら私が勢いに乗せようとしたのは、このことを聞きたくなかったからかもしれない。
 全身が固まって動けなくなる。息ができなくなりそうになる。
 そうだよね…私が想いを伝えたところで、既にこのみ先輩のことを受け入れていたら…
 想像したくはなかったけれど、それは現実として向き合わないといけない。
 そう、わかっていても…
「へぇ、そうなんだぁ…何を話してきたの?」
「ふられてきた」
 それはもう、あまりにも自然に言われるものだから。私は危うくおめでとうと言いそうになる口を引っ込めた。
「…えっ?」
 驚くことしかできなくて。後に続く言葉が思いつかなくて。
「他の人を見ていることが分かって辛いって言われた」
 まさか私と同じことが起こっているとは思わなくて…
「だからさ」
「待って」
 たぶん今から言われようとしていること…先に言われるより、自分から言いたい。
「好きだよ、木下先輩」
 それは、何も飾ることなんてなく。
 本当の想いを、ありのままの自分で伝えられて。
 少しずつ、ゆっくりと。心の芯から温まる感覚で埋めつくされていく。
「…ありがとう、かなめ」
 木下先輩がはじめて、私のことを名前で呼んでくれる。
 私には充分すぎる、返事の代わりだった。
 
 ずっとすれ違ってばかりで。
 ずっと気持ちを聞けなくて。
 ずっと誰かに遠慮していて。
 
 そんな私たちだったけれど、最後にちゃんとこうやって通じ合うことができた。
 今だけじゃなくてこの先も、気持ちを変えずにいたい。
 今度こそ、想いが別々の場所にいってしまわないように。
 そうならないように、これからは彼と一緒に、1つ1つ。
 
 おしえて、恋のイロハ。
 
 

          

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