おしえて。 --Teach.11
 
 
 ずっと後を追っていた。
 ずっと一緒に、ずっと誰よりも同じ時間を過ごしていたはずだった。
 だけど、それも今日で終わってしまう。
 センパイが、高校を卒業してしまう…
 
「卒業、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
 どこか落ち着かないように、センパイは私と目を合わせてくれない。
 その理由を、私は知っている。
「これから…返事を聞きに行くんですよね」
「そうだな。緊張するけど…でも」
 センパイはそこで一旦間を置いたかと思うと、私の頭の上に温かい感触をもたらす。
 それは、センパイの大きな手。
 今の私が、してもらって嬉しいこと…センパイもそれを知っているので、私をほめる時には必ずこうしてくれるようになっていた。
 だけど、今はその温かさが切なくも感じる。
「告白までこぎつけられたのは君のおかげだから」
「うまくいくといいですね」
「ああ、まあ、そうだな」
 でもなぜか、うまくいくことを願うと反応が薄い。
 聞くたびに、本当に私がしたことは正しかったのかと考えてしまう。
 私はセンパイの幸せを願っていたのに。自分の気持ちを押し殺してまで応援していたのに。
 応援なんてしなくていい、とセンパイが言っていたことを思い出す。だから大きなお世話だったのかもしれないけど…
「じゃあ、行ってくるよ」
 そう言って、センパイは私に背を向ける。
 その後ろ姿に、私は不安を感じた。
 うまくいったとしても、センパイが変わってしまうなんてありえないとは思っている。そういう人だということは知っている。だけど、そう言い聞かせてみても、やっぱり言いようの無い不安だけが膨らんでいく。
 それでも、私は引き止めなかった。…違う、引き止めるような勇気がなかったのかもしれないと思った。
「はい、いい報告待ってます…」
 そのセンパイの背中に、私の思っていることとは正反対の言葉をかけながら。
 
 それから私はどうしていただろう。
 このままにしておきたくない、だけど何もできないという身動きの取れない感じ…
 じっとしていることができなくて、とにかく何も考えずに歩き回っていたのだろう。気がついてみると、近所ではかなり大きめの公園にたどりついていた。
 真っ暗やみの中をぽつぽつと、この黒い世界に吸い込まれてしまいそうなほどに輝く光。それはまるで私の心の中を映しているよう。
 だからなのか、あまり怖さを感じることなく公園の中に入っていた。
 そこで見つけた、ある人影。
「あれは…」
 センパイが告白した相手がいる。
 そしてその隣には、違う男性が…
「そんな…」
 さっきから言葉が出てこない。出てきてもほんの一言、それもほとんど意味を成さないことばかり。
「なんで…」
 目の前の光景は、実際には私が望んでいたことだったのかもしれない。だけどどこか、信じられない。
 ずっと遠くから見ていたので、その2人には気付かれていないみたいで…きっと草陰が私の存在を隠してくれているのだと思う。
 見てはいけないものを見てしまったような気がして。
 そしてセンパイと次会った時にどうすればいいのか、今から心配してしまって。
 とてもこの場にずっといることはできなさそうだった。
 
 まさかそうして立ち去った直後、公園の出口でセンパイに会ってしまうことになるとは思いもよらず。
 
「あっ、センパイ…こんばんは」
「ああ、こんばんは」
 センパイはそれ以上何も言わない。言いたくないのかもしれない。だけど、私は黙っていることができずに直接聞いてしまっていた。
「ど、どうだったんですか…?」
「今の僕が1人でいるってことで察してくれ。それにしても…」
 センパイが公園の中の方に目を向けた。
「幸せそうな顔してて、よかった」
 その時、全てを言われなくともよく分かった。
 センパイは、さっき私が目の当たりにした光景を見ていたのだと。
「なんで…」
 さっきまでのようなほんの一言の言葉が、また私の口から出る。でも今度は、その後が続いて止められなかった。
「なんでそんなことされなきゃいけないの!だってせっかく告白したっていうのに!」
「い、いや、落ち着けって」
 センパイが私を止めようとする。だけど、それを拒否している私がいる。
 自分のため?センパイのため?それさえもわからないほど頭が混乱している。
「落ち着けない!私の方がずっとセンパイのこと好きなのに!」
 私の目に、どんどん涙がたまっていくのがわかった。一緒に今まで押し殺していた感情がむき出しになっていく。
「告白されたのになんですぐに違う人のところにいけるの?おかしいよ…センパイの気持ちも全然知らないで!」
 それはこれまでの我慢の裏返し。こんなことをセンパイに言うのはますます傷を広げることだってわかっていても。でも、言わずにいられなかった。
「わかったから、落ち着け」
 センパイの手が、私の頭の上に。
「あ…」
 私はその顔を見上げる形になって…そして、笑顔をくれる。
 センパイはずるい。こうすると私が何もできないのを知っているのに。
「僕が、そう仕向けたんだ」
 でも、センパイの話は私の考えていたこととは違っていて…
 言い切ったセンパイのその顔は、どこかすがすがしく、それでいて影を落としているようにも見えた。
「もともと好きな人が別にいるということは知っていたから。できれば応援したいと思っていた。告白したのはフェイクのつもりだったんだ。だけどな」
 私の頭の手の力が、少し強くなったような気がした。
「本当は好きだったのかもしれないって、今気付いたんだ。だから、彼女が悪いなんて考えないでくれ。全て僕のタイミングが悪かっただけの話」
「でも…」
 私がそれでも否定しようとすると、彼の言葉がさえぎる。
「ありがとう」
「え…」
「好きだって言ってくれて」
 突然顔が痛いとさえ思えるほどに熱くなってくる。
 そうだ、勢い余って言ってしまったことを忘れていた。
 でも、センパイがここまで言ってくれたこと。それを受けてる私も逃げることなんて今さらしない。
「そうですよ、まだまだセンパイはモテモテです。その証拠に私がいるんですから」
 言ってしまえば、もう照れなんてすでになくて。
 顔だけでおさまっていたのが、今度は体中が熱くなっていくのを感じていたけど…
 その熱さも、春が近くなっていくのを感じさせる風が冷ましてくれていた。
 
 もうすぐ春がやってくる。
 私にとっても、センパイにとっても今までの関係と違った新しい季節。
 いったい、これから私たちの関係はどうなるのだろう?
 
 それは誰にもわからない、私自身もわからない。
 でもきっと、それはこれからちゃんとおしえてくれる。
 
 そんなことを、センパイの顔を見ながら。風に揺れる木々を見ながら。春の予感を全身で受け止めながら…期待いっぱいに思う。
 
 だから、私だけでなく全ての恋する女の子に。
 
 春のおとずれを、おしえて。
 
 

          

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