おしえて。 --Teach.7
 
 
 わたしとあなたは、もう3年の付き合いになる。
 付き合いといっても、友達としてじゃない。お互いに想い合うことができたあの日。
 
「好きだよ」
 あなたがそう言ってくれた日から。
 あなたのことはよく知ってる。緊張した時には言葉が少なくなって、大事なことを言う時は必ずシンプルなものになるの。
 でも言葉なんて少しだけでいい。それまでの友達としての付き合いの全てが、この一言に詰め込められているのが伝わった。
 だからその時は、わたしもつられて一言だけ。
「うん、私も好き」
 たった一言だけ言い合っただけなのに、なんだか照れくさくなってしまったりして。
 とてもあなたの顔を見ることさえできなくて、うつむいたりしていた。
 
 わたしとあなたの付き合いは3年と言ったけれど、今日はちょうどその想い合うことができた日。
 お互いに仕事が忙しくてなかなか会えなかったけど、なんとか都合をつけて夜のデート。
 ただあなたと今日会うことになった時に『記念だから』といった言葉は入れていない。あなたの言葉にも入っていない。
 忘れているわけではなくて、言わないだけ。わたしたちの暗黙のルールだった。
「寒いね」
 港の見える公園の欄干に2人寄り添って、わたしは息を大きく吐く。
 白い結晶がわたしの視界を覆う。あなたの息と交じり合って、港から輝く光がダイヤモンドが反射するようなきらめきのように見えた。
「ああ」
 腰に手を回されたかと思うと、わたしはあなたの体に吸い寄せられるように引っ張られる。
 本当は密着している側しかあたたかみは感じないはずなのに、心からあたたまるようで。
「しばらくこうしていたいね」
「そうだな」
 あなたの言葉はわたしの返事ばかり。だけど、それがあなたの最大の優しさだと知っているから。
 わたしは抵抗することもなくあなたの腕に頭をくっつけた。
 そのままわたしもあなたも何も言わずに、ただただ時間が過ぎていくのを感じる。
 決してこの時間はムダじゃない。あなたがそばにいるだけで心は落ち着くし、疲れも取れていく。
 波の音が素敵なBGMに聞こえる。色々なものに包まれて、今のわたしはすごく幸せだと思えた。
「わたしたち、だいぶ長く付き合ってきたね」
 思い返すと、たくさんの思い出がある。デートもたくさんしたし、ケンカもしたし。
「浮気の疑いを持たれた時は困ったけどな」
 そう、わたしは一度あなたを疑ったことがあったんだっけ。
 浮気のことは結局、ただの友達だった女の子が彼に何をプレゼントすればいいのか相談していただけという、やけにありがちなパターンだったけど。
 それでも焦ってしまうほど、あなたのことが好きだったから。
「ごめんね」
「いや」
 きっと、あなたの言葉の少なさで損するのはそういうところ。付き合っているわたしでさえも戸惑うようなこと、誤解してしまうことをあなたはしてしまうんだよね。
 でも、もうあなたのことはちゃんとわかっているつもり。きっと、これから先も。
 だけどちょっと意地悪をしてみた。本当はわたしがそんなこと言うのは間違ってるのに。
「なんか、怒ってるように見える」
「そうか?」
「あの時もちゃんと謝ったのにそんな顔してた」
「どうしてほしいんだ」
「うーん…じゃあなんかひとつ、して欲しいことあったら言って」
「じゃあ」
 少しくらい悩むかと思ったら、あなたは何も躊躇せずに。
「結婚しよう」
 3年前と変わらないあなた。わたしたちには一番大切な言葉まで、シンプルな言葉で片付けてしまう。
 というか、今度ばかりは言葉がシンプルというだけで済んでいないよ。なんでこんな突然なの。全然心構えなんてできていないのに。
 意地悪したつもりが、わたしの方が返り討ちにされてしまった。あなたにはかなわないな。
 だけどこれで文句を言うほど、わたしがあなたのことを理解していないと思っていたら大間違いなんだから。わたしはあなたに動揺を見せないように気をつけながら。
「うん、私も結婚したい」
 たった一言だけ言い合うわたしたち。あの時と同じ照れくささを感じるけれど、今度はしっかりと向き合う。
 ここがゴールなのではなく、むしろスタートだと分かっているから。
 
 今までは恋することの幸せをいっぱい教わった。
 だから今度は。
 
 愛する幸せを、おしえて。
 
 

          

「おしえて。」の雑記はコチラ/感想等もありましたらコチラへ
※新しいウインドウで、管理人ブログのこの小説の記事に飛びます。