MILD RETURNS 2/嫌いじゃないよ
「んー、さわやかな風、お日さまポカポカいい天気、気持ち良いねー」
海のように広い草原の中、寝そべっている僕の前で、背中を向けている女の子が手を広げている。
髪がふわふわ、スカートがゆらゆら。
秋だというのに春を思わせるような風が、その女の子を魅力的に演出している。
僕はその姿を、ただ何も思うことなく見ていた。
「ねえ、タケルもそう思わない?」
その女の子は僕の方を振り向きながら、僕の名前を呼んだ。
「嫌いじゃないよ。ショウコがそう思うなら、気持ち良いんだろうな」
僕もまた、その女の子の名前を呼び、今の気分を正直に答えた。
「また、そればっかり」
どうやら僕の「嫌いじゃない」という言葉は口癖らしい。ショウコがわかりやすく、口をとがらせていた。
別に、自覚してそんなこと言っているわけじゃないんだけどな。
僕とショウコの関係は、友達以上恋人未満と言える。
使い古された言葉かもしれないけど、それ以外に表現できる言葉がないのだから仕方ないと思う。
2人で出かけることもたびたびある。今日も突然、
「いい天気だよー涼しい風も吹いてるよー出かけようよー」
電話の向こう側から、催眠術をかけようとしているんじゃないかと思えてくるほど単調なショウコの言葉を聞かされて、ここまでかりだされている。
でも逆に、僕にとってはこれはチャンスとも思えた。
友達以上恋人未満のこの関係を壊すための…
ショウコはまだ口をとがらせながら、僕の方を見ていた。
「どうして寝転がっているままなの?昼寝しているサラリーマンみたい」
「別に昼寝しているサラリーマンに悪いところはないぞ」
「そんなことを言ってるわけじゃなくって…」
「楽しみ方は人それぞれだぞ」
「そうやって寝転がっているのが?」
「まあ、嫌いじゃないな」
「あっ、また言ったぁ」
「それよりも、そんな格好で突っ立ってると見えるぞ」
「あっ、ごまかしたぁ…っ!」
ショウコの言葉が途中で途切れる。
僕が警告をした通りショウコのスカートの中に風が入り込んで、めくれかかっていた。
なんとかショウコが両手で押さえ込んで結局見えはしなかったが、その姿を見てさすがに、自分の心臓の動きが早まるのが自覚できるほどの動揺はした。
「だから言ったじゃないか」
言った直後だったのは驚いたが予言どおりになったので、その動揺を見破られないようにと思いつつ、ショウコに言った。
「べっ、別にタケルなら見えてもいいもんっ」
見上げたショウコの顔が、その向こうの空の青さも手伝って、余計に赤く染まっているのがわかった。
「じゃあなんでスカート押さえてるんだよ、言ってることがムチャクチャだぞ」
「うー…」
ショウコはしばらく、何も言えないようだった。ちょっと意地悪が過ぎたかもしれない。
「じゃ、じゃあ私のそんな姿、見たいと思うの?私のこと、どう思ってるのよ」
しかし思いがけないチャンスは、急に転がり込んできた。
まさか、こんな会話からきっかけがつかめるとは。
ここしかない、覚悟を決めるのは今しかない、と思った。
「ショウコのことは…スキだよ」
大きな青い空を見ながらの本音。あえてショウコの方を向かなかった。
本当は目を見て話さないといけないことだろうけど、あまりにもいきなりな覚悟の決め方だったので、そこまで気を回せる状態ではなかった。
風が1回僕たちの間を通り過ぎるほどの時間の沈黙があった。
「んー、私は…」
まだろくにショウコの方を見ることができないまま、声だけが聞こえてきた。
「嫌いじゃない、かな」
僕はその言葉に、上半身を起こしてショウコの方を見た。
「えへへ、まねしてみた」
そこにあるのは、いつもと変わらないショウコの笑顔だった。
「ああ、そうですか」
はぐらされたな、と、僕は再び草のベッドに身を預けた。
まあ、これでよかったのかもしれないな、と思いながら。
とりあえず悪い結果にはならなかったことに安心した僕は、大の字になって伸びをしながら、目をつぶった。
目をつぶっていてもわかる、太陽の光。
それがしばらくして、暗くなった。
ショウコが、いたずらでもしようとしているのか…?
僕はひっかからまいと、目を開けて、体を起こそうとした。
しかし、思うように起き上がれない。
体の上に、心地よい重みがあった。
体というよりは、ある一部分。
唇だった。
気付いてみれば、寝そべっている僕の隣にショウコがいた。
僕と同じように大きく手足を伸ばして、僕を見ていた。
「タケルがスキだって言うくらいなんだから、大好きってことだよね?」
ショウコが、風にかき消されそうなほどの声で言った。
僕は聞き返そうとしたけれど。
「んー、タケルのように寝そべっているのもいい感じだねー」
また、はぐらかされてしまった。
(今回の小説の解説?はこちら)