アイドル・パニック!3 -Love Declaration-
「それにしても…なんであの時、あそこにいたんだろう…」
私は自分の部屋の中で、鏡を相手に3カ月前のクリスマスの日を思い出していた。
私の職業は、テレビに出ること。一般的にアイドルと呼ばれる仕事をしている。
少ない貴重なオフの日の一日、私は一緒に仕事をしている人におすすめの喫茶店を教えてもらって、一人で向かっていた。
そうしたら、道に迷ってしまって…
その時、助けてくれた男の人がいた。
私のことを知っていて、それでも普通に接してくれた彼は、自分にとって大切な存在になった。
そしてクリスマスの夜、生放送の番組を終えて、その後勇気を出してその喫茶店に誘ってみたらOKが出て。
その生放送で歌った歌のプレゼントもしたっけ。
私の気持ちを思い切り込めた歌詞だったけれど、彼は気づいてくれなかった。
でも最近、それは気づいてもらえなかっただけじゃないような思いがある。
それが…
「あの時喫茶店にいたってことは、最初から歌番組の生放送は見ないつもりだったってことだよね…」
少しだけ跳ねていた髪の毛を手グシで整えて、そのままベッドに腰掛けて力を抜いた。
そう。私としては彼がテレビを見ていなかったおかげで、彼の目の前で歌をプレゼントできたけど。
彼はどうなんだろう。放送の日はちゃんとメールしておいたし、忘れていたということはないはずで。
でも、クリスマスに会ったとき「生放送があることは途中でわかったけど」と言っていた。
…やっぱり、忘れていただけ?それとも…
もちろん、彼の彼女でもないし、あまり会うこともできないから単なるメル友みたいなものなのかもしれないけれど。
一つ大きくため息をついたそのちょうどのタイミング。メールの着信音が聞こえた。
もしかして…!と思った。彼のことを考えているときに来るメールは、たいてい彼のものだったから。
「この前教えた喫茶店、よかったでしょ!でさでさ、今日行かない?お互いオフだし!」
だけど期待して開いたメールは彼からではなく、そもそもこの人がいなければ何も始まらなかった人物…あの喫茶店を教えてくれた仕事仲間の子だった。
「うん、いいよ。今家にいるから…着くのはだいたい1時間くらい後かな」
いくら考えたとしても、今日この日に彼から誘いがあるというわけではないし。
出会うきっかけをもらったわけだし…と、わざわざ理由をつける必要もないんだけど、私はその約束を受けて喫茶店に向かった。
「あー!ここ、ここ!」
全てが個室で、落ち着ける雰囲気の喫茶店も、彼女にかかると少し様子が違ってくる。
とにかく明るくて、どんな空気の時でも彼女にかかればすぐに自分の色に染めてしまう。
一歩間違えばうるさいだけになるだけだけど、彼女自身コントロールしているのか、あまりそう思うことはなかった。
「待たせちゃった?」
「ううん、ぜーんぜん!あ、もうあなたの分も頼んどいたよ。ホットティーミルク2つ、でしょ?」
「え?う、うん…」
私は、来て早々戸惑った。教えてもらったこの店だけど、一緒に来たことは今まで無かったし、私がいつも何を頼んでいるのかという話をしたことはないはず。
ミルクティーだって、いつも飲んでいるわけじゃなくて、ここのがおいしいから頼んでいるだけなのに。
「しかしねー、あの新曲あんなに売れるとは思わなかったなあ」
そんな私の疑問を断ち切るように、彼女が話し出していた。
「うん、そうだね…」
クリスマスの日に初めて歌った新曲。彼への想いをたっぷり詰めたその曲は、ミリオンまでにはさすがにならないものの、それなりには売れていた。
「曲発表したのは…クリスマスの日だっけ?私は別スタジオにいたからねー、聴きたかったなあ。初めて歌う姿」
「やめてよ、恥ずかしいから」
「よく気持ちがこもった歌だと思うよ。うん、上出来上出来」
彼女には、すでにこの喫茶店を舞台にした今までの私の想いを話してあった。
それ以来、このようにからかわれるようになって…でも、それほど気分は悪くなかった。
「お待たせしました、ホットミルクティー、ミルク2つです」
一通りからかわれたあと、すでに注文してあったミルクティーが運ばれてきた。
そうだ。なんで私がこれをいつも頼むことを知っているのか、まだ聞いてなかったっけ。
お店の人と仲がいいのかな?と思いつつも、聞いてみようと口を開こうとした。
すると、今度は喫茶店の扉にくくりつけてあるベルの音に、動きを止められた。
タイミングもタイミングだったので、その方向を見やっていると…
それは、私にダブルの驚きをもたらすものだった。
「あ…」
意識して出そうとはいなかったはずなのに、声が漏れた。
店に入ってきたのは、今日の朝から考えていたあの彼だったから。
やっぱり、彼のことを考えていると何かしら接点ができるのかもしれないなぁ…
とゆっくり考えていたときに起こったもう一つの驚きは、そんなことを静かに考えていられる余裕を持たせることなく…
「あっ、兄貴!ここだよ、こーこ!」
思わぬところから来た彼を呼ぶ声に、今度は声を漏らすことも叫ぶこともできず、ただただその呼んだ人を見ることしかできなかった。
その声を出したのは、今まで目の前で私と話していた、この喫茶店を紹介した彼女だったのだから。
「まったく、その甲高い声どうにかなら…うっ!」
私と彼の視線が、合った。
「ちょっと待て…なんでこんなことになってる」
しばらくそのまま固まっていた彼は、ふと目をそらして、彼女に問い詰めはじめた。
「え?別に2人でお茶しようなんて言ってないし。それにほら、今をときめくアイドル2人に囲まれるなんて、めったにないことだよ?」
「まったく…」
仕方ないと言った感じで、彼が彼女の隣に座る。
「さて、改めて紹介しようかな。私の兄貴。最初に喫茶店に行くって言ってたとき、どーせあなたのことだから道に迷うと思って派遣したの」
ダブルの驚きは、今トリプルに変わった。
ようやく、声が出せた。
「それって…最初から私を案内するつもりで…」
「そ。私はその日オフじゃなかったからね、間近で見られるなんて滅多にないよー?って兄貴を説得したわけ。で、それだけで終わると思っていたら、なんか面白いことになっているじゃなーい?」
しばらく言葉の意味をつかめずにいた私は、気づいた時にはとんでもなく大きな問題があることを悟った。
「あ…っ!」
「クリスマスの日は、私の番組のスタジオにいたからあなたのほうに行けなかったわけ。だから安心して。で、あの歌は…」
「きゃあああっ!もうわかったってばっ!」
そうだ…この話は全て彼女に話していて…
「不思議だと思わなかった?なんで私があなたのこの店で頼むメニュー知ってたんだろうって。それはね、兄貴がいつも話…」
「うっ!そ、それはいいだろう?話さなくても…」
今度は、彼が焦っているようだった。
「別にいいじゃない。相手が相手だからって手の届かない存在なんて考えちゃダメだって。聞いてよ、アプローチに気づかないふりをしてたんだってー、そんなの迷惑なだけだよねー!」
それって…今までそっけなく見えたあの彼の態度は、すべて気づいてて…
最初、喫茶店にたどり着いたときも「こんなところにあったんだ」なんて、知っているくせにわざと言った、という話も聞いて…
そういえば、そんなことを言っていたかもしれない。あの時から、もう始まっていたんだ…
「まあ、そんなわけでさ。2人は何の障害もないってわけ。あーあ、うらやましいなあ。じゃあ、私はこれで…」
言いたいことだけ言って去ろうとする彼女に向かって、私は叫んでいた。
「こらぁっ!」
その瞬間私は、彼と顔を見合わせた。
声が出たのが、同じタイミングだった。
「あはは、息ピッタリー」
その言葉には、お互い何も言えずにただ苦笑いすることしかできなかった。
でも、これでわかったことがある。
彼が私に何の興味もなかったわけではなかったこと…
こうして彼と向き合っていれば、いつか真正面から受けとめてくれるかな。
それがいつになるかはわからないけど…
でも、私は焦らない。手の届かない存在なんて私は思っていないし、そのうちそんなことを思わせないくらいに気持ちをぶつけようって。
だから、覚悟していてよね。
私は彼を見つめながら、その目に向かって宣戦布告した。