ONE NIGHT MAGIC 
 
 
「はじめまして、えっと…今日は、た、楽しんでいきたいと思いますので、よろしくおねがいしますっ!」
 一斉に鳴り響く拍手の中、私は一人焦りながら、回りに聞こえないように隣の人物に小声で話しかけた。
「ね、ねえ…こんなの聞いてない…」
「あたりまえだよ、言わなかったもん」
 私たち女性3人の目の前には、3人の男の人。
 今日はクリスマスイブ。お互い彼氏彼女のいない同士、みんなで騒ごうって言われて、断れずにここまで来ちゃって…
 一応、合コンって言葉は知っている。そういうふうになることは私も覚悟していた。
 だけど、まさか…
「なんで、私の好きな人が来てるのよぉ…」
「どうせだからさ、より楽しめるほうがいいじゃない?だから、呼んだの。でもよかったね。クリスマスイブにここ来てるってことは、彼女がいないって証拠だよ?チャンスだよ、うん」
「そ、そんな!か、勝手にそんな話進めないで…」
 ずっと、今まで一方的に見ていた人が、今は私の目の前で笑っている。よりによって、私の真正面。
「だから、先に言っておいたでしょ?いつもの引っ込み思案な性格だしてると楽しめないよって」
 私も、そう言われてたから確かに最初の挨拶では少しがんばってみた。だけど、彼の前でこの調子がいつまで続くかわからない。
 だって、その時も彼の視線を感じてところどころ声がつっかえてたし…
「だめだめ、そんな弱気になっちゃ。クリスマスイブのこの日に彼と急接近!なんて、いい響きじゃない」
「ねえ、面白がってない…?」
「そ、そんなわけないじゃないの!おほほ…」
 今の一言があまりにもわざとらしくて、私は何も言えなくなった。それでも変わらないのは、顔を上げたときの彼の視線。
 その瞬間、目が合った。
「ん、どうしたの」
 彼の声が、確かに私の方に向かってくる。
「ほらほら、会話しないと」
 隣でやっぱり面白がるように、私の腕に人差し指でつっついてくる。
「え、あ、なんでもないんです、あはは…」
 言われていた通り、ここでいつもの私を出したら、きっと彼に嫌われてしまう。
 私は、また無理をしていた。
 
「さてと、そろそろお開きにしようかな」
「おいおい、もう終わりかよ」
「か弱い女の子をこれ以上引き留めてなにするって言うの?やらしー」
「誰がか弱いって…?」
 私の隣の女の子と、その正面にいる男の人のやりとりが息ピッタリで、私よりもそっちはどうなの…って言おうとしたけど。
 なんか、私にも同じ質問が返ってきそうな気がして…
 だから言えずにやりとりを見ていた。
 それが、まさかこんなことになるなんて…
「まあ、私はともかくとして、か弱い女の子はここにいるからね」
 彼女がそう言って、私を指さしたのが、その始まりで。
「えっ…えっ?」
 何も言えずにいた私に、彼女が微笑んでいる…ように見えた。
 その表情を、私は知っている。何かを考えついたときの顔…
「そうだ!そこの彼、送っていってあげなよ。確か一緒の方向だからね」
 すごく驚いたときって、本当に声が出なくなるものなんだ。
 息が止まって、何も言い返せなかった。
 そう、次に彼女が指をさした先は、私の正面の人に向けられていたから…
 
「ごめんなさい、本当に送ってもらえるなんて…」
 半分冗談だと思っていたのに、今私の隣には彼がいる。それだけでも緊張しているのに、2人きりで話していることが信じられなくて。
 話すこともままならないけれど、会話が途切れてしまうのが怖い。気まずい雰囲気だけには絶対なりたくない。
「いや、いいんだよ。本当に近くだからさ。それにけっこう遅いしね、もう責任重大だよ。家まで送らないとあとでひどい目見るな、これは」
「そ、そんな!そこまでしなくたっていいですよっ!」
 そして、私の性格。今の私は、本当の自分を偽って彼に向かっている。すごく無理してる。
 本当の自分を出していたら、彼はどう思うんだろう。こうやって送ってもくれなかったのかな。嫌だな…
「それにしても、けっこう明るい性格だったんだな。驚いたよ」
 彼の言葉が、今考えていたこととシンクロして、私は凍り付いた。
「えっ、どういう意味…?」
 なんとも返せなくて、途切れそうになった会話をムリヤリおうむ返しにつなげた。
「いや、いつもあのさっき君の隣にいた彼女と一緒にいるところ見てるとさ、おとなしそうな感じだったから。意外だなって思って」
 彼が私のことを前から知っていた…その驚きを通り越して、私は胸が痛くなっていた。
 
 彼は、普段の私を知っている…
 そして今の自分は、嘘の私。
 目をつぶって、少し考えてみて…
 やっぱり、このままじゃだめ、と思った。
 
 私は、一つの街灯の下で、足を止めた。
「ん、どうしたの?」
 あとで変にばれて嫌われるより、今本当の自分を出して後悔したほうが、ずっとずっといい…
「私、嘘ついてたの。今日の私は無理してる私で…本当の私は、あなたが見たときの私。本当は明るくもなんともなくて…あはは、笑っちゃうよね、今日限定の性格なんて」
 不思議と、言葉を積み重ねるたびに胸のつかえが取れていく。
 全て言い終わったとき、私の一晩だけの魔法は解ける。
 だけど魔法が解けた後も、まだ少しだけ…
「そっか、それじゃ余計ちゃんと送っていってあげないと」
 彼をぼんやり照らしている白い光は、穏やかそうな表情を映し出していた。