クリスマス・プレゼント 
 
 
「あーっ、終わったあ!」
 きっかり18時30分。我ながらいつも終業時刻ぴったりに仕事を終わらせられることに驚きというか、都合よすぎというか…
 とにかく今日も無事、普段通りに1オフィスレディーとして果たすべき職務を終わらせたわけだ。
 そう、ここまではいつも通り。
 ただ1つ、違っているのは…
 
 今日は、クリスマスだということ。
 
 私は女子校に通っていたせいか、男の人と接したことがほとんどない。だから今まで、「クリスマスといったら彼氏と過ごすこと」ということに縁が無かった。
 意識はしていても気持ちだけが焦るばかりで、結局クリスマスまで何もできなくて…
 気がつけば21回目のクリスマス。同期の人たちも「用事がある」と言って、終業時間ちょうどにさっそうと帰っていってしまった。
 …私だけが、取り残された気分だった。
「帰ろう…っと」
 誰もいなくなった室内の電気を消して、私は外に出た。
 
 今年の私は、がんばっていたつもりだった。
 会社帰りにあるコンビニに何回も通っているうちに、仲良くなっていった男の店員さん…
 最初はそれこそ営業スマイルだった彼だったけれど、通うたびにどちらからともなく声をかけるようになっていった。
 私はその人のことを次第に好きになっていった。
 彼女がいるかどうかの確認さえすることもできなくて、なんて弱虫なんだろうと自分の恋の経験の無さを呪ったりしたけれど。
 ついに昨日、私は決意して…
「こっ、これ受け取ってください!待ってますからっ!」
 私が渡したのは、携帯電話の電話番号。
 本当は彼の番号と交換したかったけれど、勢いのあまりそのまま逃げ帰ってしまった。
 
 …それが、つい昨日のこと。
 今思うと恥ずかしいことをしたような気がする。
「ほとんど告白みたいなものじゃない…やだもう…」
 人通りの多い通りを、1人でつぶやきながら歩いていく。
 左右を見渡してみるとさすがクリスマスなだけあって、カップルだらけ。
 私より年下のカップルとすれ違ったりすると、悔しい気持ちでいっぱいになる。
「電話…来るわけないか」
 1年前くらいに買った背中に液晶もついていない2つ折りの携帯電話は、まったくメロディーを奏でずにいた。
 当然かもしれない。あんな勝手な告白を受け入れてくれるわけないし、なにより彼にも、きっと彼女がいるはずだし…
 涙があふれそうになるのをぐっとこらえて、カップルたちをできるだけ見ないようにしながら先を急いだ。
「もう…知らないんだから」
 強がりを言って、ふと顔を上げる。
 …そこは、私の恋が始まった場所。
 もう限界だ。
 私は地面の冷たさも気にならないまま座り込んだ。
 今ここで、1つの恋が終わるんだ…
 
 感じる。地面の冷たさ…
 と、頬に当たる温かな感触…
 
「え…」
 顔を上げる。しばらく声が出なかった。
「メリークリスマス。ようやく見つけたよ」
 2本の缶コーヒーを手に持って、私にその内の1本を差し出している彼の姿…
「な、なんでどうして…携帯電話にだってかけてくれなかったのに…」
 私がわけもわからないまま彼に尋ねると、
「つながらなかったんだよ。だまされたかと思ったけど…そうじゃなくてよかった」
 そんなことはない。だって何度も紙に写すときに確認したし、番号を間違えているなんてこと、ない…
 私は慌てて携帯電話を取り出して、ふたを開いた…時、私は驚愕した。
「画面が、消えてる…」
 電池切れ…?
「ごっ、ごめんなさい!」
 もう恥の上塗りみたいな感じで、すごく情けない…昨日確認しなかったのはもとより、なぜ今まで画面を見ようとしなかったんだろう。
「あっはははは…そうだったのか。でも、そんなそそっかしいところも…」
「え?」
「いやなんでもない。よし、じゃあこんな寒いところで申し訳ないけどクリスマスパーティー、やるかっ!」
 申し訳ない、なんてことない。
 せっかく電話してくれたのに、そのつながらなかった理由が私の携帯電話の電池切れだったということにも怒らなかった。
 それになにより、それでも私を信じて探してくれたこと…
 どんなに豪華なディナーよりも。
 どんなに高価な物よりも。
「ううん…最高のクリスマスプレゼント、ありがとう!」
 たった2本の缶コーヒーだけの、見た目が質素なクリスマスでも。
 
「メリー・クリスマス!」
 一度消えかけた恋、またこのコンビニからはじまる。