成人式
雪の降っていたあの日を、何度も思い返す。
思い返す度に、後悔の2文字がよぎっていく。
なぜあの時、僕はなにもできなかったのか…?
その日から離れ離れになることはわかっていたはずなのに、どうしてもその一歩を踏み出すことができなかった。
「さて、今日で君たちは高校を卒業するわけだが、ここからは自分の足で歩いていていかなければならないわけであって…」
堅苦しい先生の挨拶など、もはや耳に届いていなかった。
そう、3年間想い続けていたあの女の子に告白するために…
「これで、最後のHRを終わります」
その言葉を言われた瞬間、僕の背筋に寒気が走った。
いよいよ、言わなければならない。想いを告げなくてはならない。
そう、決心していたはずだったのに。
「ね〜、一緒にかえろ?」
あの女の子にかかる、友人らしき女の子の声。
「う、うん…わかった。最後の日だもんね…一緒に帰ろうか」
今思えば、あの時だって呼び止めるのは容易なことだったかもしれない。
だけど僕はそれがどうしてもできなかった。
一世一代の勇気を使ったつもりなのに、何もすることができなかった。
それが僕の2年前の後悔。いまだにぬぐいきれていない。
そして、今。
あの時の学生服に身を包んでいた僕は、今度はスーツを身にまとって、ほんの少し大人になっていた。
今日は2002年1月13日。成人式だ。
成人を迎えるのは、もちろん嬉しかった。だけどそれ以上に嬉しいことは、またあの女の子に再会できること。
「さて、今日から君たちは成人となるわけですが、これからはどんな苦難も乗り越えていかなければならないわけであって…」
いつか聞いたような市長のスピーチも、やはり耳に入ってこない。
考えているのは、あの子のことだけ。
もちろん、来ているかどうかはわからない。
だけど、もし今日偶然にも会えたならば…想いを伝えたい。
あれから2年も経っているから、当然あの子にだって彼氏の1人はできていても不思議ではないだろう。
だけど、そんなことなど関係なかった。
あの日の後悔を晴らすためにも、僕はどうしても会って話したいんだ。
成人式が終わる。会場がざわめき、思い思いに高校の時のクラスメートと話す姿とかが見える。
そんな中をかきわけて、僕はひたすらあの子の姿を探した。
そして、会場の出口の方にたたずんでいる、着物姿の女の子。
間違いない、あの子だ。
着物姿の彼女は、高校の時よりずっと綺麗になっていた。僕のような見かけだけのものと違って、着物に着せられているのではなく、完璧に着こなしている。
髪飾りをあてているからか、ものすごく大人っぽく見えた。
そんな彼女にかかる、ひとつの声。
「あ、ここにいたんだ!ね、一緒に帰らない?」
一瞬、言葉を失った。2年前のあの日のことが、頭の中をかすめる。
まるっきりあの時と同じじゃないか。
だけど、今回はたじろいでいる場合じゃない。あの時の僕とは違うんだ。
今回を逃したら、絶対に次はない。そう思った瞬間、僕はその女の子の方に向かって走り出していた。
ところがその瞬間、僕の行動以外にもうひとつ、あの時と違うことが起こった。
「ごめんね、ちょっと私、用事があるんだ…」
「えっ…!?」
僕は足が止まってしまった。
その女の子の視線の先は…僕の方を見ていた。
「久しぶりだね…」
まっすぐに見つめてくる落ち着いた目に、僕はさらに戸惑う。
「私、あの日と同じになってしまうのがイヤだったから…だから、今度こそはって思ってた」
そう…2年前のあの日、僕らはまったく同じことを考えていたのだ。
「私たち、もう子供じゃなくなってしまったけど…今までの分、取り戻せるかな?」
2年間は長かったけれど、それだけ気持ちを温めることができたのだから、きっと取り戻せる。
そう信じて…僕たちの成人式は、新たな日々の第1歩となった。