Happy Year 
 
 
「もう!あんたなんか大ッキライ!」
「上等だよ!お前みたいな女、こっちから別れてやるよ!」
 本当に、ささいなことだった。
 きっと、仲直りできると思っていた。いつものように…
 俺たちはいつもそうやって、お互いの事を知ってきた。
 だけど、今回ばかりは違っていた。
 電話越しに聞こえるのは、相手の呼び出し音のみ…
 ベタな展開だ、と言われたらそれまでかもしれない。
 俺だって今まで、こんなことが実際あるわけがないと思っていた。
 だけど、これは現実なんだ。
 
 気がつくと、お互いに目が合っても避けていた…
 
 早く謝りたい。謝っていつもの2人に戻りたい。
 そんな苦しい思いを、半月も続けてきた。
 
 時は、いつの間にかお正月。
 彼女との仲直りもできずに年は明け、まぶしい太陽もただ気分を沈ませるだけでしかない。
 その時に鳴った、1本の電話があった。
 まさかあいつがかけてきてくれたのかと期待して出てみると、相手は単なる俺の女友達だった。
「こんばんは〜!元気にしてる?」
「なんだ…おまえかよ。どうした?」
「おまえとはお言葉ね〜ま、いっか。用事っていうのはね、初詣に行かないかってことなの」
 正直、気分は乗らなかった。
 だけど、このままブルーな気持ちのまま正月を過ごしてなんかいると、この1年が思いやられてしまうのも、また言えていることだった。
「わかった…どこで待ち合わせるんだ?」
 俺は、その誘いを受けることにした。
 
「あ、こっちこっち!」
 その子は、晴れ着の姿で小さく飛び跳ねていた。
「さ、行こうよ!」
 目の前に着くなり、俺の言葉も待たず手を取って歩き出す。
 今までの彼女では考えられないことだ。新鮮だった。
 初詣といっても、この神社ではお祭りに近い。
 露店とか普通に出ていて、まあこういう時でしか稼ぐチャンスがないんだろうなあとか思いつつ、人ごみをかきわけながらなんとか賽銭箱の前にやってくる。
「ねえねえ、何お願いする?」
「願いか…そうだなあ」
 
『あいつと仲直りできますように…』
 誰にも言えないそんな願いを、俺はしていた。
 
「えへへ、私500円も入れちゃった!素敵な彼氏ができますように…ってね!」
「そっか…叶うといいよな」
 そう言いながら、俺は何をやっているんだろうと思う。
 彼女の言う『素敵な彼氏』とやらに、俺はなっていない。
 あいつを傷つけて、なおかつ今もこうして他の女友達と会っているなんて…
 それでいて願いは仲直り、か…
 最悪だな、俺も。
 と、彼女に悟られないように横を向いてため息をつこうとした時だった。
 あいつの姿が、見えた。
 そして、隣で歩くスピードを合わせている男の存在も…
「どうしたの?」
「あ、いや…なんでもないよ」
 それはウソだ。なんでもないわけがなかった。表情に出さないように抑えるのが精一杯だ。
 こんなにも他の男といる姿を見ると、苦しい。
 しかし自分の今していることも、あいつと同じなのだ。
 もう、遅いのか…?何をやっても…
「なんでもないってことは…ないよね?」
 隣にいる彼女が、俺の胸を波打たせた。
「今見てたの…彼女でしょ?最低な彼氏になる前に、早く行ってあげなよ」
 ね?と、彼女は俺の顔を覗き込んだ。
 それで俺は、決心がついた。
 この人ごみでは探し出すのも難しいかもしれない。
 それにまだ、あの男の隣に肩を並べているだろう。
 だけど俺は、今まで最低な行動を取っていた分、それだけのプレッシャーは負わなければいけない。
 そう考えた瞬間、足は勝手に走り出していた。
 
 初詣客のいる中で神社の境内を駆けずり回るのは、並大抵のことではなかった。
 でも今会えなければ、きっとこのままこの後も引きずってしまう。
 昼間とはいえ1月のこの寒さ、そのはずなのに俺の額にはじんわりと汗がふき出してきているのがわかる。
 それは走ったことによる汗なのか、焦りからきている冷汗なのか、それはわからない。
 とにかく会いたい。会って話をしたい。
 ただその一心で、俺はあいつを探していた。
 そして、人ごみから外れた木陰にふと目をやると…
 あいつは、いた。
 すぐにあいつは俺に気付き、こちらを向いたと思ったら、また目をそむけられてしまった。
「何しにきたの?」
 久しぶりにあいつの声を聞いたが、自分の覚えているものよりも明らかに低い声で、俺に話し掛けてくる。
「いや…姿を見かけたから、挨拶しようと思ってな…」
 せっかく会えたというのに、ストレートに素直に言えない自分に腹が立つ。
「…何も言わないんだ」
 何が、と俺が聞くと、
「男の人と歩いていたこと。さっきまで一緒だったから…見てたんでしょ?」
「ああ、見てたよ。それで気付いたんだ…」
 不思議と、この時を境目に正直に俺は自分の気持ちを言えていた。
「今までどんなにひどいことをしていたんだと罪悪感を感じたよ。もしかして今までも気持ちをわかってやれなかった行動を取ってたんじゃないかってさ…今さらながら反省してるよ」
 俺の気持ちはこれで全てだ。しかしあいつは何も言う気配を見せない。
「は、はは…今さらそんなことを言ったってもう遅いんだよな。なんてったって俺は最低な彼氏になりつづけてたんだからな」
 これはこれで仕方のないことだ。全て俺が悪い。そう思い込まなければ、後腐れなく終わることができなかった。
「じゃあな、またどっかで…」
 と、歩を進めようとした時だった。
 あいつは、立ち上がって走り出し、俺の腕を引いた。
 同時に差し出された、1枚のハガキ。
「読んでみて」
 久しぶりの笑顔と共に、渡されたそのハガキには…
『あけましておめでとう。今年は2人でなかよく過ごしたいな。だから…この前のことはごめんね。私も悪かったと思ってるから…仲直りしてください』
「は、はは…」
「ごめんね、意地張っちゃって…」
 俺たちは、見事仲直りしたのだった。
 それもこれも、今日付き合ってくれた彼女のおかげだ。彼女にもお礼をしなきゃな…
 と、思った瞬間だった。
「えへへ、こんにちは」
「よう、また会ったな」
 とある腕を組んでいるカップルが声をかけてきた時、俺だけならぬ今改めて彼女になったこいつまでが、声を大きく上げていた。
「え?あーっ!!」
 さっきまで付き合ってくれた彼女と、こいつの隣にいたさっきの男だった。
「ど、どういうことだ?」
 いや、考えなくてもわかる。2人で声を出したということは、そういう意味でしかこの出来事は説明できない。
「ダブルデートしようか、『素敵な彼氏』さん!」
 今年もこいつと一緒にいられる、いい年になることを祈って…
 ただそうなるためには俺自身も努力をしなければいけないのだ、と自分に言い聞かせていた。