MILD 36
ENDLESS LOVE

 12月31日。はれ。
 明日は、いよいよ年賀状を配る日。
 女の子が郵便配達をするなんてやっぱりおかしいかな。確かに、他の人たちはみんな男の人だけど…
 でも、辛いことなんて何もない。
 毎日、あの人に会えるなら。
 
 1年間ずっと抱いてきた気持ちは、私の中でどんどん膨らんでいく。
 だから私は、自分の手で年賀状を届けたい。
 他の人たちの幸せと一緒に…
 
 例えば雨の日、とある家の軒下であまやどりをして、そこが偶然クラスメイトの女の子の家だったり。
 好きだった先輩には実はすごく似ている姉妹で、言われて初めて気付いた男の人がいたり。
 バレンタインの日、チョコを渡そうとして見てしまった女の人が、実はお姉さんだったり。
 子供の頃に一緒に遊んでいた女の子を思い出して久々にその街に戻ってみたら不思議な体験をしたり。
 ケンカして、その時はっきりと気付いた気持ちがあって、友達の助けも借りて…いろんな力が2人を結びつけたり。
 電車の中で寄り掛かってきた女の子がいて、幸せと焦りが葛藤して複雑な気持ちになったり。
 桜の木の下で、人の幸せを願うあまりに、自分だけが苦い思いをしたり。
 いつも競争してばかりだけど、そうすることで一緒にいたかった、って告白をされたり。
 同窓会で、昔に好きだった人のことを忘れなければいけなくなったり。
 誕生日、毎年祝ってくれる人が、引っ越した後でも来てくれたり。
 梅雨の日、お互いに窓の外を見ていると思っていたら、実は2人ともお互いの姿を見ていたとわかって嬉しくなったり。
 傘を持たずに走っていく女の子を見かねて入れようとしたら、泣いているとわかってどうしていいのかわからなくなったり。
 背伸びして髪染めて、でもそんなことってあまり関係ないのかな、と思ってみたり。
 人を信じていなかったけど、だまそうと近寄ってきた子が本当はまた会いたかったと言ってくれて、信じる気持ちを教えてくれたり。
 はりきって浴衣なんて着てみたのに誉めてくれなくて、でもそれは単純に照れくさかっただけだって知ったり。
 満員の電車の中で、気になっていた人に席を譲られて、せっかくお話するチャンスだって勇気を振り絞ってみたり。
 彼女に振られて、後輩の女の子に声をかけられて、一緒に遊んでいると彼女の顔が浮かんできて、罪悪感でいっぱいになったり。
 日記に告白したって未来のことを書いて、改めてそうなるようにがんばらなくちゃと気合いを入れてみたり。
 メールフレンドに恋の相談をして、でも実はその相手はそのメールフレンドだったり。
 だけど本当はその親友がそのメールフレンドで、2人の仲を取り持つために自分は身を引いていたなんて裏話があったり。
 電車の中で2人して同じことを考えて、お互いに考え事をしながら席についたら偶然同じ席になってびっくりしたり。
 1年前に貸したマフラーのことだけで転入魔でしてきた彼女に、驚きを隠せなかったり。
 甘いカップル達を見て嫌になっていたけど、一度経験してみると相手も含めて悪くはないかも、と思ってしまったり。
 待っている時間は辛いものだと思っていたけど、待つ人が大事な人なら、こんな時間も心地よく感じたり。
 いつもふざけあっていた2人だったけれど、それに甘えて相手の本心をずっと知らないままでいたことに後悔したり。
 いつも天の邪鬼な彼女で、自分の気持ちを素直に言わないけど、だからこそ伝わるものだってあるって感じたり。
 気になる男の人に電車の中で寄り掛かろうとして避けられてショックだったけど、でもそれは悪いと思っただけと聞いて安心できたり。
 小学生の時から2人にとってずっと思い入れのある木に、想いが通じて少しだけ大人になった自分たちを見守ってもらったり。
 
 そして、私。
 
 たまにはすれ違ったって、すぐにいっぱいの愛で、包み込んで。
 ふとしたことでケンカしたって、お互いの気持ちが離れてなければ、すぐに仲直りできる。
 辛くて悲しいことがあっても、もちろん嬉しかったり想いが通じ合う時も。
 みんな、素敵な物語。
 大事なのは1つ1つの思い出が2人の仲を深めていくものなんだって、私は思ってる。
 たとえうまくいかなくたって、それもやっぱり思い出の1つだって、そう信じてる。
 だけどやっぱり私は、これからも彼と一緒に思い出を積み重ねていきたい。
 この1年間にも、どこかの誰かがこんな気持ちになっているんだって思うと、私も負けられないって思えるから。
 郵便局の自転車のかごには、私の書いた年賀状。
 そして、もう1枚…
 渡しそびれた、去年の年賀状。
 その最後の1文には、1年前の字だけど、今の私と同じ気持ちが書かれている。
 渡したら、彼はどんな風に思うのかな。
 そんなことを考えて、ドキドキして。
「年賀状、まっさきに届けるから楽しみにしててね!」
 それはもちろん、去年の年賀状を渡すこと。
 
 だけどその年賀状が渡せなくなってしまったのは、また後の話。
 だって彼のほうが、1年前と同じで、また私より先に…
 
 こんなこと、あまり現実にはないかもしれない。
 こんなこと、他人から見たらできすぎた話だって思うかもしれない。
 私だって、この日々がずっと続いていくって100パーセント言い切れない。
 だけど今、この瞬間があるから幸せだって、そう胸を張って言えるから。
 だから、今このちょっとだけの時間も、忘れられない思い出にしていこう。
 
 
 
 −そうそれは、ホンの小さな、恋の、物語−