MILD 31
WAITING TIME

 
 
 それは、ぽっかりと心に穴が空いてしまったときのような、風の冷たさが堪える日のこと。
 僕はある女の子と待ち合わせをしていた。
 しかし僕は、その日に限って寝坊をしてしまい、予定の時間から大きく遅れてしまったのだった。
「ごめん、寝坊してしまって…」
 すでに彼女に悪いことをしているというのに、ここで嘘などついたら良心が痛む。正直に真実を言って、後は怒られるなりされてもいいという覚悟でいた。
 しかし彼女は、怒るばかりか少し笑いかけているようにも見えた。
 まったくもって逆の行動をされて、僕が疑問に思っていると、彼女が一言だけ、それに対する答えを言った。
「あのね、待っているのも楽しいものなんだよ」
 僕はその時、その言葉の意味がまったくわからなかった。何も周りにおもしろいものがあるわけでもなく、ただ奇妙なモニュメントが存在するだけの、ただの待ち合わせ場所。
 彼女がいつもそばにいたから、気付かなかったこと。
 
 そう、いなくなってから気付く。
 待っている時間も楽しみだという意味…
 その時の待ち合わせを最後に何も言わずに引っ越されて、これは何かの間違いだと、彼女の住んでいた家の前で立ち尽くしていたときに感じた思いは、確かに彼女の言葉の通りだった。
 どこかでまた戻ってくるかもしれないという期待が、自分の中にあった。
 しかし、結局彼女が僕の前に姿を現すことはなく…
 改めてこの時、自分にとっての彼女の存在の大きさに気付いた。
 
 
 あの思い出の奇妙なモニュメント前、待ち合わせ時間30分前。
 もう時間に遅れることはできない。いや、むしろ早く行きたがっていた。
 あの時とまったく変わっていない寒空の中でも、心が暖かくなる感じがして、寒ささえ感じない。
 あの時の彼女も、今の僕と同じ気持ちでいたのだろうか。
 彼女が久々に戻ってくる、そのニュースを本人の口から聞かされたとき、迷わず僕は待ち合わせの場所をここにした。
 彼女が引っ越したあの日の翌日、僕の家に電話が入り、「あまりにドタバタしていたから連絡できなかった」という言葉を聞いたとき腰を抜かしそうになったものだが、今回のこともそれ相応のことだった。
 二度とあんな失敗はしてはいけない。いや、できない。
 今日は特に、その気持ちが強かった。
 告白をしよう、そう決意した、不安な思いと、そして楽しみな感覚。
 まず彼女が来たら、「待っているのも楽しいものなんだよ」と言われたあの時のことを聞いてみよう、そんなことを考えていた。