MILD 30
SWEET APPROACH
「ね〜え、今日はドコ行く?」
「ん?いや、別にどこでも。お前が行きたいところがおれの行きたいところだし」
「きゃははっ、ホント〜!?じゃあねじゃあね、遊園地いきたいなっ!」
「わかったわかった、さ、行こうか」
「うんっ、えへへっ」
「まったく、何やってんだ…」
僕は彼らから一歩引いたところでその様子を見ていた。
冷める、というのはこんな感覚なのかと身をもって思う。本当は僕もあの2人がいるところで人と待ち合わせているのだが、見かねて逃げてきてしまった。
ああいうのを見ていると虫酸が走る。別にイチャつくのは一向に構わないのだが、あれだけ大っぴらに、腕を組んだり寄り添ったり、とても見ていて気持ちのいいものではない。
別にこれはひがみとかそういうわけでもなんでもなく、今のは反面教師として、自分はそうはなりたくはないと思った。
「こらぁっ!」
「うわっ!な、なんだよ脅かすなよ」
そこに現れたのは待ち合わせをしていた女友達。買い物に行くという約束を事前に…というよりは強制的にさせられていた。
「何よ、悪いのはキミでしょ?待ち合わせていた場所から中途半端に離れてるんだから。おかげでちょっと待たされちゃったじゃない!」
「ちょっとくらいだったら大目に見てくれたっていいじゃないか」
「よくな〜い!」
何をそんなにカリカリしているのかと正直に僕が尋ねてみると、
「あんな仲よさそうな2人のそばでいたたまれなかったんだよ?もう聞いてるだけで疲れちゃって」
なるほど納得できてしまう理由だった。
「なんだ、お前もそう思ったのか。僕も同意見だ。だからここまで逃げてきた」
「なにそれ、ひどくない?私が律儀に待ってたのがバカみたいじゃない」
「はいはい、さっさと買い物行こうぜ。待ちくたびれた」
「なっ、それはこっちの台詞よ!」
理論的に突き詰められたら僕が負けてしまうのはわかりきっていたので、彼女がまだ後ろからいろいろと言ってくるのも軽く聞き流しながら足を進めた。
と、誤魔化そうとしたのだが。
結局昼食をおごらされたばかりか、今日は普段付き合わされているより遥かに多く、ブティック、ファンシーショップ、化粧品売り場…男にはほぼ縁のない場所を一通り回らされてしまった。
おまけに当然と言わんばかりに荷物持ちまでさせられる始末だ。まだ片手で持ち切れる程度だったので良かったといえば良かったのだが。
「まったく、今日の仕打ちははひどすぎるわよ」
「まだ言うか。充分気は晴れただろ、もう許してくれって」
買い物も終わりごろになってくると、蓄積した疲れが一気に体を襲う。本気でもう勘弁してくれと思った。
「だめ、許さない」
思いたくもないが、前例からしてこれは本気の顔だというのが見て取れてしまった。
それを裏付けるかのごとく、僕の返事も待たずに続けて言った。
「そうだなあ、じゃあまず1つ質問!今日の朝のあの2人、ああいうのうらやましいと思ったわけ〜?」
抵抗のつもりで顔を背けながら歩いていたのだが、突然僕の前に出てきて、後ろ手に顔をのぞき込みながら聞いてきた。
「バカか、その逆だ。あんな風には自分はなりたくないね。恥ずかしいにもほどがある」
再び顔を背け淡々と答えたのだが、
「へぇ…本当かなぁ?」
本当だと言い返そうとしてもう一度向き直った時、口元が釣り上がっている表情が見えた。
まずい、これは何かを企んでいる顔だ、と反射的に離れようとした瞬間だった。
「へへ〜、逃げようとしても無駄よ。行動パターンなんてお見通しなんだから」
がっちりと彼女の両腕が、僕の空いている片腕をとらえていた。
「お前何やってるんだ、こういうの嫌いって今言ったばかりじゃ…」
「ね〜ぇ、これからどこ行くぅ?私、あなたが行きたいところだったらどこでもいいよ〜?」
更に気持ち悪い猫撫で声と、腕にすりよってくる仕草をしてくる。
「…くっ、そう来たか」
精神的ダメージ。彼女の魂胆が今わかった。
「何がぁ?せっかく2人っきりなんだし、時間がもったいないでしょぉ?」
その貴重な時間を今まで奪っていたのはどこのどいつだという反論も、言うと状況を悪化させるだけのような気がしたので、やめた。
「…とりあえずそのわざとらしい声だけはやめてくれ。もう充分に効いたよ」
実際にそう見てもらえたのか、自分でももうやめたいと思ったのかはわからないが、彼女は笑って声を戻した。
「あははは、確かにね。自分でも気持ち悪い感じ」
「まったく、よくやるよ…って、おい」
「なに?」
「この腕は離してくれないのか」
いまだに両腕で抱えられている僕の片腕を軽く振る。
「だって…気になる人にはこうしたいものだよ」
「えっ!?」
「し〜らないっ」
不覚にも、こういうのもアリなのかもしれない、と思った瞬間だった。