MILD 28
IN THE TRAIN -AUTUMN-

 
 
 いつも、僕が乗る駅を始発とした電車の中で見かける女の子がいる。
 高校の制服のスカートのすそからのびるきれいな足、丁寧に手入れしているのだろう、枝毛も無ければ跳ねてもいない黒髪。
 電車の中で彼女を見つめては、何事もなかったかのように同じ駅で降りる毎日。
 彼女とは一緒の高校なのだが、さすがに学校まで尾行するわけにもいかず、僕の一方通行のデートはそこまでで終わる。
 一目惚れというのだろうか。新学期になってもう1カ月以上、彼女に対する興味は日に日に増すばかりで、気持ちばかりが先行する自分がいた。
 しかし、気になることがある。
 この駅を始発としているこの電車、席はほとんど選び放題で、しかも降りる駅の出口との関係上、彼女とは近い位置にいるはずなのに、ただの1度も隣に座られたことがないのだ。
 だいたい僕のほうが電車に乗り込むのが先で、彼女を待つ格好になるのだが、気のせいか彼女が意識的に僕を避けて座っているようにさえ感じる。
 かといって僕がわざと後から来て彼女の隣に座るわけにもいかず、嫌われているのではないかと気が気でない日々を過ごしている。
「はぁ…どうにかなんないもんかな」
 そして今日も、何も進展しないままの1日の朝が始まるのだ。
 僕はそんな考えごとをしながら、電車の中の空いている座席についた。
 
 
「あーあ、昨日もあの人のとなり、空いていたのになぁ…」
 私は、ここのところ後悔ばかり残るようになっている毎日が続いていた。
 せっかくこの電車のいつもの席に座っていることを発見して、頑張って早起きして、同じ車両に乗っているのに。
 どうしても、彼のとなりに座れない。
 きっとドキドキしすぎて、彼に変に思われてしまう。
 だから、彼より先に私が座ることもできない。避けられたらって思うのもそうだし、心の準備だって…
 それでも彼がたまに遅くやってきて、とても緊張したことが何度もある。
 彼が違う席に座ると、内心ほっとするような、ちょっとさみしいような、複雑な気持ちになってしまう。
 今日こそ…って思っても、必ず彼のとなりに誰かがいて。
 ただとなりに座るというだけなのに、変だよね、私…
 別に、となりに座ったからって何か話せるわけでもないのに。
 だから今日も、臆病な私はいつもと同じ1日を過ごしてしまうのだろう。
 私は、ため息をつきながらいつもの電車の空いている席に座った。
 
 
 ストン、と腰が落ちる。
 そのタイミングは、同じだった。
「あっ…!」
 お互い、顔を見合わせて。
 お互い、言葉に詰まって。
 でも、思いがけない出来事が嬉しくて。
 きっかけは、こんなにも簡単に訪れる。
 
「いつも、この電車で一緒ですよね」
 
 電車のドアが閉まった時、今度こそ本当の2人のデートが始まった。
 そして、これから先もきっと毎日のようにデートができることをうすうすと感じていた。