MILD 23
PURE ENEAGY・2

 「センパーイ!こっちです、こっち!」
 無邪気に手を振って走り回る彼女に、僕は笑顔を作って返す。
 やっぱり元気だなあ、あの子は…とか、ちょっとオジサンくさいことを言ってみたり。
 ちなみに今いるここの場所は、遊園地。
 もちろん、女の子と2人きりで来ている。
 以前付き合っていた人と別れ、入れ替わるようにして現れた、部活の後輩の女の子。
 夕日に包まれる中で、彼女がこう言ったのを、僕はいまだに鮮明に思い描くことができる。
『センパイは今…フリーですか?』
 僕はその質問に答えられなかった。言ってしまうと、前の彼女と別れた、という現実を改めて認めてしまうことになってしまう気がして…
 いや…もちろん遅かれ早かれいつかは自分の中でけじめをつけなければならないことはわかっている。けれどそう簡単に割り切りたくない気持ちもあった。
 僕にとって、それほど大事な人だった。
 それなのに…いつから彼女とすれ違ってしまったのだろう。
 黙っている僕に言った、後輩の女の子の言葉…
『ねっ、センパイ!またデートしませんか?』
 そうして来た場所が、ここというわけだ。
 しかし、本当にこんなことをしていていいのだろうか…と、僕はふと考えていた。
 今目の前にいる女の子に、前の彼女を重ねている自分に気づく。
 ふっきるために彼女を利用しているみたいで…なんだかイヤだ。
「センパイっ!なにしんみりした顔してるんですか!まだまだ行きたいところがあるんですから、しっかりしてくださいっ!」
 何も知らない彼女は、僕の手をとり、走り出す。
「あっ、ちょっと待ってくれって!」
 彼女の手は暖かくて、やわらかい。…たまにはこういうのも悪くないか。
 僕に今必要なことは、息抜きなのかもしれないな。
 中途半端な気持ちでは、何もかも上手く行かない。今は彼女との時間を楽しむことにしよう。
 そう、思い込むことにした。
 彼女にはけっこう、救われているのかもしれない。
 
 
「今日も楽しかったです!センパイっ、付き合ってくれてありがとうございました!」
「いや、別に僕は何も…」
 逆に楽しませてくれたと言いたいくらいだ。…なんて言うとちょっと照れくさいからやめておくけど。
 と、その時だった。
 今まで笑顔をまったく崩していなかった彼女が、急に顔を曇らせ…今にも泣いてしまいそうな表情になったのだ。
「センパイは…どうだったんですか?」
 僕はその言葉に、突き刺さるものがあった。何かを感じ取ったゆえのその言葉なのだろう。彼女はおれの表情を見透かしていたのか?
 最初、僕はそう思っていた。ところが、彼女が察していたことは、これだけではなかったのだ。
「私…知ってるんです。センパイが…別れたこと」
 おれの体が、みるみる凍り付いていくのがわかった。
「最初はチャンスなんだと思ってました。だけどセンパイは、いつも私じゃない人を見てる…ううん、私を見ていても、そのもっと奥の方を見つめてる…そんな気がした」
 そして彼女は…よりによってここでいつもの元気いっぱいの笑顔を見せる。
 これは僕に対する何かのしるしのように見えた。
 いつも僕が支えてばかりだった彼女…いつのまにか僕は、支えてもらっていた。
 その気持ちが、伝わってきた。
「あ、あのさ…」
「待ってください、センパイ。その言葉は…後ろにいる人に言ってあげたほうがいいと思いますよ。がんばって、センパイ!」
「え?うしろ?」
 僕は後ろを振り向く…と。
 そこには、片時も忘れることのなかった…前の彼女の姿があった。
「そばにいなくなってから…初めて気付いたの。大切な人は、誰かって…。勝手かもしれないけど、私と、もう一度…」
 隣でほほえむ笑顔に見守られ…
 僕が正直な気持ちを言い出すまでに、時間がかかることはなかった。