MILD 19
SEA AND SUN

「私たちと一緒に遊びませんか?」
 それは一夏の、魅惑的なお誘いだった。
「え、ええっ!もちろん!」
 前にいたおれを突き飛ばして、後ろにいた連れがおれの答えを待たずに即決する。
 夏の海と空が、どうやら彼を刺激してしまったようだ。
 別におれだって…女の子に興味が無いわけじゃないけど…
 まだ自分の中で、どこか客観的に彼らを見てしまう、そんなところがあった。
「どうしたんですか?」
 目の前には、どうやらおれの相手らしい女の子が、どこか不安そうな顔をしてのぞいていた。
 おれの連れはというと…早いもので、もうどこかにいってしまったらしい。
「い、いや、別に…」
 ここは諦めてこの子の相手をしなくてはならない。おれはすぐにそう悟った。
「…私たちもどこか行きませんか?」
「あ、ああ…」
 おれは彼女に言われるがままに、海岸を歩き始めた。
 
 
「そうなんですか、ふふふ…」
 彼女は、とても明るくていい子だった。
 時々吹く潮風が彼女の髪をゆらす。
 そのたびにおれは…なんだか知らないけれど、ドキドキさせられていた。
「ひとつ聞きたいんだけど」
 おれは、彼女に問い掛ける。
「なんですか?」
「えっと…なんでおれらを誘ったわけ?」
 それは、今までずっと思っていたことだった。
 男はここにはいくらでもいる。わざわざおれらを誘わなくたって、他にも選択肢があったはずだ。
「そ、それは…えっと…」
 言いたくないことなのだろうか。
「…………」
 しばらく、沈黙が続いた。
「あ、言いたくないことなら言わなくてもいいんだ。ははは…」
 どうしてだろう?
 不思議と、彼女にいろいろ聞きたくなる。
 いつも、女の子と話している時は、こんなに深く探ろうとしないのに…
 なぜなら探れば探るほど、嫌なところが見えてきてしまうから…
 それが嫌で、今までずっと男女関係無く、深くかかわることを避けていた。
 今日だって、強引に海につれて来させられたのだ。連れだった彼も、それほど信用はしていない。
 人間不信。人はおれのような奴をそう呼ぶ。
「わ、私は…友達が逆ナンパってのをしようって言ったから、それにつられてつい…」
 彼女が遅い質問の答えを出す。
「そうなんだ。実はおれも似たようなもので…今日もそんな感じで海に連れて来させられたんだ」
「そうなんですか…」
「……………」
 再び沈黙。話が思うように続かない。
 おれらは、しばらくそうして照りつける太陽のもと、ゆっくりと歩きつづけていた。
 
 
「あーっ!いたいた!ねえねえ、ちょっとトイレ行って来ようよ!」
 気まずい雰囲気を崩したのは、彼女と一緒にいた、逆ナンパをしかけて来た子だった。
「う、うん…」
 彼女は、どこか従いたくない表情をして、ついていく。
 おれがなにも言えずに見送っていると、彼女は時折こちらをチラチラと見てくる。
 別にこれから別れるわけでもないのに…どうしてそんな不安そうな顔をするのだろう。
 と、そう思いながらいると…
「おい、やったぞ!あいつとなあ…キスしたんだよ!」
「………」
「この分だと、ひょっとするとひょっとするかも…おい、おまえはどうだった?」
「………」
 答える気にもなれなかった。
 そっか、やっぱりあの子もそういう子だったんだ…
 そう…おれが一番信じられないのが、こんな軽い男女のつきあいだ。
 今キスしたとか、これから先とか…
 だいたい、ナンパだっておれは嫌いなのだ。
 連れの子がそういうことをしたということは、彼女も当然そうだということになる。
 だから、女の子は嫌いなのだ。
 そしてそれは、数十分後に立証されることになった。
「…来ない!なんで来ないんだよ!」
 トイレに行っただけだったはずの彼女らが帰ってこない。
 連れの男が、我慢しきれずにわめきはじめていた。
 だから言ったんだ、女の子はこれだから信用できない…
「…だまされたんだな」
 最初からわかっていながらも、おれは決定的な一言を彼に浴びせる。
「は、ははは…そうだな。お互いにな」
 お互い?冗談じゃない。おれは最初からこうなると思っていた。
「帰るか」
 彼が、そう言い出した。
 同感だ。最初からおれだって来たくなかった。
 結局、今日もおれは、また一段と人間を信じられなくなっただけなのだ。
 ふう、とため息をついて、彼の後ろに続く…
 と、その時誰かにぶつかった。
「お、おい…なにやって…っ!」
 最初、それは連れの奴が急に止まったことによってぶつかっただけだと思っていた。
 だけど…それは違っていたのだ。
「よかった…なんとか会えました」
 そう…そこには、あの彼女が…!
「な、なんで…」
「一緒にいた彼女は、最初からだますつもりだったみたいだけど…私、そんなことしたくなかったから…」
「それって…」
 わざわざ…おれに会いに来たというのか?
「だから私、逃げてきました。ううん、逃げてきたんじゃない…あなたに会いたくて、しかたなかった…」
 どうやら、おれの人間を信じられない心は、これから少しずつ変わっていきそうだった。