MILD 17
RAINNING DANCE -SECOND WINDOW-

 梅雨の時の雨ほど、こんなにため息をつくことはない。
 毎日毎日中途半端に降り続け、いくら待とうが一向に止みそうにない雰囲気には、心臓に重りを乗せられたような感覚がするくらいに気が滅入ってくる。
 僕はそんな中、学校の出口で傘を開こうとしながらもためらい、再びため息をつく。
 でもなあ…どうせこれ以上ここで立ち止まっていたって同じ結果をたどることになるだろうし。
「よし、行くか!」
 覚悟を決めて僕は雨を吹き飛ばすかのごとく一気に傘をさし、外へと歩き出した。
 うあ…あまりにも湿ってて嫌だなあ…
 でも大丈夫だろう。どうせ駅まではほんの5分足らずで着く。少しくらい濡れたって、電車の中に入ってしまえばいくらか乾いてくれるさ。
 って、それじゃ地元の駅に着いてから家に帰る時にどうなるんだって話だが。
 ま…なんとかなるか。なるようになるさ。今までもそうやって乗り越えてきたからな。
 ちょっと頭の中でいろいろ考えすぎたな。そんなことを考える前にとにかく行動に移すことにしよう。
 と、そう考えた途端の出来事だった。
 何かが僕の横を、風のように通り抜けていくのが見えた。
 突然のことで一瞬見失いそうになりながらも、僕が前のほうを見ると…
 かばんを頭の上に置いて、スカートをひらひらさせながら雨から逃げるように走っていく人の姿があった。
 傘を持っていないのは、充分に明らかだった。
「おーい、ちょっと待って!」
 僕は女の子に声をかけるのが苦手なのにも関わらず、反射的に呼び止めていた。
 僕も1年前のちょうどこの頃に傘を忘れた時があって、見知らぬ女の子に傘を差し出してもらったことがある。だから今こそそのお返しをするべきなのだ、と思ったのだ。
 しかし呼びとめたにも関わらず、それでも女の子は止まろうとしなかった。
 どうしよう…追いかけようか?
 だが頭ではそう迷っていても、すでに足はうずき始めている。
「まったく…このおせっかいな足め」
 僕は自分の足を、子供をしかるように軽く1回叩き、彼女の方へと駆け出していた。
 少し走るのに自信があった僕は、校庭を縦断した先にある校門の前で彼女に追いついた。
「ちょっといい?一緒に入って…」
 と声をかけた瞬間、ハッと僕は息を飲んだ。
 彼女は…この梅雨の雨でごまかすように、目を赤く染めていたのだ。
「な、なんですか?」
 必死に普段の自分を装おうとしているのか、目を何度もこすりながら僕に話し掛けてくる。
「い、いや…傘、持っていないみたいだから、よかったら一緒に入っていかないかって言おうと思って…」
 予測もしていなかった事態に僕は戸惑いながらも簡潔に用件を伝える。
「あ、あの…えっと、はい。じゃあ…ご一緒させてもらってもよろしいですか?」
 こんな展開にも関わらず、意外にも彼女は素直に僕の言葉に従ってくれた。
 ある意味、それは良かったのか悪かったのか。
 駅までの道が、果てしなく遠く感じる。梅雨空のように重い雰囲気が耐えられない。
 それでも一歩一歩確実に進んでいる。その結果、ほとんど声をかわさないまま駅に着いていた。
「今日はありがとうございました…それじゃ」
 涙の意味もわからないまま、彼女の姿は駅の奥へと消えていった。
 
 
 それからというもの、僕は彼女のことが気になって仕方なくなっていた。
 時々帰り道の途中で会うこともある。しかしこの連日の雨ではさすがに彼女も傘を持ってきていて、声をかけるきっかけというものが何一つなかった。
 そんな日々が、1週間。
 ついに、そのきっかけのもともとのものがなくなってしまう、梅雨明け宣言が出されるくらいにまで日は進んでしまっていた。
 学校のみんなも傘を持たなくなり、もちろん僕も、あの子も、その例外ではなかった。
 ただ、僕の心にだけはまだ傘が必要だった。
 それほど、この気持ちは自分でも抑えられないところまで来ていたのだ。
 僕はその思いを我慢できずに、またあの雨の降っていたあの日の時のように、学校の出口で1人、立っていた。
 もちろん、それは…
「あ…」
 彼女の声。僕はすぐにその声の主の方に振り向く。
「一緒に…帰らないか?」
「で、でも…今日は雨も降ってないし…」
 彼女が戸惑い始める。
 僕はこの1週間の間で、彼女に関わるあるウワサを聞いていた。
 ずっと片思いだった男に、振られたというウワサ…
 今は友達でもいい。ただ彼女を支えてあげたい。
 そんな気持ちが、どこかにあった。
「別に雨が降ってなくても一緒に帰ることはできるだろ?ほら…」
 すると少しだけ彼女は、笑顔になってくれた。
「は、はい…じゃあご一緒します」
 僕らはあの雨の日のように、肩を並べる。
 見えない傘が、僕らを包み込んでいるような気がした。
 そして、どこか1年前の出来事に似た感覚を覚えていた…