MILD 16
RAINNIG DANCE -FIRST WINDOW-

 雨の日が続いていた。
 教室の外で振り続いている雨は、ジメジメするけれど、私の体のすべてをいやしてくれているように思える。
 でもきっと、それは雨だけのせいなんかじゃないはず。
 自然と私の目線の先のピントが、そのもう1つの原因のところに向かっている。
 1人の、男の人だった。
 その人は窓側の席に座っていて、いつもこの休み時間になると、私に背中を向けて、私と同じように外を眺めていた。
 なんだか私と同じ時間を共有しているような気がして、とてもうれしかった。
 だけどその反面、いつまでたっても振り向くことがないことにもどかしさを感じる時もある。
 嬉しいけど、苦しい。
 2つの感情の板ばさみに、私は悩んでいた。
 今日こそ…声をかけたいな。
 彼の席は私の2つ左…はじめて声をかけるには、微妙な距離。
 でもきっと、このままだとすぐに梅雨なんて明けちゃうよね。
 あやふやな今の気持ちも、はっきりさせなきゃ。
 「ねえ…ちょっといい?」
 ありったけの勇気を振り絞って、私はその人に声をかける。
 彼は最初、自分を呼ばれたとは思わなかったみたい。
 少し時間があいてしまったけれど、彼は私の方に振り向いてくれた。
 だけど…
 私、どうすればいいの?
 勇気は確かに振り絞ったけれど、この先に続ける言葉を考えてなかった。
 私って…なんてバカなんだろう。
「キミも…いつも外、見てるよな」
「えっ?あ…そう、だね」
 突然のことに頭がパニックしそうになる。
 そう…それは予想もしていなかったこと。
 まさか…彼のほうから話を進めてくれるなんて…
 しかも、私のことを…少しでも知っていたなんて。
 ずっと、私が一方的に見つめていただけだと思ってた。
 なんだか、嬉しさを通り越して涙が出そうになった。
 だけど、それは彼の前もあるし、こらえておかなきゃ。
 でも、もし私がこのまま涙を流したとしたら…彼は、どうするのかな。
 ちょっと…試してみたいかも。
 ううん、今はそんなことできない。きっと、彼がすごく困ると思う。
 少し私のことを見てくれていたということがわかっただけで、好意を持ってくれているように考えちゃう私…ホント、いけないよね。
 だから今は少しでも多く、話をしていよう。
「雨…好きなの?」
 彼に向かって声を出すことさえ、舞い上がっちゃってできなくなってしまう。
 だからなのかも…彼への質問も、どうしてもありきたりのことしか出てこない。
 ホントは、もっと聞きたいことがあるのに…
「ん?まあ…な。湿気があるのは嫌だけどさ、こう…体の中がスッとするような気になれるんだよな」
 私の考えてることと…一緒だ。
「う、うん…!そうだよね、やっぱり…そう思うよね?」
 彼との共通したところが、少しでも見つかるのがうれしい。
 これからもうまくやっていけそうな…そんな気がする。
 あくまで私の勝手な思い込みかも…しれないけどね。
「変だよな、雨のことだけでこんなに盛り上がれるの」
「えっ?そ、そう…かな?」
 それはきっと、彼と話しているから…だよね。彼も同じこと思っていて欲しいけど…
「それが…僕の勘違いじゃなければ、うれしいけどな…」
 不意な言葉に、私の胸が跳ねる。
 もしかして、それって…
 ひょっとしたら彼に対するものでは最後かもしれない勇気を出して、私は聞いた。
「えっ?それってどういう意味…なのかな」
 一瞬、彼の顔が赤く染まったように見えた。
「雨の向こう側で、ガラスに映っている何かを見てた…って言ったら?」
 その言葉を聞いて、今度は私のほうが顔が熱くなる。
 たぶんそれは…今度こそ勘違いじゃないよね。
 私の梅雨は、もうすぐ晴れそうだった。