MILD 14
SCHOOL TRIP -5YEARS LATER
暖かい風が吹く、日差しのまぶしい日だった。
どこまでも青い海、夏の到来をすぐそこに感じられる潮の香りが、鼻をくすぐる。
江ノ島をすぐ近くに眺められる橋の上、僕は彼女と2人きりになった。
長い髪の1本1本が波のようにそよぎ、彼女が一層きれいに見えた。
当の彼女は『枝毛ばかりだから恥ずかしい』とか言っていたが、そんなことはなかった。
そう、少なくとも僕だけは……
一筋の通り風が駆け抜けていく。
それが僕への、後押しのような気がした。
ダメでもともと、言うなら今しかない。
この気持ちを、今こそ伝えるべきなのだ。
僕に背中を向けて、動かずに海を見つめている彼女に、僕は少しずつ近づく。
その瞬間だった。
「おーい!遅くなったな!」
トイレのある方向から、今まで一緒に行動していた、聞き慣れた声が僕の耳に届いてきてしまったのだった。
5月のとある日、僕にはとても似つかわしくないほど高級そうなホテルのフロントに足を運んでいた。
「はい、95年度第1中学校2年7組同窓会にご参加される方ですね。12階の大広間になります。ごゆっくりどうぞ」
受付のお姉さんが示した場所に一歩一歩向かうたび、僕は慣れない気分に緊張せずにいられなくなる。
そう、今日は5年前に1年間、共に過ごしてきたメンバーと顔を合わせることができる日だった。
それは、ぼくにとってとても大事な日でもあった。
あのときの、あの彼女に会えるから……
いろいろな気持ちを抱きながらエレベーターに乗ろうとした僕は、誰かが近づいてくる足音と共に、聞き覚えのある声とせりふを聞いた。
「おーい、遅くなってごめんな!」
瞬間、5年前の江ノ島での出来事がフラッシュバックする。
今でもやはり、少し後悔している。もう少し……もう少しだけ早く、僕が声をかけていたら、何か違っていたのだろうか。
「おい、聞いてるか?久しぶりだな!」
5年前の、忘れもしない顔がそこにあった。
「あ、ああ……久しぶり」
しかし、そんな懐かしい顔に出会っても、やはり彼女と比べるとそれほど感動も沸きあがらない。
僕にとって、それほどまでに彼女は大きな存在になってしまった。
彼女は、来ているだろうか。
エレベーターの中での彼との言葉もそこそこに、12階に着いてすぐ目の前の大広間へと、僕は足がすくみそうなのをこらえながら進んでいった。
同窓会は、すでに始まっていたようだった。
「えっと、彼女は……」
まだ来ていないのか、姿が見えない。まさか、欠席なんてことは……
いやいや、そう思ってしまったら終わりだ。あまりネガティブに考えないようにしよう。
でも来ていないことを確認したら、すごく暇になってしまったような気がする。少し会場内を歩き回ってみよう。
しかし、やはり5年前の40人近くの顔ぶれを見ても、何か物足りない。
「気付いてたか?こいつがお前のこと好きだったって!」
「バ、バカ!言うなよ!」
「ええっ、ウッソー!私も実は……ひそかにいいと思ってたんだよね」
「おおっ!5年越しの恋が今よみがえったか?うう、泣けてくるなあ」
感動の再会。5年越しの恋。目の前でそれを果たせている人を見て、僕も早く彼女に会いたいと、余計に思う。
そう考えてしまう自分がむなしい……なんだか、乗り遅れてしまったな。
と、期待と現実のギャップに疲れて、僕がイスに腰掛けたときのことだった。
ため息を一つついて、目線を落としていると、ある1つの影が、僕の体を包み込むように映った。
「も、もしかして……!」
がんばってボルテージを上げ、一気に上を見上げる。
しかしなんてことない、結局目の前にいたのは、ただの女の子だった。
僕は肩を落としそうになりつつも、それは相手の女の子に対して失礼だと思った僕は、一応声をかける気力だけはふりしぼることにした。
「また会ったね、1ヶ月ぶりくらいかな?」
そう思った瞬間、先に声を出してきたのはその彼女の方だった。
言われてみれば……
うん、そうだ。確かに彼女が、僕の通う学校の前で、偶然なのか声をかけてきたことがあったかもしれない。
「よ、よう……久しぶりだな」
するとその彼女は突然、何かを思いつめたように、目線を下に落とし、明らかに顔を曇らせた。
「彼女を…待ってるの?すごく、顔が暗いよ…来てないの、あと1人だけだから…」
…答えることなど、できるわけがなかった。
彼女は、知っていたのだ。僕が5年前に思っていた気持ちを…
様子を見ていればそれはすぐにわかった。
しかし、僕が言葉を迷えば迷うほど、彼女にとって重荷は増えていたようだった。
そう…次の言葉が、それを証明していた。
「あの子…彼氏できたって…最近、聞いたよ」
言葉が出なかった。彼女の言ったことにリアクションを取らずに耐え切ることは、到底ムリな話だった。
「私、知ってたよ…あの子が好きだったってこと…でも、私も…!」
すると、堰をきらしたように、彼女は僕の胸元へと駆け寄ってきた。
その時、僕は思い出していた。
5年前のあの頃の自分と、今の自分を…
今、彼氏が出来たと聞いた時、不思議とあの頃の気持ちにはならなかった。
それはきっと…思い出を美化しすぎていたのかもしれない。
僕は、目の前にいる女の子のことを考えつつ、昔の自分にさよならを告げた。