MILD 10
PROMISE・3 -MISUNDERSTANDING-

「まさか・・・・このキャンパスを先輩と歩くことができるなんて、思ってもいませんでした」
「そう?私はずっと信じていたけど」
 僕たちが晴れて大学生となる入学式の日、一年遅れだったけど合格した先輩とともに、木々で包みこまれたようなキャンパス内の道を一緒に歩いていた。
 僕の夢にも出てきた憧れの先輩・・・・今こうして肩を並べて歩いているなんて、とても信じられない。奇跡なのか?とも疑ってしまいそうなほどだ。
 でも、僕たちは高校生の時から関係を築いてきた。先輩に大学に落ちそうだって言われた時も、それだけ僕が頼りにされていたという意味でもある。
 ここで、僕が弱気になってどうする。これからは先輩を引っ張っていけるような男になっていかなければならない。
 春の風が気持ちいい。今固く先輩を引っ張っていけるように誓ったはずなのに、隣の先輩のミニスカートが揺れるたび、心が落ち着かなくなる。
「ん、なぁに?あっ、視線が下に行ってるわよ・・・・もう、エッチなんだから」
 早くもお姉さんの余裕を発揮させられてしまった。なんだか情けない。
 でもとにかくこんな感じで、僕と先輩の関係は、二か月経った今もうまく行っている。
 しかしこの二か月という微妙な時期、何が起こるかわからないと、最近先輩について行こうとして読み始めた雑誌とかでよく見かけることがある。
 でも、先輩に限って何かするわけがないし、僕も特に友達とかのトラブルは少ない方なので、わざわざ事を荒立てでもしない限り、何も起こり得ない。もちろん、そんなことをするつもりも、必要もない。
 よって、問題は全くない。そう思うのが普通だった。
 だが、その雑誌の分析は甘いものではないことを今から実感することになる。
 そう、これから僕たちの関係を揺るがし、大きく変わっていく出来事が起こるのである。
「先輩、一緒に帰りませんか?」
 もう日も暮れて、夜にも近い。心配した僕は、先輩を誘った。
「あっ・・・・ごめん。今日は・・・・ちょっと・・・・」
 先輩の様子は、僕と共に大学に入ってから一週間経った頃から、おかしく感じていた。
 まさか先輩の身に何か起こったのか!?という心配がなかったわけでもないが、まさかそんなこともないだろう、僕はまだそんな軽い気持ちで流していた。
「そうですか・・・・わかりました。もう夜になるほど遅いですから、気をつけてください」
「うん・・・・ありがとう。ごめんね、今度は一緒に帰るから・・・・」
 僕は先輩を残したまま講義室から外に出た。
 外は地平線上にまで太陽が落ちていて、いくら春だとは言え、少し肌寒くなっていた。
 しかし一人街の中を歩いていると、改めて寂しいものがある。
「ゲーセンでも寄っていくかな・・・・」
 ちょうどそう思っていた視線の先に、僕を誘い出すようにネオンの光が点滅している。
「ま、少しだけだから・・・・な、いいか」
 少しだけと言っておきながら、いざ入ってみると、そうはいかないのが関の山だ。
「おっ、新しいの入ってる!」
 と、格闘ゲームに身を・・・・いや、身銭を投じてしまい、気が付くと一時間を回っている始末になってしまった。
「やべ・・・・もうそんなに経ってしまったのか」
 僕はこれ以上深追いしないためにも、逃げるようにゲーセンを出た。
 それだけ遊んだのだから予想はしていたが、すでに外は真っ暗闇に覆われていた。
「そういえば先輩、もう帰ったかな・・・・」
 僕も先輩も、帰る時はいつもこの駅前の繁華街から電車に乗っている。ということは、待っていれば会えるかもしれないな。
 今思い出したが、実はもうそろそろ先輩の誕生日でもある。
 先輩はその事を口にはしないが、高校生の時にとても人気があった先輩。四月というクラス替えの時期と重なる不利な月に誕生日を迎えても慕っている後輩たちに、たくさんプレゼントをもらっているのを毎年見ていた。
 そのプレゼント選びのためにも、ぜひとも会っておきたい。
 そういうわけで、僕は駅前で先輩を待つことにした。ところが・・・・
「先輩、来ないな・・・・」
 あれからもう三十分が過ぎた。一向に先輩の姿が現れる様子はない。
 しまったな・・・・僕がゲーセンに行っている間に帰ってしまったか。
 別に待ち合わせをしているわけではなく、勝手に待っている自分に非があるのはわかっているけど・・・・
 なんだか意志が通じ合っていないみたいで、少し悔しい。
「もう、帰るか」
 その時だった。最後にあきらめられず、一度だけ振り返ったら、僕の目に先輩の姿が映ったのだ。
「なんだ、やっぱりすれ違ってなんかいなかったんだな・・・・先ぱ・・・・!」
 しかし遅かった分だけ・・・・隣に男がいるというおまけ付きだった。
「えっ、先輩?」
 そんな、バカな・・・・先輩がこんな夜遅くに、男と一緒に歩きながら話してる。
 それも、僕の誘いを断ってまで・・・・
 たくさんの人ごみに紛れて、僕の視界から二人の姿が消えていく。
 頭がからっぽになっていきそうだった。
 放心状態になってどうしようもなく突っ立っていると、その瞬間・・・・後ろから誰かに肩をたたかれていた。
「まさか・・・・先輩!?」
 そうか、さっきのは人違いだったか。
 いくら先輩の足が速いからって、そんなに簡単にこの人ごみの中を通り抜けられない状態だ。瞬間移動でもできない限り、こんな芸当はできない。
 となると、僕も疲れがたまってきたか。
 僕は一安心しながら後ろを振り向いた。
 
(続く)