MILD 8
FOR HER…・2 -LOVER OR FRIEND-
今日しかチャンスはないかもしれない。
僕はいつもには絶対に感じることのない、息が苦しくなりそうな気分を持ちながら、学校のクラスの中にいた。
でも、彼女に話し掛けることなどできるのだろうか。
とても不安で仕方がなかった。僕はこの一週間の間、彼女のことばかり気にしている。
それがどういうことなのかを考えてみた。
そしてその答えは今、僕の最後の賭けでもある、この箱の中にある。
時はもうすでに放課後、ホームルームが始まって、もうみんながみんな、帰る体勢を取っている。
彼女の席の位置は、僕のところから横へ三人もずれたところにある。今、声を掛けるのはとても難しい。
「ちくしょう、どうすればいいって言うんだよ・・・・」
いい加減彼女から目を離し、前の方に向き直ってため息をついた時だった。
「・・・・おいっ!おいってばよ!」
彼女とは逆の、右隣にいる男が僕に何か言ってきているのに気付いた。
前もカラオケで一緒にいた、あの男だ。
「あ、ああ・・・・どうした?」
彼にとっては、僕の今の質問は間の抜けたものだったらしい。
「あのなぁ、そう言いたいのは俺の方だぜ。いくら呼び掛けても返事しないんだもんな」
「そうだったのか?」
それほどまでに彼女のことをずっと考えていたということなのか。
彼は僕の顔を見るなり首を横に振って、僕と同じようにため息をつきながら言った。
「ああっ、よくないよくない!そんな辛気臭い顔を俺の目の前でするなっての!まったく、こっちの方が腐ってしまいそうだぜ。よし、てなわけでな、今日は俺につきあえ!勇敢にも俺に度胸試しをした罰だ」
なんだか不条理にも思える。それに、僕は今から大事な用を済ませなければならないわけであって・・・・
「えっ!?で、でも僕は・・・・」
「まさか嫌だ、とは言わねぇよな・・・・?」
僕は脅しにも近いその言葉を聞きながら、彼女のいる方に再び見やってみる。先程と変わらず、全く僕を気にかけている様子はない。
確かに、所詮僕がこんなにも彼女のことを考えていたって、当人にしてみれば伝わるはずがないのも当然、それ以上に自分には関係ないことだと思っているかもしれない。
ここは往生際悪く引きずるよりも、すっぱりとあきらめるという勇気も必要か。
「わかった、つきあうよ」
結果、僕は目の前の用件の方を選んだ。
「よーし、そう来なくっちゃな!」
いったいどこにつきあわされるのかはわからない。しかしとにかく今日を吹っきるためにも、行くことにした。
着いた場所は、とある近所の公園だった。
「よし、着いたな」
「着いたな・・・・って、ここが目的地なのか?いったい何のつもりだよ、男二人で散歩なんて言うなよ、気色悪いぞ」
「まあ、見てなって」
僕の挑発も軽く流し、そうそいつは言ったので、何も反抗できぬまま、五分位だろうか、僕はひたすら待つことになった。
その五分経った時、ある一人の女の子が公園の入口からこちらに近づいてきた。
よく見るといつものつるんでいる人だった。
「おっ、来た来た」
と言いながら手を振りかけたそいつは、
「大変!彼女、あんたたちの姿見つけちゃって、どっか行っちゃった!」
彼女のその一言で手の動きが止まり、そして固まってしまった。
僕は、ほぼ確信とも言える予感を抱いた。
「これって・・・・どういうことだよ、彼女ってまさか・・・・?」
僕の問いかけにも、彼は答えようとしない。
予想は、当たっていたようだった。
彼女の家にも、この前のカラオケ屋の付近にも、あの姿は見当たらない。
僕は、その他にも当てのある場所を探し回っていた。
空がだいだい色に染まりかけている。ようやく見つけたのは、もう誰もいるはずのないと思っていた・・・・僕らのクラスの中だった。
「ここだったのか・・・・まったく、てこずったよ。これを灯台もと暗しって言うか・・・・まさかまた戻ってくるとはね」
軽く彼女との話の前のつかみとして言ってみたつもりだったが、彼女の目はまったく受けとめないようで、きつく僕をにらんでいた。
「どうして・・・・私にかまうわけ?あの二人も、何か誤解してる。私は、ちっとも・・・・」
「あのさ、放って置けないからこうして追ってきているんだけど・・・・な」
彼女の目が、こちらに向く。驚きのような、見開く格好になっている。
僕は勢いに乗って、彼女の方に近づきながら本当の自分の気持ちを話した。
「なにせ、僕が・・・・好きな人なんだからさ」
一旦、何も言わずに彼女は再び目をそらす。
そしてその後、こんなことを口走った。
「そんな・・・・遅すぎるよ・・・・」
「遅すぎる・・・・って、無理ってことなのか?」
僕がそう言うと、今度はすぐに彼女の返事が返ってきた。
「違う・・・・!でも、本当に・・・・遅すぎるよ。私、あの週直の最後の日にそう言ってもらいたかったのに・・・・」
週直の最後の日・・・・僕たちの間に変な溝ができてしまった、僕も忘れるはずのないあの日のことだ。
『もういいっ!もう仕事も終わりだよね、私、先に帰る。さよなら!』
あの時に彼女は僕の言葉を待っていたというのか。確かに一言一言がとても意味深だったけれど、僕がまだ自分の気持ちを知らなかった。それで、最後にはこんなことに・・・・
「でも言ってくれなかったあの時、振り向いてくれなかった自分が悔しくて、あんなつまらないケンカまでして・・・・今日まで悪くて、顔も見られなかった・・・・」
今日のホームルームでの彼女の態度も、そういう彼女の理由で、気にもかけていないように見えたというわけか。
「ねぇ・・・・そんな思い込みの激しい私なんだよ。それでも・・・・好きって言ってくれるの?」
そんなところも含めて好きなのだから、それは当然の話だった。
「ああ、もちろん。証明できるものもある」
晴れて一歩前進することのできた僕は、最後の賭けだった箱、ホワイトデーのプレゼントをポケットから取り出していた。
そう、今日は三月十四日、ホワイトデー。
今日が僕の今までの全てのイベントの中で一番深く思い出に残る日になるのは、間違いないだろう・・・・