MILD 7
FOR HER…・1 -A WEEK AGO-
「ごめんなさい・・・・私、もう帰るね」
全ては、その一言から始まった。いや、正確にはここからではないのだが・・・・
「おいおい、しらけるじゃないか。もう少しくらいいられないのか?」
「そうよ。あんたがいなくなったら私たちがここにいる意味が半減しちゃうよ!」
僕と彼女の他の、普段から仲よく友達としてつきあっている男女が、彼女を引き止めようとする。
「おい、お前もなんとか言えよ!」
カラオケボックスの中、そいつはマイクをもちながら僕に大口あけて怒鳴った。
「え?ま、まあ・・・・いてくれたほうがいいかな・・・・って・・・・」
僕が向けられたマイクに引き気味にそう小声で言う。しかし、無効果だった。
「ううん・・・・やっぱりだめ。今日は遠慮する。ごめんなさい・・・・」
そう言って、彼女はボックスを出ていってしまったのだった。
とても気になるが、僕は出口をしばらく見ていることしかできなかった。
戻ってこないようなので、僕は残り二人の方へと顔を戻す。
と、男の顔が僕のすぐ近くまで寄ってきていた。
「バカ!お前な、そんな弱気に引き止める奴があるかっ!」
キィンとあまりの声量にマイクがハウリングを起こす。
「ちょっとそこのバカ!マイク持ちながら叫ぶんじゃないの!」
もう一人の女の子が、それを制す。
「だってよ・・・・あれじゃあ帰るつもりがなくたって帰っちまうぜ。どうしたんだよ、お前」
突然聞いてくるものだから、僕は動揺してしまった。
「え?ぼ、僕がどうかしたって?」
「あのな・・・・いつもの覇気はどこ行ったんだ?テンション低すぎるぜ」
「そ、そうか?」
でも、そう思われても仕方ないか・・・・
実は今さっきの彼女に向けて弱気な言葉を言ってしまったのは、単に妙なハイテンションに引いただけではない。
彼女とは今、ちょっとしたケンカみたいなものになっている。もちろんこの場にいる二人には、そのことは言っていない。
たまたま二人で週直をすることになって、軽く冗談を交わしながら放課後に仕事をこなしていた時のことだ。
先生に頼まれごとをされて、人通りの少ないところを歩いていた僕たちは、階段の途中で、人影を見つけた。
ぴったりと並んで座って、要するに・・・・男女の二人だけの世界に入っているところを通りかかってしまったのだ。
もちろん、僕らは単なる邪魔者なのだろうから、その場から立ち去ったが・・・・
問題は、この後の会話だった。突然に彼女がその話題を持ちかけてきたのだ。
「あ・・・・あんなことするのって、私には信じられない・・・・どうしてあんな暗いところで二人きりでいて、それで・・・・触り合ったりするのかなって思う・・・・」
「それは本人たちの自由じゃないのか?」
親しい、男友達みたいなノリでつきあっている彼女だからこそ、僕も本音が出る。
「そ、それもそうだけど・・・・」
僕にはむしろ、いくらさっきにあのような光景を見てしまったからとはいえ、ここまで話をつなげたがるのかがわからなかった。
なにせ彼女は今まで、そういうことにはまったくの無関心さを装っていたからだ。いや、嫌いだったと言った方が正しい。
「なんか・・・・変だな。お前がそんなことを言い出すなんて」
「えっ?そんなに・・・・おかしい?」
「ああ、まるで正反対。まるで今までとは違う気持ちがあるみたいだ」
すると、彼女は途端に明るくなったように見えた。
「そ、そう?やっぱり、そう思うんだ!」
僕にはまったく、そんなに喜んでいる理由が見えなかった。
「何がそんなに嬉しいんだ?相手もいないっていうのに」
最後の一言は、余計だったらしい。彼女の明るさも束の間、急変して笑顔が消えた。
「えっ・・・・?あっ、べ、別にいいでしょ、そんなこと・・・・もう、なんにもわかっていないんだから・・・・」
「ん?何が?」
聞き返すと、今度は笑顔が消えるどころの問題ではなく、逆に怒りはじめてしまった。
「もういいっ!もう仕事も終わりだよね、私、先に帰る。さよなら!」
止めようとした時には、もうすでに彼女は教室を出て行ってしまっていた。
それからだった。僕と彼女の間に、会話らしい会話が一週間もの間、なくなってしまったのは・・・・
それは、今日のカラオケに来た日も例外ではなかった。
しかも、さらにその日から一週間が経った頃、三月の半ばに入っても、話すきっかけどころかますますもって悪化してしまう状態で毎日を過ごすことになってしまった。
僕はどうしていいかもわからなくなり、もう自分で解決しようとは思わない、とにかく誰かに相談をしたくて仕方がなかった。
(続く)