MILD 4
PROMISE・2
-THE DREAM TO BE CONTINUED-

 僕は、小鳥のさえずる声が聞こえる、まぶしい朝日の中で飛び起きていた。
 息が切れ、思うことがたくさんあっても、声に出すことさえ、ままならない。
 ふとあたりを見渡して、ここは自分のベッドの中だと、しばらくして気が付いた。
「夢、だったのか?今のが・・・・?」
 リアルすぎて、現実との境がわからない。
 自分がいた高校のグランド、大学受験のこと、どこかで見覚えがあるような女性・・・・
 自分の記憶に一致していることが多すぎる。まるで、以前にあったことを再現しているかのように。
 でもそれがいつにあったことなのかも覚えていないし、第一、今までに一度もこんな夢は見たことがない。本当にあったことなのかどうかも疑わしいところだ。
 何かを、意味しているのだろうか。
 今日は、本命の大学の合格発表の日だ。
 最近、通知が自宅へ配送されるという発表の仕方が増えているが、僕が受けた大学では、今でもキャンパス内に貼り出される方法で発表している。
 そろそろ、行くのにちょうどいい時間だ。
 しかし今となっては、合格するかどうかの不安より、今の夢の方が気になっていた。
 
 
 合格発表の掲示板の前は、僕が着いた頃にはたくさんの人が群がっていた。
 すでに学校を背にして肩を落として歩いている人や、その近くでバンザイ三唱をしている人々が見える。
 果たして僕は前者なのか、それとも後者になりうるのだろうか。
 受験票を片手に、人の波をかき分けて前へと進む。
 そして一番前に到達しそうな頃、僕はそこで見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「あっ、あの子は・・・・」
 
『ごめんなさい、私の不注意で・・・・え、えっと・・・・あの、それじゃあ』
 
 間違いない、受験の時に教室の前でぶつかったあの子だ。
 考えてみれば、ここで会うのも当たり前だ。一緒の大学を受けたわけだし。
 無視するのもおかしいし、それ以前にたぶんまだ合格発表も見ていないようなので、そうする必要もない。
 万が一、もう結果を見ていて落ちていたりでもしたらシャレにならないけど、それはその時に何とかすることにしておこう。
「やあ、今発表を見るところなのかな」
「あ、あなたは・・・・あの時の」
 よかった、彼女も僕のことを覚えていてくれたようだ。
 向こうに忘れられていたりでもしたら、それこそ僕は危険な人間にされるところだった。
 話を聞くと僕の思った通り、彼女も今から発表を見るようだ。
 僕達は二人並んで、掲示板を見上げた。
 
 
 受験が一段落ついて、ささやかな息抜きのような気分で、僕は彼女をとある喫茶店へと誘った。誘われるように窓際の席に座った。
 しばらく、僕らの間に会話はなかった。あの受験をした日の帰り、二度目に彼女に会った時と同じ雰囲気に包まれているようだった。
 しかし今日は喫茶店の中とあって、彼女にとっても、そう簡単に逃げられるような状態ではないのが幸いだった。今日こそは、落ち着いて話をしたい。
 時間稼ぎもできたところで、僕はなんとか会話を切り出した。
「あのさ・・・・よかったな、二人とも受かって」
「そ、そう・・・・ね、よかったよね。でも、私は・・・・」
 実はあの発表の時、彼女はともかく僕までも奇跡の合格をなしとげていた。
 しかし彼女は、その話をした途端にさびしそうな表情になってしまった。まるで、落ちた時のような感じで。
 落ちた時の、表情・・・・あれ?なんだか、何かを思い出すような・・・・
『うん・・・・ダメだったかな。落ちるかもしれないね』
 この言葉に、彼女の顔が重なっていくのだ。 その時、僕の頭の中を一筋の閃光が走った。
 あの夢の出来事・・・・やっぱり現実に一年以上前にあったような記憶があるのだ。
 それに、大学の入試は何も同級生だけが受けるわけじゃない。先輩に当たる人が受けていたっておかしくないはず・・・・
 あの夢の女性の正体は、つまり・・・・
「あの、もしかして先輩ですか!?」
 夢の情景が、さらに頭の中に広がっていく。女性の顔も、彼女に似ている。
 僕は陸上部のユニフォームを着て練習中、先輩はその陸上部女子部のキャプテンだった。
 時折隣で走っていた僕によくアドバイスをくれた優しい先輩・・・・
『私は、もう一度あの大学を受ける。もし、私もあなたも受かったら・・・・』
 その続きまでもが、よみがえる。
『その時はまた、一応私は年上だから、あなたの面倒を見てあげるから・・・・ね』
 そして、僕に・・・・抱き付いてきたんだ。
「覚えていたの?私のこと・・・・。だって忘れていると思って、私も何も言えなくて・・・・」
 そうか、だから僕の周りで悲しそうな表情を見せたりしていたんだ。
「ねぇ・・・・私、変わったと思う?気付いてもらえなかったから、やっぱり・・・・私、違っちゃってる?」
 本当のことを言えば、少し変わっているのかもしれない。だけど、それは時の流れが僕達をそうさせただけだ。
 僕にとってみれば、彼女は・・・・
「・・・・いや、変わってませんよ。先輩は、先輩ですから」
 彼女・・・・いや、これからもずっと僕の先輩でいてくれる、そしてこれから恋人になる女の子は、僕にほほえんだ。
「ふふ・・・・これでやっと、あなたと一緒に試験に受かったみたい」
 窓の向こうで、一年前と同じ夕日が僕たちを見守っていた。
 
(MILD10へ続く)