MILD 3
PROMISE・1 -MEET AGAIN-
センター試験が終わったところで、うかうかしているばかりではいられなかった。
これからが本番、各大学での試験はこれから始まっていくのだ。
そして今こそその『本番』の最中、しかも僕の本命校にやってきている。
大学は遊ぶところ、などといういい加減な理由はさらさらない。
学びたいことがあるから行く、というただそれだけの理由で、僕は大学受験を選んだ。
自分で思っている理想のキャンパスにほど近いイメージの大学は、ここしかない。
図書館の充実、研究設備が整っているのもこの目で確かめている。
しかしそれ以上に、思うこともある。ここに引き合わされているというのだろうか、体が勝手にここに行きたがっているように感じるのだ。
どちらにしても、後は自分がこの大学にふさわしいかどうかを確認してもらうだけだ。
でもいざその会場に来てみると、やはり緊張してしまう。
どこを見渡しても、不真面目な人間はいない。それがプレッシャーとなって、少しでも気を抜くと押しつぶされてしまいそうになる。
これが、受験戦争というものの実態なのか。僕ものんびりしている場合ではない。
予鈴が校舎の中で鳴り響く。これは筆記試験開始五分前の合図だ。
僕は急いで、教室へと向かう。
と、その教室にまさに入ろうとした瞬間だった。
「きゃあっ!」
僕の肩に何かがぶつかった感覚と小さな悲鳴が、僕の身に降りかかる。すぐそばでは、同じ受験生らしいロングヘアの女の子が倒れていた。
「あっ、大丈夫ですか?」
事態をすぐさま理解して、僕はその子に手を差し出す。
「ごめんなさい、私の不注意で・・・・え、えっと・・・・」
それ以後の女の子の言葉が続かなくなる。なんだか顔が赤くなっているようだし、様子が少し変だ。
彼女を起こすと、急に焦ったように言葉を続けた。
「あの、それじゃあ」
そのまま、彼女は教室の中に入っていってしまった。
まあまあできたほうだろうか。今のところはある程度の満足感にひたり・・・・
僕は、帰りの道をたどっていた。
とはいっても、まだキャンパスの中だ。とても広いので、出るのも一苦労かかる。でもまもなく校門を出ることができる。
その校門にさしかかった時、ある一人の人物が門柱に寄り掛かっているのが見えた。
あの、教室の前でぶつかった彼女だった。
彼女もそれに気付いたようで、しかも初対面のはずの僕に、駆け寄ってきた。
「お疲れさま・・・・今日はいきなりぶつかってしまって、ごめんなさい」
「え?いや、こちらこそ・・・・」
妙に馴れ馴れしい。彼女はそういう性格なのだろうか。そうは見えないけれど・・・・
しばらく、会話が止まった。
彼女は僕が何か行動に移すのを待っているようだ。しかし僕には、彼女がいったいこれから何をしたいのか、何を待っているのかが全く予想できなかった。
考えているうちに、彼女は後ろを振り向いてしまった。
「さようなら・・・・」
彼女が去っていく。止めることなど、できなかった。
止めても、何もできないと悟ったからだ。
僕は大事な何かを、失ってしまったように感じた。
でも、その正体はわからない。
第一、同年齢の女友達など、僕には数少ない。たとえ会ったとしても、忘れているはずがないのだ。
僕は彼女の後ろ姿を見送ることしかできないまま、首をかしげた。
僕は、今まで通っていた高校のグランドに立っていた。
側に、私服姿の一人の女性がやってくる。
「あ・・・・どうだったんですか、大学入試?」
夕日で表情がよく読み取れないが、そうするまでもない言葉を僕は聞いてしまった。
「うん・・・・ダメだったかな。落ちるかもしれないね」
「そ、そんな・・・・」
挫折したのを目の当たりにしたのは、正直言ってショックだった。
「もう・・・・何を自分が落ちたみたいな表情しているのよ!あなただって大学受けるんでしょ?今からそんなんじゃ、受かるのも受からないって!」
「それはまあ・・・・そうですけど」
「大丈夫、また来年もあるんだから。私は、もう一度あの大学を受ける。だから、それまでの保留みたいなものね。もし、私もあなたも受かったら・・・・」
するとそれきり、女性は口を閉ざしたままになってしまった。
「もし受かったら・・・・なんなんですか!」
おかしい、なんだか世界が回っているような感じだ。
女性の姿も、その渦に巻かれている。
頭がぐらつく。地面に倒れそうなのを必死でこらえて、彼女に叫ぼうとする。
しかし、口が開かないのと同時に、今度は目が勝手に重くなり、閉じていく。
ついに体さえも支えきれなくなり、僕は地面へと身を預けるように倒れかかった。
(続く)