MILD 1
BEGINNING LOVE

 お正月が終わってすぐの、冬休みも終わりかけている一月の寒い日・・・・
 中学二年の私は玄関前に立って、ずっと向こうまで続いている道を見つめていた。
 もう胸はドキドキするばかり。だって・・・・
 だって、もうすぐあの向こうの方から、赤い自転車にまたがってあの人が来るんだから。
 あの人は、毎日私の家の前を通っていくの。
 それで『おはよう』って、私に声を掛けてくれる。
 でも私は・・・・あの人にいろいろ言いたいことがあるはずなのに、うまく口に出せないの。
 結局言えるのは、『お、おはようございます・・・・』って、やっと返事ができるだけで。
 まともにあの人の顔を見ることができない。
 きっとあの人は高校生。今の私の気持ちがたとえ恋だったとしても、釣り合わないのはわかってる。
 だけどこのまま会えなくなるなんて、考えられない。
 だから私は今日、あの人に自分の気持ちを少しでも知ってもらうの。
「あっ・・・・!」
 私の目に、あの人が近づいてくる。
 とても逃げたい気分だけど・・・・でも私は、あの人が明日からここを通らなくなることを知ってる。
 今日でないと、どうしてもダメなんだ。
 私は、白い息がたくさん出ていくのをおさえて・・・・
 胸が苦しくなるのも、必死で我慢して・・・・
 コートのポケットの中に、私は手を入れた。
 
 
「ふぅ・・・・ついにこの日がやってきたか」
 僕は上り坂の手前で自転車を止め、少し休憩することにした。
 ほぼこの一か月の間、僕はほとんど郵便配達の仕事を休まずに続けてきた。
 もちろん年賀状配達のためのバイトなので、冬休みもほとんど全て返上して・・・・
 なんだか、過去のことを振り返っているだけで、気が遠くなってしまいそうだ。
 確かにこの仕事は辛いかもしれない。
 だけど、それなりに新しい発見や出会いもあったのも事実だ。
 その最たることに、僕が配達している地域の中にいる、あの子の存在がある。
 僕が一番の難所だと思っている、この今目の前にある急な坂道を、息を切らしながら登りきった時のこと・・・・
 正月が終わった次の配達日に、僕はあの子と出会った。
 それは偶然とも言える出会い・・・・僕が通りかかったちょうどその時に、あの子が玄関から出てきたんだ。
 それも、配る前だったから直接手で渡すことになって・・・・
 中学生くらいだろうか。高校二年の僕は、いけないと思いつつも少しだけ触れてしまった彼女の手の暖かさに胸踊らせてしまった。
 それからというもの、あの子とは毎日会うようになった。
 いつも玄関前にいる彼女。毎日のバイトも、不思議とあの子に会っただけで、なぜか気持ちがやすらぐ。疲れなんてものは、もともとなかったみたいに・・・・
 でも、この生活も今日で終わってしまう。
 年賀状の量も落ち着きを見せたため、このバイトは今日で解雇なのだ。
 あの子にも、それとなく話したことはある。
 しかし僕が何を言っても、あの子は僕の言ったことへの返事を返してくるだけ。
 決して彼女の方から僕に話しかけてこない。
 あまり僕に興味がないのだろうか。そうだとしたら、それでも仕方がないと思う。
 ただ問題なのは、彼女がはっきりと態度に示してくれないことだ。
 だけど今日はそうはいかせない。今日で終わりということは、自分を追い込むにはいいチャンスなのだ。
 きっと今日も彼女はいつもの場所にいる。
 そう信じて、僕は上り坂を登る前に、あらかじめ用意していたものを郵便カバンの中から取り出した。
 
 
1月×日、はれ。
 今日も私の家の前に、あの人はやってきた。
 郵便配達のお仕事が終わってしまうって前に聞いていたから、明日からはもう来ない。
 これきり会えないなんてイヤだから、私は、少し遅いけど年賀状を書いた。
 もちろん最後に告白の言葉もそえて・・・・
 そしてあの人と会えた時、私は今日こそ勇気を出して、渡そうとした。
 そしたら、笑っちゃった。
 だって、あの人も同じように私あてに年賀状を書いていたんだから。
 で、"P.S.一緒に遊びませんか"だって。
 もちろん、私はOKしたよ。
 でもそのかわり、あの人の方が先に渡してきたから、私の方のは渡せなかった。
 だけど、いいよね。
 私の年賀状は、もう少し先まで取っておこう。
 今は、今度遊びにいく時のことだけを考えて眠りにつくの。
 早くその日にならないかな?
 そしていつ、私が持ってる年賀状を渡せる時が来るのかな?
 もしかしたら、今年、来年・・・・それともずっとずっと、あの人と一緒に過ごせるのかな?