離れていく心・最終回


 夏休みは終わり、九月になった。
 あいかわらず、由紀と卓也のカップルはクラス中のうわさで、とだえることがない。
 もちろん、理奈がキューピットだってことは、誰にも言っていない。
 あの思い出だけは、理奈と由紀と卓也、それだけの秘密にして・・・・
 恋とは難しくて、簡単には解決しなくて、その糸をほぐすのには時間をかけないのではだめであり、かといってゆっくりほぐせばいいというわけでもない。
 大事なのは、二人の気持ちだ。
 二人の気持ちが通じたからこそ、由紀と卓也はうまくいったに違いない。
 もうすぐ修学旅行。理奈も、そのときに心が通じ合う人を見つけたい。
 それは、自分次第だということも、もちろんわかっている。
 今回のことで、理奈は一つ大人になった。
 好奇心がまた一つ、改めて理奈の範囲に入った。
 理奈は、窓の外を見た。
 改めて、また夏休み、それとちょっと前も混じって、そのときのことを思い出す。
 卓也のことが頭から離れなかった早朝でも。
 由紀とまだこういうことになるとは思っていなかった時に話していた時も。
 卓也と神社で偶然会ったときも・・・・
 
 
「いろんな時、うるさいくらいに鳴いていたあのセミの声は、秋になってすっかり聞こえなくなったのでした・・・・と」
 九月最初の日の教室の中で、理奈は由紀と一緒に読んでいた紐つづりの本を閉じた。
 その表紙には『離れていく心・笹木理奈』と書いてある。
「っていう物語書いてきたんだよ。それこそ夏休み半分くらい費やしたんだ、これに。由紀はどう思う?」
「文の善し悪しの前に、なんか由紀の役柄、悪い感じがする・・・・」
「そんなことないない。最終的に由紀がハッピーエンドなんだから」
「でも奪いとった印象が強いよ、やっぱり」
 なんだか引きそうもないので、理奈は話題を変えることにした。
「そういえば今日って、転入生が来るって話だったっけ。男の子だったらいいなぁ・・・・」
「もう、理奈ったら、すぐそういうこと言うんだから」
 なんとかごまかせたようだ。理奈は由紀の見ていないうちに自作の小説をしまい、よかったと一息ついた。
 だが、ことはこれで終わらなかった。
 先生の呼んだその転入生が、理奈の想像していた卓也象とほぼ一致していたのだ。
 もちろん、自分で小説を書いていたくらいなのだから、『卓也』という人物は、理奈の好みそのもの。すぐに理奈は感情を抱いてしまった。
 しかし、由紀がその隣で、その人を見てほおを染めていることに理奈は気付いた。
「ね、ねぇ、由紀。さっきの話は、本当に物語の中だけのことだよね」
「理奈は由紀に最終的にハッピーエンドになってほしいようなこと言ったじゃない」
 物語の影響からか、少し由紀も積極的になっていた。
「あれは言葉のあやってことにしといて」
「あっ、理奈ずるーい!」
 恋とは難しくて、簡単には解決しなくて、その糸をほぐすのには時間をかけないのではだめであり、かといってゆっくりほぐせばいいというわけでもない。
 大事なのは、二人の気持ちだ。
 もうすぐ修学旅行。理奈は、そのときに心が通じ合う人を見つけたいと思った。
 通じ合う心、離れていく心・・・・
 理奈は『離れていく心』にならないように努力しようとしていた。
 その現実の物語は、今まさに始まろうとしている・・・・
 理奈の耳に、セミの鳴き声が聞こえるような気がした。