離れていく心・第12回
電子カレンダーは八月二日・・・・夏休みは、まもなく二週間がたとうとしている。
理奈はあれからというもの、家に閉じこもりっきりで、外に出ることさえしようとしなくなった。
姉に『あんたらしくない』と心配されたりもした。
でも二度とあんな思いはしたくない。
もし、また誰かと一緒にいるところを見かけてしまったら・・・・?
その予感が当たりそうなのが、さらに怖かった。
これまでに幾度と見ている、卓也の写真。
捨てることなんてできない・・・・
やっぱりまだ卓也が好きな自分がいて、それがふっきれずに二週間ぼんやりの日々が続いた。
その瞬間、電話のベルが鳴りはじめた。
しかし、すぐに止まる。
いたずら電話だったのだろうか。どちらにしても自分には関係ない。今は、ただ一人にしておいて欲しいと思っていた。
するとその時、下から廊下を伝って響く重低音が、理奈の耳に届いた。
下で、誰かが壁をたたいている。これは理奈を二階から呼ぶときに使う合図みたいなものだった。ということは・・・・
「あんたに電話だよー!」
その声が、下から響いてきた。
理奈はあまり乗り気のしない気分だったが、姉の『いい加減にしなさい!』の怒号に仕方なく、一階リビングに置いてある受話器を取った。
「もしもし、電話変わりました。理奈・・・・ですけど」
『私、川野です。理奈、今日なんか元気なさそう・・・・』
「そ、そうかな?」
『そうだよ。なにかあった?』
もしかしたら、由紀も関わっているのかもしれない。だけど、さすがに今の理奈には言えなかった。
「特に何もないよ。ただ・・・・二週間くらい外に出てないけど」
『えーっ!』
久し振りに由紀の大声を聞いた。それこそ超音波みたいな感じになるので、あまり聞きたくないけれど。今だって耳の検査をしているような感覚に襲われている。
『ちょっと待ってよ。夏休み前に由紀とかわした約束全然守っていないってことじゃない』
「あ、あれは・・・・言葉のあやって言うか・・・・ね」
『バツとして、明日由紀と海に行くこと。いいでしょう?』
その言葉に、理奈は当然のごとく気が付いたことがあった。
『もしかしたら』がまた再び、復活した。
「海って・・・・夏休み前に話してた皆島海岸のこと・・・・だよね?」
『そう。今からすっごく楽しみなの。やっと行ける!って思うとね』
(えっ?やっと・・・・行ける?)
さすがの理奈も、それが何を意味しているかはわかった。
今、『もしかしたら』の予感は、さらに確率を増した。
「それって・・・・・夏になってから初めて行くってことなの?」
『そうだけど・・・・それがどうかしたの?』
激しい動揺に、理奈自身気付いていた。
思い違い・・・・人はこのことをそう言う。
じゃあ、あの女の子は一体・・・・
『理奈、聞いてる?』
そうして例によって由紀の話を聞いていなかったりする。
「えっ、あ、ちょっと・・・・ごめん」
『だと思った。もう一度しか言わないからね。明日の八時、午後じゃなくて午前だよ。待ち合わせ場所は海岸で。それでいい?』
「え、で、でも・・・・その前に由紀!」
理奈がさっきのことが本当なのかどうか聞こうと思ったら、そこから聞こえてくるのは等間隔で鳴る電子音だけだった。
「切られちゃった・・・・」
理奈はしょうがなく、受話器を置いた。
あの時卓也と歩いていた女の子は、由紀ではなかった。
その女の子とは、誰だったのだろうか。
疑問は出口のない迷路のように、ますます広がるばかりだった。