離れていく心・第8回

 その玄関を出た右側では、白と黒が混ざった煙が、換気扇の出口からなんだか苦しそうな感じで大量にはき出されていた。
 ・・・・とにかく、そのことは気にしないで散歩しよう。理奈はそう思い込んで歩き出した。
 理奈は歩いてしばらくもしないころ、ある場所で立ち止まっていた。
「こんなところに神社なんて・・・・あったかなぁ」
 理奈の目の前には、赤い鳥居があった。
 階段は五十段くらいで、両側に緑が植え込まれている。けれど一段一段が急な勾配になっているため、登ったらけっこう疲れそうだ。
 その先に少しだけのぞく本殿。人影も見える。
 その時理奈の頭の中になんとなくぼんやり思い浮かぶことがあった。
(そういえば、卓也とはもう三週間も話していないような・・・・)
 それどころか、クラスの中以外に会うことがなかったような気がする。
 ならどうせだから、ついでにちょっと神頼みするのもいいかもしれない。
 性格上か、理解する前に理奈は階段を登り始めていた。
 一段、二段・・・・しっかり踏み締めていく。
 こけが生えているが、気をつけていればなんてこともない。
 階段の途中で、思い立って理奈は足を止めた。
 家で聞こえるものとは違い、こうして緑がたくさんあるところで生活している鳥たちのさえずりは、目を閉じてみても実に楽しそうだとわかる。
 それが響くのがさらに臨場感を増し、リラックスさせてくれる。
 しかし後ろから誰かが来ると邪魔だと思ったので、理奈は目を開き、再び登り始めた。
 中ほどまでさしかかると、十メートルくらい上でおおいかぶさっている木のおかげでさっきまでの暑さはだんだん感じなくなってきていた。
 恨みたいくらいの日差しは、木漏れ日になって逆に最高の気分をかもしだす。
 理奈は自然と口元がゆるんでいくのを感じながらさらに登っていき、木々の酸素に助けられながら、なんとか一番上までやってきた。
 その場所はまさに森の中と言うにふさわしく、まったく風がなくても涼むことができるくらい涼しい。
 家にクーラーがない理奈にとっては、何度も来たいと思えるくらいだ。
 そしてすぐ前を見てみると、けっこう大きい本殿が確かにあった。
 しかしあたりを見回してみると、あまり敷地が広くないことに気が付いた。
 ただ手入れはちゃんとしているらしく、狭苦しさは感じられない。
 ひざをかかえながらそんなことを考えつつ息を整えていたその後、理奈の目に最初に映ったのは、予想もしなかった人物だった。
(そ、そんな・・・・そんなことって・・・・)
 偶然は誰にでもあるものなんだと思った理奈は、何も言えずにただ目を見張っていた。
 理奈は信じられないまま、その人物を下から順に追っていった。
 まず白の靴、そしてジーンズ、Tシャツをおおいかぶさり、首を伝って・・・・そこまではいいとしても、その上に見えるものが問題だ。
 理奈と手を取った、あの人に・・・・似てる。
 いや、似ているんじゃない。これは・・・・
 すぐそこでセミが鳴きはじめていた。
 そしてこのセミはなにかを起こしてくれるかも知れないと、理奈は勝手に予感していた。