離れていく心・第6回
卓也と話をしなくなってから二週間がたとうとしていた。
夏休みはもう手の届く距離まで来ている。
クラスの様子も盛り上がりは最高潮、今までと比べてもまるっきり違っている。それはいい意味でも、悪い意味でもある。
いい意味としては、やっぱりテンションが大幅に上がっていること。
ただ悪いところをあげると・・・・
外から聞こえるセミの声がうるさい。
夏の日差しが教室の中を照りつけ、とても暑い。
教室の中はこれからの予定がどうとかいう話がざわめき、しかも誰かがそれを聞いてくるのが煩わしい。
うるさい、暑い、煩わしい。
なんとも言えない三要素、ストレスがたまってしょうがない。
そのくらいならいっそのこと、早く夏休みが来てほしいと願いたい。
ただ、夏休みが来たとしても、それはそれで問題が・・・・
「理奈は夏休みになったら何をするの?」
来た。それはさっきも聞かれた質問だった。それが今度は由紀だから特になんとも思わないものの、これは質問的にはかなりきつい。
理奈は悲しいかな、ため息を一つついてしまった。
「えっ・・・・予定なにもないの?」
そう、毎年のことで、予算があるわけじゃない、家に自動車があるわけでもない。そのためお盆に田舎の方に帰ることさえできないのだ。
「ま、いいじゃない。家でゴロゴロしてるのも。あ、でも太っちゃったりしちゃうか。あははっ・・・・」
「ごめん・・・・」
勘のきく由紀のことならたぶん気付いているはずだとは思っていた。
理奈はそれでもなんとか盛り上げようと努力したが、しかしこれが裏目に出て、逆に話を止めてしまった。
沈黙は、さらに場の空気を重くさせる。
「それより、由紀はどうなのよーぉ。あるんでしょ?よ・て・い・が!」
「う、うん・・・・あることは、あるけど・・・・」
なんとなく、理奈は由紀の様子がおかしいことに気付いた。
二週間前の噂の時とは明らかに違う。なにか、あれこれ思い苦しんでいるような・・・・そんな感じだ。
それがさらに確信に近づいたのは、由紀が理奈から目をそらしているところにあった。
理奈にも言えないことなのだろうか。
それとも、理奈が直接関係しているとか。
(そんなことないか。私と由紀はこんなに一緒にいるんだもん。隠すほうが難しいよね)
理奈はそう自分に言い聞かせてみたが、何か心がつっかえるような気がしていた。
すると由紀は正気に戻っていたのだろうか、理奈の肩を何度もたたき、繰り返し名前を呼んでいた。
さっきは由紀の様子がおかしかったのに、今度はその由紀のことを探ってじっと由紀を見ている理奈のほうが変に見えたようだ。
いつもの由紀が、そこにいる。
やっぱり考え過ぎだったのかもしれない。由紀にもぼう然となるときくらいあったっておかしくともなんともない。
自分が無心のままでボーッとする時があったからこそ、由紀も同じようなことが起こっていたのだろう。
そう考えれば、何も普通の人と変わりない。理奈はこの疑問を忘れることにした。
「ごっめーん。このごろ暑さでボーッとしちゃって・・・・」
理奈がいかにも本当らしい弁解をすると、由紀はふくれ面になった。
「理奈、由紀の予定のこと、聞いてなかったでしょう」
「えっ、な、なんだっけ」
どうやらけっこう早めの段階で由紀は自分の予定を話していたらしい。
「由紀、海に行くの。あ、海って言っても、このすぐ近くなんだけど・・・・」
「海って、あの皆島海岸?」
由紀は一転、目を輝かせはじめた。
「そう。毎年行くところなの」
今由紀が言った皆島海岸とは、この学校から歩いて三十分位のところにある、自転車でも気軽に行くことのできる場所だ。
すぐそばには海水浴場があるのだが、一般的に穴場とも言うべき場所なのだろうか、砂浜で海もすごくきれいなのになぜか人は集まらない。
確かに人見知りが激しい由紀には、ぴったりな場所かもしれない。
理奈も由紀はかわいいと思っているから、余計ナンパとかをされやすい子だった。でも皆島海岸だったら問題はない。
「由紀もたったそれだけ・・・・理奈と同じようなものだよ」
由紀にフォローされてしまった。
「いいよ、気をつかわなくっても。楽しんできてよね、私の分まで」
「うん。理奈も夏休み、暑いからってゴロゴロばっかりしていたらだめだよ。ちゃんと運動もしてね」
「大丈夫。さっきはそう言ったけど、せっかくの夏休みだもん。私の好奇心がそれを許さないよ」
由紀は笑顔を浮かべた。
「それ聞いて安心した。お互い、いい夏休みになるといいね」
「そうだね」
理奈は由紀と一緒に窓の外を見た。
セミの声は一段とうるさくなっている。
しかし理奈には、今度はそれが心地よい音に聞こえていた。
夏休みはすぐそこだ。