離れていく心・第2回
それは昨日のこと・・・・理奈が学校へと通学する道をただひたすら走っている時が事の始まりだった。
その頃理奈は、いろんな制服姿が入り混じった、通学時には暗黙の了解という感じで歩行者天国になってしまうけっこう大きい通学路を駆け抜けていた。
川がすぐ近くにあるせいか、朝に理奈の部屋の外でふいていたやわらかなものとは違って、少し風が強い。
しかし自動車がすぐ近くで走っているせいか、その風は生温い。
でも夏休みが近いためか、いつもはだらだらしながら仕方ないといった感じで歩く道も、みんな靴の音からして楽しそうだ。
かく言う理奈も、その一人だった。
その中で行き交う人たちを見ていると、セーラー服もあれば、ブレザーとか、それぞれの特徴がある、セーラーブレザーとかも存在している。
それぞれの制服たちが固まって話していることもみんな違っていて興味深い。
隣からは彼氏がいるのだとか、前からは片思いに悩む純粋な子だとか、とにかくいろいろ。恋の話しか聞こえてこないのは、理奈の本能なのか、それとも女の子はみんなそうなのか。どちらにしても聞いてて飽きないのは確かだった。
もちろん女の子に負けないくらい男の人も歩いているけれど、別に自分がその制服を着るわけじゃないし・・・・実を言うと話にもあまり興味はない。
ただ一人を除いての話なのは否定できないけれど。
しかしそんなこと考えたり、あの制服がかわいいとか夏休み前に限らずいつもそう思って歩く道も、今日はそんな余裕などなく、
「あーん、あと八分しかないよーぉ!」
と、急がざるを得ない今のありさま。
でも微妙な風にいたずらされそうなスカートを気にしながらだったので、そんなに早くは走れなかったけれど。
しかし、どうやらそれで早く走れなかったことに、今の悩みの元凶があったらしい。
右手を後ろに、スカートをガードしながら理奈が必死に急いでいるときに・・・・
「よう、理奈!」
軽く声をかけられ、さらに背中を軽くたたかれたかと思うと、その手はそこをなでまわしてきた。
理奈にこんなことをする人は、今までの中でただ一人しかいなかった。理奈は怒りを押し殺しつつ、黙って後ろを振り向き、
「ちょっと卓也、なにするのよ!」
ここで、ためた分も含めて爆発させた。 ちなみに彼は松本卓也といって、理奈のボーイフレンド・・・・といっても、本当にそのままの意味で、今のところは単なる友達でしかない。
なにか珍しいこととか、未知のことに遭遇した時の理奈は、うずうずしてしまう性格なのに、彼に対する想いの答えだけはずっと拒否してきた。
もちろん、興味がないわけじゃない。できれば彼とは友達以上になりたいと思っているのだから・・・・
でももう一歩が踏み出せない。怖くて言うことが出来ないでいる。
「おお、こわ。でも、安心したぜ。いつもの理奈でさ」
そんな理奈の気持ちを知ってか知らずか、誰にでも優しく接する卓也。もちろん、今の理奈に対する接しかたも特に他と変わりない。
今の言葉も何か意味があって言っているかどうかってことも、はっきり言ってわからない。卓也だったら誰にでも言いそうな言葉だから。
いったい卓也は、理奈のことをどう思っているのか・・・・ 理奈はその答えもずっと、出せずにいた。
「おはよう、理奈」
教室に入って自分の席につくと、隣で朝お決まりのほほ笑みが理奈を迎えていた。
さわがしい教室の中、その人だけ落ち着いているのが、逆に光って見える。これは冗談でもなんでもなく、本当の話だ。
その人の名前は川野由紀、理奈の一番の友達の女の子だ。うれしいことに、由紀もそう言ってくれている。つまり、親友だと言えるほど仲がいい存在なのだ。
引っ込み思案の割には、長めの髪をピンクのリボンで結んでポニーテールにしていたり、自分のことを名前で呼んだりと、けっこう理奈から見ても目立つようなことをしている。
そんな由紀とこうして親友として付き合っていられるのは、お互いにないものを持っているからだと思う。勉強も理奈は理系、由紀は文系が得意。性格も理奈は活発で、由紀は人見知りが激しい・・・・それぞれの立場で話ができるのが大きなメリットと言える。
それゆえ意見がかみ合わないことがあるのが、ちょっとデメリットかも。とはいえ、それも十分に許せる範囲だった。
まだ付き合いは浅いけど、これからもっと仲よくなっていきたいと理奈は思っている。
ただ、高校二年になるときが怖い。文系と理系は相反するために、クラスは百パーセント違うことになる。
(でも、それでも大丈夫だよね)
理奈は心の中でつぶやいた。はっきりと聞いたことはないけれど、きっと・・・・
「ねぇ・・・・理奈」
そんな理奈の思いに感付いたか、しばらくして由紀は姿勢を整え、改まったような感じで再び口を開いた。
「由紀ね、今さっき聞いたんだけど、あ、あのね・・・・」
由紀の様子が変なことに理奈は気付いた。一見すると、なんだか言い出したくないような感じだ。
そんなさなか、あえて何も言わないでおくと、とんでもない言葉を受けるはめになってしまった。
少しばかり教室の中のざわめきしか聞こえなくなった後の由紀の言葉は・・・・
「松本くんと付き合っているって本当なの?」