離れていく心・第1回
普通だったらまだほとんどの人が寝ているはずの、午前四時三十分。
日が長くなりはじめたこの頃、すでにあたりはうっすらと明るく、鳥はいかにも朝のすがすがしさを演出するように鳴いている。
近くで吹いている風もやわらかく、木々と一緒に歌っている。
何かを運搬するトラックのためか、その向こうの方・・・・ずっと遠くにある広い道路からは、まるでトンネルにいるときのようなエンジン特有の低音がかすかに届いてくる。
そんな朝、笹木理奈はとある出来事を思いだして、昨日学校から帰ってきたそのままの姿で寝てしまったふとんの上で、ゆっくりと目を開いた。
この時、うかつにも二段ベッドの下で寝ていたことをすっかり忘れていた理奈は、その思い浮かべてしまった出来事のおかげで、上体を上げるというより跳ね起きてしまった。
この後、その拍子に起こったことは想像できると思う。
その一瞬の出来事は、理奈の頭の表面だけでなく中のほうまで、言葉を発することが出来ないくらいの激痛を出すのに十分だった。朝でローテンションだということも加えて、そのあまりの痛さに理奈は頭を抱えこんだ。
「いっ・・・・た・・・・」
声にならないほどの痛みがする。再び理奈はふとんの上にばったり倒れ込んだ。
理奈は上を見上げ、涙腺がゆるみそうなのをぐっと我慢しながら心の中でつぶやいた。
(あーあ、またやっちゃった・・・・)
目だけ上にやりながら、そっと頭をなでてみる。脈を打つように痛み、理奈は自然と歯を食いしばっていた。
時々理奈は何かを思い出すたびに、こういうことになる。上では姉が寝息をたてて寝ているというのに迷惑他ならないのはわかっている。実際、怒られたこともある。
『あんたはおっちょこちょいなんだから、もうちょっと落ち着いて行動しなさい!』
と言われることがしばしば。
でも今回はよかった。起きていないらしい。
ほっとした理奈は、寝転びながらまわりを見渡した。
明るさこそ違うが、いつもと同じ風景に見える。
昨日のあまりの暑さのため、扇風機がつけっぱなしになっている。
ベッドの外には足の踏む場所もないほど、ありとあらゆるものが散らばっている。
まくらのそばには、五、六冊ほどお気に入りの恋愛小説がばらまかれていて・・・・
その近くにはある一枚の写真がフォトスタンドに入って、たてかけられている。
それを追って窓の外を見てみれば、赤紫に空が染まりはじめている。
雲も、そんなきれいな朝焼けに合うようにたなびいている。
理奈は姉をなるべく起こさないようにしながら(というよりすでに大きな音は一回立ててしまっているけれど)起き上がってそんな朝焼け見える窓の外を見てみた。
まだ明るくなってきた程度なのに、起きたてだからなのか、なぜかまぶしい。
再び理奈は部屋を見渡す。
普通に、ごく普通に、いつもと変わらない寝室なのに、それでも何かが違っているような気がする。
なんだかうずうずするような、ズキッと心が痛むような、そんな風に体の調子がおかしく感じる。朝からこの調子、これは尋常じゃない。
その原因は、たぶん・・・・
理奈は写真たてに飾られている写真を見ながら、昨日の出来事を思い返した。