うさぎのはらのクリスマス―3―



阿笠博士の家では、早速3人が買って来たニンジンと、包装紙を並べて・・・灰原が持っていた雑誌の、プレゼントの包み方講座とにらめっこをしながら。ああでもないこうでもないと論議していた。

「あら、遅かったわね・・・。探偵事務所に電話を掛けたんだけど。もう出た後だって言われてから大分経つわよ?」
「電話?」
「貴方はともかく、吉田さんが心配だったから。」

さらりと棘を含んだ物言いにも随分慣れたものだと自覚するけれど。コイツは、こと歩美に対しては酷く甘いのだと改めて思い知らされる。
歩美は歩美で、元太達に何かあったのかと聞かれて。「内緒」と含みのある言い方と笑みを見せて。後で元太と光彦に尋問・・・もとい、激しく追求されるのは覚悟した。

「で、歩美、編めたのか?」
「それがメインですからね!楽しみに待ってたんですよ!」
「あ・・・」
言い出しづらそうな歩美の表情に・・・見るに見かねて元太達の注意を引いた。

「それよりオメーら、にんじんどうやって包むか決まったのか?」
「それがまだなんですよ・・・」
「箱型じゃねーから難しくってよー・・・」


ちらっと灰原に目線をやると。この状況からアイツも読み取ったらしい。「コーヒーを淹れようかと思ってたの。・・・吉田さん、手伝ってくれる?」と歩美をそっと輪の中から連れ出した。

数分後、キッチンから現れた歩美は、その手に綺麗にたたんだタオルを大切そうに抱えていた。

「コナン君、あのね・・・哀ちゃんがね・・・」と嬉しそうに開かれたタオルの中には。小さな青い帽子がちょこんと乗せられて。

それは見せたがらなかったのが不思議な位、編目も凝った物だった。とても初めてとは思えない位。

「・・・これ、ホントに歩美ちゃんが・・・?」
「難しい所は蘭おねーさんがやってくれたの・・・それに、歩美が編んだ所も一目一目教えてもらったから」

ほかほかと立ち上る、薄い蒸気と同じ様に、歩美も嬉しそうに微笑んでいた。
元太や光彦にも賛辞の言葉を貰って。再びぎゅっとタオルにくるむ。

その後ろで意味ありげに笑って、コーヒーを置く灰原に、そっと声を掛けた。
「なんであんなに急に嬉しそうに見せてくれたんだ?」と。
「・・・オンナノコの企業秘密よ。」
「あんだよ、それ・・・」
「編目が揃わなくて気になる時はね、出来上がってからぬるま湯につけて、軽く揉んであげるのよ。そうすれば編目もある程度揃うの。その後はタオルでよく水気を取って、暖かい部屋で少し乾かせばいいわ。そうね、あの帽子なら小さいし・・・1時間もかからないでしょ。」
「へえ・・・オメーでも編物とかするのか」
そう冷やかせば。ふっと視線を逸らして。

「嫌な人ね。・・・お姉ちゃんに聞いて知ってたのよ」と。不機嫌にそう呟いた。


コーヒーを一口飲みながら。

知識があるならやってみれば良いのに、と。出かけた言葉を飲み込んだ。

・・・返ってくる返事が分かっているのに、わざわざそれを口にして相手の神経を逆撫でするなんて愚の骨頂だ。

『そんな事してる時間があるなら、薬の研究に使うに決まってるでしょう?』

・・・これだな・・・と。頭の中ではじき出された答えに重ねながら、コーヒーを口にする灰原を見ていた。多分、オレが口にしようとしていたそれも。その問いに答えるだろう言葉を、オレが読み取ってしまっている事も・・・伝わったのだろう。笑みを浮かべながら、二口目を飲むと、灰原はオレに向き直った。

「貴方が泥棒の真似事をするとは思わなかったわ」
平成のホームズと呼ばれた貴方が泥棒の真似なんて。皮肉ね、と笑う。
「・・・ホームズも、他人の家に盗みに入った事があるんだぜ?」と返すと。意外だったのだろう。きょとんとしている。

「・・・もっとも、オレ達は盗みに行くのが目的じゃなくて、プレゼントを置いてくるのが目的なんだけどな。」


そう。ホームズも純粋に自分の信じる道を歩む為に。何より依頼人を守る為に。その手を染めた。・・・そんな事があった。


犯罪なんてどういう理由があろうとしちゃいけない。

その自分の信念に迷いは無いけれど。

犯罪が絡む事の無い、こんな優しさには加担したくなる。

この、小さなホームズに、力を貸したくなる・・・。

妙に暖かな気持ちで墨を流したかの様な夜空を見上げれば、空には満天の星が瞬いて・・・・・ゆっくりとゆっくりと・・・・・・・・・・・落ちてきた・・・
「・・・・・・・・・・雪?」
思わずあげたその声に、元太達がオレを押しのけて窓を占領する。

確か、天気予報では雪が降るとしたら明日だと伝えていたから安心していたのに。

「おおっ!スゲ―!」
「綺麗ですねえ・・・」
「ロマンチックよね・・・明日は積もるかなぁ」

面々の声とは裏腹に。オレと灰原の表情は固く曇って・・・

「まずいわね・・・」
「ああ・・・」
ゆっくりと。激しくは無いけれど・・・こんな勢いで降り続けたのなら、明日の朝にはどこも白く染め上げられるだろう。普段降らない分、余計に恨めしくすら思える。

どうやら。オレ達がしようとしている事は、空からも見離されているらしい・・・。

「早いトコどうにかしねーと・・・」
「夜明け前の計画だったけど。・・・今すぐ行ってみる?」

二人の会話に元太が口を挟んだ。

「何言ってんだ?オメ―ら・・・」

「・・・雪が積もったら翌朝どうなってるか考えてもみろよ。真っ白な雪の上に足跡がついちまうだろ?・・・オレ達の足跡が残ったら、子どもの仕業だってすぐにバレちまうよ」

ああっ、と探偵団の面々も、事の次第に気がついた。

「じゃ、じゃあ・・・阿笠博士の靴を借りてですね」
光彦が出した提案も、歩美が察して言葉を切った。
「駄目よ、サンタさんはトナカイのソリに乗ってくるんだもん。そんな足跡が残ってたらおかしいって思われちゃうよ・・・」

散々アイデアが出尽くすと、ストーブの前に座り込んでいた灰原が立ち上がった。

「帽子は乾いたわ・・・今から出れば、朝までには足跡も分からなくなるんじゃない・・・」

さあ、と腰をあげた探偵団の面々を止めたのは、コナンだった。

「待てよ・・・。オレに考えがある・・・」

どうせやるんなら、としたコナンの提案に、彼らは身を乗り出した。