うさぎのはらのクリスマス―2―
「うさぎのはらの子うさぎ達は 空に輝く星を見ながら
サンタクロースに お願いしてるよ
お耳を包む帽子を下さい
星はきらきら まばたきしてるよ
窓の向こうからウインクしてる
きっと 願いは叶うだろうさ
うさぎのはらのクリスマス
うさぎのはらの子うさぎ達は 空に瞬く星を見ながら
サンタクロースに お願いしてるよ
一冬ぶんのニンジンください
星はきらきら まばたきしてるよ
窓の向こうからウインクしてる
だから願いは叶うだろうさ
うさぎのはらのクリスマス」
「へえ、可愛い歌だね・・・」
灰原が淹れてくれたコーヒーを前に披露してくれた歩美の歌は。幼い子どもの声で歌う所為か、心の中に暖かいモノが染み入る様な歌で。何だか空気も和やかになった。
「歩美ちゃんが歌うとまた更に、ですね」
「コナンが歌うと・・・・・・」
「やめましょう、元太君・・・歌のイメージが壊れます」
「オメ―ら、人が黙って聞いてりゃ」
「でも、この歌、良いんじゃない?うさぎがサンタクロースにプレゼントをお願いする歌なんでしょ?子ども宛のプレゼントは、多分園で用意してくれてるだろうけれど。うさぎのは・・・本物のサンタクロースでもなければ用意できないって、子どももそう思うんじゃない?」
「歌の中に出てくるうさぎのプレゼントは・・・ええと・・・にんじんと?」
「帽子、ですね・・・」
「にんじんは八百屋で買ってくりゃ良いけどよー、うさぎの帽子なんてどこに売ってるんだ?」
「オーダーメイドで頼むとしても、今からじゃ断られちゃいますよ・・・」
「他のモノに変えちまった方がいいんじゃねーの?なあ・・・」
しゅんとしてしまった探偵団を。盛り上げるかの様に檄を飛ばす。
「バーロ、だから良いんだよ。うさぎの帽子なんて普通手に入んねーだろ?」
「でも、当てなんてあるんですか、コナン君・・・」
「・・・それなら、手作りってのはどうかしら?毛糸とかでなら何とかプレゼントとしても形になりそうじゃない?」
「5本指の手袋があんだろ?あの要領で2本指のうさぎサイズの手袋を編めば・・・」
「ああ・・・帽子になりますね!」
「帽子の方は蘭に頼むとして、それをどう夜中に忍び込んで置いてくるかだな」
「あ・・・あの・・・」
思いつめた表情で。歩美が言い出したのは。「私に編ませて・・・!」という言葉だった。一瞬にして全員が固まった。
「・・・歩美ちゃん編物した事あるの・・・?」
「無い・・・けど、教えてもらいながら頑張る!これは歩美が言い出した事だから、歩美がやらなくちゃいけないと思うの・・・!ううん、やりたいの・・・・・・歩美も、サンタクロース信じたいの・・・!」
「でも・・・」
「迷ってるヒマは無いわよ?日曜日の朝には間に合わせないといけないんだから。」
灰原の声で、全員が指を折る。
「1・・・2、3・・・」
「げ、今日入れてもあと3日しかねーじゃねーかよっ!」
「とにかく毛糸を買ってきましょ。それからにんじんは土曜に集まった時に皆で買いに行く事にして・・・包装紙もその時かしら。」
「さしあたって今日しておかなきゃいけない事は・・・」
「うさぎの耳のサイズを調べておかないと!」
「よし、二手に分かれよう、光彦と元太とオレは幼稚園に忍び込んでうさぎの耳のサイズを調べてくるから、歩美と灰原は毛糸を手に入れてきてくれ。時間は1時間後。場所は阿笠邸。いいな」
そして得た情報は。うさぎの頭が丁度元太の握り拳と同じ位の大きさで、耳の長さが光彦の開いた手の平。耳の幅がオレの小指の長さといった所で。歩美と灰原は、シロと名付けられた子うさぎに、柔らかそうな青い毛糸を買って来た。
「多分、これで足りると思うの。後は吉田さんの頑張り次第ってトコね。」
そう言って笑う灰原に。「勿論、何かあった時の為にもう一つ買ってあるんだろ?」と尋ねれば。バカね、といった答えが返って来た。
「そんな風に予防線を張るなんて、吉田さんに対して失礼じゃない?」
そりゃ・・・そうだけどとぶつぶつ言うと。
「誤解の無い様に言っておくけど・・・私はサンタクロースなんて信じた事は無いの。・・・今回の事に関しては、吉田さんを信じたくなっただけ。だから協力してるのよ?」
と。いかにもアイツらしい言葉が返って来た。
その日から、蘭の手ほどきを受けながら。少しずつではあるが、毛糸は歩美の手によって、帽子の形へと段々近づいてきた。
時々心配になったから、ちらっと覗きに行った事務所では、小さなその手で毛糸と、その手と、編もうとしている帽子とには不似合いな程長い編み針とが格闘していた。
蘭に聞いた話だと。歩美は何度も失敗を繰り返してはやり直しているらしいけれど。それでも、「泣いてるヒマが勿体無いと思わないと出来ないもの」と。必死になっているらしい。
蘭が編めば、多分一晩もかからずに出来上がるのだろうけれど。
それでも、オレも歩美に頑張って欲しいと思う様になってきていた。
明日の朝が作戦決行の日となって。
今夜は阿笠博士の家に泊まる事にして、朝早くに幼稚園に忍び込む手はずになっていたから。歩美は帽子を完成したら、オレと一緒に博士の家へ。他のヤツらは先に博士の家へ行っている手はずになっていて。
オレがヤツらとにんじんや包装紙を買いに行った後、事務所に戻ると。丁度最後の糸の始末に取り掛かる所だった。
「頑張ったのよ、歩美ちゃん・・・」
「へえ」
覗き込もうとすると。表情を曇らせてさっとそれを隠して。俯いたまま、「やっぱり蘭おねーさんに最初から頼めば良かった・・・」とぽつり、呟いた。どうして?と口を開きかけ、蘭に先を越された。
「自信持って?・・・私は歩美ちゃんのその帽子、素敵だと思うもの。何より、歩美ちゃんの優しい気持ちがこもってるんだし」
「だって、最初の方なんて、ホントにぐちゃぐちゃで・・・」
小さな手の中に隠されたそれは。きっと、無理やり押しつぶされているのだろう。ほんの端が指の隙間から見えるくらいで・・・
でも、歩美ちゃんが言う程酷いものでも無さそうだった。
「私が最初に編んだの、見せてあげたいくらいよ?」と蘭が微笑むと・・・これ以上気を遣わせない様に、と歩美ちゃんも微笑み返した。
「・・・じゃあ、博士のトコ行こうか」
「・・・・・・・・・・・うん・・・」
薄暗い道すがら。
肩を並べて歩いていても、歩美ちゃんが沈んでいるのが分かる。
正直、オンナノコのこういう気持ちはよく分からないのだけれど・・・。ポケットにぎゅっと押し込められたままになっているそれの事は気になった。編物だから、まさか皺になるなんて事は無いだろうけれど。もしかしたら、と案じていたセリフが、とうとう、といった感じで歩美ちゃんの口から零れた・・・。
「にんじんだけ・・・じゃ、やっぱりダメかな・・・・・・」
どれだけ言い出しづらかった事だろう。
「・・・やっぱり、こんな不細工な帽子じゃ、すぐにサンタさんからじゃないってバレちゃうよ・・・」
それを編む為に、歩美ちゃんがどれだけ一生懸命だったか分かるから。でも。それは、サンタを信じている子の期待を裏切りたくない、嘘だとバレる様なことがあっちゃいけない、という・・・歩美ちゃんの優しさでもあったから。思い切って聞いてみた。
「・・・歩美ちゃんはさ、サンタクロースが居る所、知ってる?」
「えっ?・・・フィ、フィンランドっていう北の国?」
よく知ってるねと笑うと。お父さんが教えてくれたのだと、少し寂しそうに笑った。
「そこにいるサンタクロースもサンタクロースだけどさ・・・。彼らがプレゼントを配って歩いているワケじゃないんだよね。・・・もっと身近なサンタさん。何処にいると思う?」
ちょっと開いた間は。彼女なりに、居ると信じていたいサンタクロースを否定するといった気持ちからだろう。
「お父さんと・・・お母さん、ね」
そう呟くと、ポケットを、上着の上からぎゅっと押さえて。
「あのうさぎにはプレゼントをくれるお父さんもお母さんも居ないから。歩美が代わりにあげるだけなのね」
ぽつりぽつりと、自分に刻み込むかの様に話した。
「違うよ」
えっと顔を上げた彼女に。ちゃんと見える様に「ほら」と指で指し示す。
「そこが、歩美ちゃんのサンタクロースの居る所。」
「え・・・私?」
「違うよ、歩美ちゃんの中」
指の先にある、胸に手を当てて。きょとんとしている歩美ちゃんに、優しく微笑む。
「子どもには夢を持っていて欲しい。だからサンタクロースが居るって信じさせてあげたい。そういう優しい気持ちの中に、サンタクロースが居るんだと思うんだ。」
「私の・・・気持ちの中?」
「そう。歩美ちゃんのサンタは、今年すごく活躍してるんだよ?・・・光彦や、元太や・・・灰原。サンタを信じてない連中にも、そういう気持ちを・・・サンタクロースの居場所を作ったんだから」
そう言うと、歩美ちゃんは押さえた胸元に。宿した光を見るかの様に、そっと覗いた。
「歩美サンタが心をこめて編んだ帽子を・・・他の誰が否定できると思う?」
変わらず。ポケットからそれが出てくる事は無かったけれど。気持ちだけはほんの少し軽くなったみたいで。
「行こう?・・・光彦サンタや元太サンタ・・・それから灰原サンタが待ってるぜ?」
「・・・・・・・うん!」
・・・差し伸べた手を握り返すと、今度はさっきより幾分軽い足取りで歩き始めた。