雪月霞 第2章



「・・・・・・」

目の前に居るのが彼女だという事は、すぐに分かった。ただ、想像以上に綺麗になっていた事に驚いた。・・・とりあえず、何と呼べば良いのだろうかと逡巡している所へ、彼女の隣に居る小さな男の子と視線がぶつかった。

彼女の・・・子、だろうか・・・と一瞬ちらと掠めた考えを、彼は「違うよ」と否定した。まるで、私がそう口にしたのを聞いたかの様に―・・・。

「奈津子おねーさんと一緒に、おにーさんを待ってたんだ。」

親戚の子、だろうか。どこかで見覚えがある気がするんだが・・・。

「ボク、おにーさんが来た事、蘭ねーちゃんと毛利のおじさんに知らせてくるね!」
「あ・・・、コナンく・・・!」
彼は彼女に、にこっと笑って見せると、廊下の奥へと駆け出した。

「あ、あの、私、明智さんにお詫びをしなくてはいけない事が・・・」
ああ、そうか、道理で見覚えがあると思った。
「賢明な判断ですよ。」
「え?」
「毛利探偵にあの件をお願いしたのでしょう?」
「え・・・ええ・・・・・・」
「御存知ありませんか?先程の彼は怪盗KIDを何度か撃退してるんですよ。」
新聞でも何度かお目にかかった事があるし、同じ一課の捜査員には、毛利探偵にくっついてくるちびっこ探偵として既に顔なじみなのだと聞いた事がある。
「・・・ごめんなさい、明智さんにも毛利さんにも本当に失礼だと思ったんですけど・・・。私が毛利さんにお願いしたんです。」
「気にする事はありません。私に相談されたのは、君のお母さんなのだから、君が毛利さんに依頼をするのは自由ですよ。」
「明智さんが・・・こんな時期に本当にいらして下さるなんて思わなかったものですから・・・。」
「責めてるんじゃありませんよ。それに、私もその気障な泥棒の顔を、一度拝んでみたかったものですから。」
「そう・・・ですか・・・」
「はい。」

「・・・・・・」

微妙な間に、開け放たれた扉から風が入る。生けられた花が、さらと揺れた。
よく店先で見かけるそれらの花の中に、そっと野の草も添えられている。それが、かえって周囲の雰囲気と同化して、「人を迎える」雰囲気を作り出していた。

「・・・・・・・・・花・・・」
「え・・・?」
「・・・・・・・・・君が生けたの?」
買って来た物を生けているだけなら、こんなに優しい雰囲気など出ないはずだ。
「あ・・・、あの時はごめんなさい・・・」
「ん?」
「私、何も思いつかなくて、野の花なんかで・・・」
「・・・タンポポを・・・」
桜の下で本を読んでいる所に、息を切らせて駆けて来た彼女は・・・どこで摘んできたのか、花を手にしていた。
「・・・タンポポを手にしたのはあれが初めてだったから、よく覚えてるよ・・・。」

あの頃、既に知能指数が常人のレベルを遥かに超えていた所為もあるだろう。私には、大人も含めて、周りの人間がとても愚かに映っていた。こんなものに囲まれて生きる事に、嫌悪感すら抱いていた。
普段なら、関わろうなんて思いもしなかったし、関わる事があるとも思っていなかったのだが・・・彼女をからかう彼らのバカげた行為に、自らの内に溜めていた嫌悪感をぶつけてしまったのだ。俗に言う八つ当たりだと、すぐに気がついたのだけれど、自分がそんな低レベルな感情を持ち合わせていると思いたく無かった分、言葉を選ぶ事すらしなかった。

だから、彼らを追い払った事を彼女が感謝する必要は何も無いのだがー・・・彼女は、私の為に花を摘んできた。

桜の淡い色の中、彼女の手にした黄色が光の様に、映えて。・・・とても綺麗だと、そう思ったのだ。

手にした黄色い花の事を知ろうと、図鑑を手にした程に。

「・・・懐かしいね。」

そう微笑みかけると、彼女は真っ赤になって話題を逸らす様に変えた。
「明智さん、御食事は・・・?」
「え・・・?あ・・・そういえば・・・。」
そういえば、朝家を出たきり、何も口にしていない。署の方で食事を勧められたが、急いでいたので断ってしまったのだ。
「こんな所で立ち話も何ですから、お部屋へ・・・。何かお作りしますから。」
え、でも・・・」
時計を見れば、時刻は10時を過ぎようとしている。
「軽い物にしておきますから。」
ふふ、と微笑む彼女は、あの頃のままの笑顔だった。
「ああ、じゃあ・・・。」
返される笑顔に、あの日の笑顔が重なった。




あとがき
はい、第2章です。一応明智さん視点でという事で、短いながらも抑えてみました〜。奈津子さんとの思い出話が入るので、コナン君視点では・・・と。^^;

次からまたコナン君に戻ります〜〜。