第一の印象は、らしくねーな、だった。
優作のつけるタイトルとは雰囲気を異にした物語は、それでも読み始めてしまえば、まったくもって「らしい」話の流れ方をしていた為、程なくして違和感など感じずに読み進める事が出来た。ところが、読み進めれば読み進めるほど生じた困惑の原因は別の所にあった。
何しろ、ずらりと並んだ登場人物全てが、彼の・・・現在の江戸川コナンの・・・周囲に居並ぶ人間の名前そのままだったからだ。勿論、キャラクターとしての肉付けもオリジナルの性格や風貌そのままで。恐らく、博士か母さんから聞いたのだろう、探偵団の面々や、警視庁一課の皆様までずらり、である。
「おいおい・・・良いのかよ・・・」
少し遠のきかけた意識でそう非難する。何しろ、最初の優作の言葉通り、この物語には「犯人」が存在するのだ。犯人と共にとそう書き記してあったしな、とコナンは一人そう呟いた。
深く溜息を吐きながら、原稿用紙をめくる手を止めた。物語の続きが無かったのだ。優作の意図を、意思を辿る様に彼は天井を仰ぎ見た。
最後の原稿用紙には、『私自身が最も信頼している人。そして君が最も大切にすべき人の名の下に辿りつける事を祈っているよ。』という言葉が中央に書いてあるだけで、何のヒントも記されてはいなかった。
「って事は、これまでの展開から犯人を推理しろって事か・・・?」
犯人と共に伝えたい事、というのもまだはっきりとは掴めないままで。犯人と言えるだけの確証が得られていない段階なのが気にかかるが・・・。現段階で最も容疑の濃い人物。その上父さんに信頼される間柄という条件を当てはめるとしたらあの人しかいねーじゃねーか、と原稿用紙の問題の一文を改めてじっくり読み返す。この文面だと、その名の示す人の下に残りの原稿を預けてあるとも取れる。思い至ったその答えにまさかな、と苦笑しながら相手に電話を掛けると、彼はあっさりと「君に渡して欲しいと預かっている物がある。」と答えたのだった。
「え・・・っ?」
「ああ、そういえば、『貴方が犯人ですね』と言われたらと・・・」
「そ、それって家の父さんに・・・!?」
「他に誰が居・・・」
「なあ、今からそれ取りに行っても・・・」
「ああ、構わんよ?だが遅くなってしまっては・・・」
「え?」と聞き返せば。随分日が落ちるのが早くなってきたから、とたどたどしく答える。
「って事は、それ、結構分厚い封筒なんだな?」
「・・・ああ、まあ・・・」
行先は行きなれた場所だし。それほど遅くもならないだろう。冷気を孕む風に、さっと上着を羽織って出かけた。
ガチャリ、と聞きなれた扉を開ける音。電話で予め来る事は伝えてはいたけれど、チェーンも掛けずに迎え入れるなんて、無用心じゃねえかと問えば、主は苦そうに笑った。
「キツイのぉ・・・」
「博士にもしもの事があったら、灰原だって・・・」
言いかけた言葉も。博士の表情の変化に気付いて飲み込んでしまった。
「・・・何て表情すんだよ・・・」
「ああ、いや・・・気をつけなければ、と思っての・・・」
あまりに悲しそうな、表情。何かあったのかと問えば、「何でもないんじゃよ」と返ってきた。
長く・・・あまりにも長く、友人として向き合ってきた人。オレの身に降りかかった災難に、半ば無理やり付き合わせてしまっている人。とても、とても―・・・大切な、信頼出来る友人。
「何かあったら、相談してくれよ・・・?」
そう声を掛けても、彼はほんの少し口の端を持ち上げて、無理に笑うだけだった。分かっていた。目の前の彼は、誰かに縋る事より、縋られる事を選ぶ存在だという事は。
「何を二人して深刻そうな話をしてるの・・・?」
ふいに背後に気配を感じて、慌てて振り向けば。地下室から顔を覗かせたのは、灰原だった。
こいつはそれでなくても不安要素には弱いから。ああ、いや、と笑って否定していると、博士は「ほら、これじゃよ」と封筒を手渡した。だが、それは予測していた程の厚さもない。博士が『遅くなる』なんて言うから、もっと分厚いと想像していたのに、と漏らすと、博士に勧められたソファに腰を下ろして、封筒の中身を紐解いた。