工藤新一のあまりに工藤新一な日常 <スケート編>

くみくみ姉様

「あ…だめよ。だめだめ…動かないで」

私がそう言うと新一はとても困った顔をした。

「おめえなあ…。動かなかったら何にもできねえだろ?」

「そんなコト言ったって怖いんだもん」

「大丈夫だって。オレがついてんじゃねえか!」

「やさしく教えてくれるっていったじゃない!」

「…やさしくしてんだろ?」

「でもでもっ!!あ…あ…きゃ」

「ほら。そんなに腰を退いちゃダメだ」

「イヤイヤ…。新一のイジワル…」

「意地悪っておめえ…。じゃオレが後ろにまわろうか?」

「………」

「腰支えていてやっから。それなら怖くねえだろ?」

「え?え…いやだ!エッチっ!!」

 

 

ここはトロピカルランド。

そして今いるのは氷の上。冬場はコースターなどのアトラクションと隣接してスケートリンクが開設されるのだ。
屋内ではないので天候に左右されるのだが今日は雲もあまりない好天である。
やわらかな冬の午後の陽射しが頬に心地よい。

久しぶりの2人での外出だった。

高校生になりたての春、私も乗り合わせたロス行きの飛行機内で起きた殺人事件を解決したのがきっかけとなって新一はたびたび警察から要請を受けて現場に赴くようになった。
事件は日や時間、ところを選んでくれるわけではなかったから警察の方で遠慮してくれない限り、授業中でも食事中でも睡眠中でも必要となれば電話連絡が入ってくる。
学校側も本来なら問題にするところなのだろうが、メディアに初登場した事件があまりにセンセーショナルで世間一般にまで知れ渡ってしまい特異な能力を持つ彼を社会の安全確保の義務という名目がある以上その行動を妨げるのは躊躇ったらしい。
私も約束しても「事件があってダメになった」ことが幾度あっただろう。
新一は探偵になるのが夢だって小さな頃から言っていたけれど、この状態がそれならばなんとも物悲しい気分になってしまう。
夢を追ってどんどん遠ざかる後姿をただ見つめることしかできないもどかしさがその大部分を占めるのだろうけれど、どう頑張ってみても彼の隣に立つことはできないのは解っていたから。
時々普通に言われる「生活」に戻った時、新一が安らぐことのできる場を作ってあげたい…。それが今のささやかな私の夢となった。 

そして…
「何も入らなかったら…」という条件付きではあったが今日の外出は新一の方から誘ってきたものだった。

 

休日だから当然のことながらすごい人出なのだが、もっと驚くことにその人出の7割までもがアベックなのだという。
これは「いわゆるひとつの典型的デートスポットってやつですか?」と前に園子が言っていた事の受け売りなのだけれど…。
もっとも…彼女には今日のコトは内緒だ。変に漏らせばニマニマと含みの有る笑いをされた上邪推されて、休日明けに学校に出校したらミョーなウワサになっていた…となるのは目に見えている。
デートスポットね…そう思って周りを見まわせば確かに男の子と女の子の2人連れは多い。
考えてみれば私と新一だって組み合わせだけで言えばその仲間に入るのだ。

でも…

リンクに降りて、全く滑れない私をかかえて新一はひどく戸惑ったようだった。
そして何か義務感のようなものを感じたらしく楽しみに来たはずのスケートが個人レッスンのスケート教室に様変わりするのにそんなに時間はかからなかった。

 



「きゃあああっ」

氷の上では与えられた力が倍増するのだろうか…。
腰に廻された手にびっくりして反射的に振りほどくと、もともと危うかった足元は支えを失ってぐらつき、支えをかって出てくれていた新一をも巻き込んで見事にひっくり返ってしまった。

「いててててて…」

肩から落ちた新一がもう片方の腕でさすっている。
私はと言えば派手に転んだ割には特にどこも痛さを感じない。どうやら彼が転ぶ時にかばってくれたらしい。
申し訳なさと恥ずかしさで俯いてしまう。
新一は肩を押さえながらそれでも簡単に起き上がると苦笑しながら私を見下ろした。
目の前に手が差し伸べられる。

「ホラ 立って…」

差し伸べられた手に少しだけ躊躇った後すがる。
反動をつけて起き上がったので少しよろけたが繋いだ手がしっかりと受け止めてくれた。
気恥ずかしさに顔を上げられないまま手をそっと離すと「大丈夫だったか?」と覗きこんでくる。

「疲れたろ?ちょっと休もっか?」

たどたどしく…それでもなんとかリンク壁に辿り着く。
ふうと安堵の息を吐いた後、腰までの壁にもたれてぼんやりと周りの景色を眺めた。
ジェットコースターからキャーと叫ぶ声が聞こえる。
同じトロピカルランドならあっちがよかったなーとココロの中でグチをこぼした。

「蘭が全然滑れねえなんて思ってもなかったぜ」

笑いながら言うので少しくやしい。

「…悪かったわね」

「スキーだってなんだって人一倍できるおめえがさあ…」

「いいわよ…。新一滑りたくってうずうずしてるんでしょ?私ここで待ってるから行ってきて。」

「あん?」

「私に付きっきりじゃ楽しめないもん…」

「ばーか。いいんだよオレは…」

「たまのお休みじゃない。新一この頃休みの度事件だったでしょ?」

「ん?ああ…そうだな」

「だから楽しんでよ。私はいいから。それに私も新一が滑るところ見てみたい。」

「そっか?…でも今日はいいや…。滑れねえ蘭ひとりで置いて行くのも心配だしな」

「え?」

「ひとりで滑ってても楽しくねーだろ?蘭が上達したら遠慮なしに滑るさ。言われるまでもなくな…」

「…それでいいの?」

「そ!オレ上手いんだぜ?ジャンプもダブルなら3種類跳べるし!次回のお楽しみ!」

新一は笑ってそう言うといたずらっぽくウインクした。

 

トロピカルランドに夕日が沈む。

「寒くねえか?」

「ううん。平気」

「ここさ…。ナイターもあるんだ。7時になると花火があがるんだけどこのリンクから見るとあの城のバックにそれが見えるんだぜ。」

「へーっ!特等席なんだね」

「そうそう!おめえこういうのスキだろ?」

「え?」

「見せてやりたくってさ…」

夕焼けの赤が辺りを包む。その陽を見つめている新一は振り向きもせず小さく呟くようにそう言った。

 

ちっちゃい頃からいじわるで…
いつも自信たっぷりで…
推理オタクだけど…

見つめる瞳は真っ直ぐで
差し出してくれる手は暖かで
自分の言葉で語る姿は毅然としていて…

そんなあなたが…

あなたがだーい好き

 

声には出さずその背に向けて想いを告げる。

ふいに新一が振り返った。

「コーヒー買ってやるよ」

「うん?」

「ポケットに入れておくとカイロ代わりになるからな」

「うん!」

「それで暖をとりながら花火までもうひと滑りしようぜ!」

「え〜〜〜〜っ!まだ滑るの?」

「ったりめーだ!スケートリンクに来て他になにすんだよ?」

「だって…」

「ほらほら!ぶつぶつ言ってねえで行くぞ」

「わ…わっ!!待って。待って転ぶ…」

引かれた手に縋って滑り出す。
自然に繋がれた手。
スケートもたまにはいいかなーと不純な動機で思った自分に頬が赤くなるのが解った。

 

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某所サイト様で910番をふみふみしたおかげで強奪できました(笑)
しかし何と言っても、さっすがゆにっとKの相方ですv・・・ちゃんとくぬぎの趣味を熟知されておられる(笑)
くぬぎの為にこんなにらぶらぶであったかいお話をっありがとー!くーねー!!(><、)
新一にーちゃん踏めただけで幸せなのにっ!パソコンの前で万歳したのにっ!
その上くーねーちゃんがくぬぎの趣味に合わせて書いて下さるとはっ・・・ううう、しあわせvvv(><//)

木枯らし吹く季節にはやっぱりらぶらぶが一番!!(断言してるし・・・)

これ読んでて、「Secret of my heart」の写真の群れがアタマを駆け巡ってましたvv
・・・皆様もこういった小説の群れをそのまま隠しておくのは勿体無いと思われません?(^^;)

くぬぎ