くーみん

「こんばんは〜〜〜っ」

今日も蘭が来た。

立冬が過ぎ暦の上の季節が到来すると実際のそれも近づこうとするのか急に風に冷たさが加わるようになった。
今年は何を思ったのか蘭がセーターを編むのだと言って秋になるかならずの頃相談にきた。思い立ったが吉日な性格の娘はすぐにでも編み始めたい風だったがまだ夏の名残がそこかしこにある季節になんとも気が早すぎるわよと苦笑まじりに忠告した。毛糸を扱うにはまだ暑すぎると。
それに編むモノさえ決めてしまえば2週間もあれば編みあがるのだからと先送りにすることを納得させたのだ。
それが仕事の都合もあってなかなか時間をとってやれない内にずるずると遅れに遅れ秋も終盤になってしまったのだ。じれた蘭が事務所の方にまで顔を出すようになって無理やりにでも時間をとって始めたのはつい1週間ほど前のことである。つくづく時間はできるのを待つのではなく作らねば手に入らないのを実感することになってしまった。

今日は土曜日で仕事は午前中のデスクワークのみにして切り上げてきた。なので自宅のマンションで会うことにしてある。お茶でもしながらゆっくりと思ってケーキも買った。なんだか気持ちが弾んで待つのも楽しい時間となった。
普通の親子とは言えない生活を送っている私たちだからこそこうやって普通の会話や親子の時間を持つことがこんなに楽しいのだろう。不憫だと思ってるし自分の我侭から出たことだとの自覚もある。それでも未だこうして子不幸な日々を続けているのは、やはり譲れない部分もあるからだ。

「あら。早かったのね」

「うん。走って来たのよ。時間がもったいなくて…。随分寒くなってきたし早く仕上げたいもの」

リビングのソファに座ると早速膝に編みかけのセーターを広げた。

「お茶飲んでからにすれば?」

「うん。でも夕食の時間までには帰らなくちゃいけないから…」

言いながら手を動かし始める。あらあら…もう夢中ね。
誰の為のセーターなのかは聞いていなかった。話したければ蘭の方から話してくるだろうし。でも。この様子を見ていると大方の察しはついてしまう…。「ウチで編むのはちょっとマズいの」と言った理由は解らなかったけれど…。

「あっ!だめよゴロ!」

毛糸玉にちょっかいをかけようとした猫を叱る。数日前にもここで編んでいた時に同じようにそばえられて糸がからんでしまい大変な思いをしたのだ。
だからリビングから締め出しておいたハズなのにどこからか入ってきてしまったらしい。
イタズラができないように抱え上げてもう一度「お茶飲まないの?」と声をかける。

「もう少し。もう少し編んだらキリがいいの」

しばらく様子を見ながら待っていたがなかなか手を休めない。「じゃあキリのいいところで止めて声をかけてちょだいね。それまで私は書類の整理してるから」と声をかけて猫と共にリビングを出る。ドアが締まるその隙間から「はあい」と答える蘭の声が聞こえた。

 

 

いつのまにか仕事に没頭してはっと気付くといわゆるおやつの時間は遥かに過ぎてしまっていた。声はかけられなかったわよね。それとも気がつかなかったのかしら私…。曖昧な記憶を辿るがやはり呼ばれた覚えはない。遅くなっちゃたわと思いつつキッチンに入りコーヒーメーカーに2人分の分量をセットする。冷蔵庫からケーキも出してすっかり用意をしたあと蘭を呼びにリビングに入った。ゴロが脚にまとわりつきながらついてきた。

「蘭…あんまり根を詰めると続かないのよ?肩も凝るし。お茶でも…しま…」

あら…眠っちゃってるわ。
寒いと手が悴んで上手く動かないだろうと軽く暖房を入れてある室内は心地よい温度に保たれている。
午前中は部活があったと言っていたから疲れがでたのだろう。
暖かな室温に誘われてフローリングの床にそのまま横たわって静かな寝息をたてていた。

ゴロが蘭を起こそうとしてか「にゃおん」と鳴きつつ鼻をこすりつけたがその目は閉じられたままだ。
眠ってしまうとなかなか起きないのは変わってないのね…と変なところで感心したが、このままでは風邪をひいてしまうだろう。

起こさないようにそっと毛布を掛ける。暖かさが気に入ったのか体に巻きつけるように寝返りを一つうつ。
その反動で長い髪がぱさりと顔に落ちた。
体が大きくなってもいつまでも子どもは子どもなのだという当たり前のことがひどく嬉しく感じられて、落ちた髪をかきあげてやりながらシアワセな気分になる。
と…蘭の口唇が小さく動いた。
何か楽しい夢でも見ているのだろうか…
やわらかな微笑みを浮かべたその顔は見守るこちらが赤面するほど、穏やかで暖かで…そしてとても綺麗だった。

 

「…う…ん………しん…いち…」

 

聞こえるか聞こえないかの微かな声がある人物の名を告げる。
聞かなかったことにできればそうしてやりたいのは山々だが聞こえてしまったことに目を瞑る…否。耳を塞ぐことは性分からいってできないことだ。
なるほど。
やはりそういうことなのね。
まあ当然と言えば当然なのだろうけれど…
メディアの中で見かけたさわやかに笑う彼を思い浮かべる。
本人に会ったのは10年も前のことでその頃は腕白な子どもに過ぎなかったのを遥かな記憶の片隅で思い出した。
蘭の上に自分の知らない10年の月日が流れているのを見せ付けられたようで切なくなる。

 

枕元に置きなおした編みかけの蒼いセーターを見やった。
探偵と幼馴染はやめておきなさいと言ったはずなのに…首を振りつつ文句のひとつも言いたくなる。
これはやつあたりなのかも知れないけれど。 

「有希子に一度問いただしてみなくちゃいけないわね…」

これは親心よ。正当な言い分だからね…と眠っている蘭の耳元に宣言する。

遊び相手が眠ってしまって退屈していたらしいゴロが体を摺り寄せてきた。抱き上げて咽元を撫でてやればグルグルと気持ちよさそうに咽を鳴らし目を細める。

「ねえゴロ…あなただってそう思うでしょ?」

そう問いかけた私の顔を見上げて「にゃおん」と一声。
その返事に満足してコーヒーを飲む為にキッチンに向かった。

 

 

――――― 2000年カレンダー 11〜12月の景色より ―――――

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くぬぎより

「陽」と同じく、メールにてのお話交換にて強奪しましたっv

あはははは、くぬぎはらぶらぶモードで書こうと視点をコナン(新一)に設定して書きましたが、やはり英理さんでしたか!
うん、24巻にホントに出てきそうなエピソードvvv素敵ですよねえ、皆様っ♪

すごーく自然な雰囲気で陶酔っv

そうそう、くーねーちゃんが最初にくれたものとは文字のサイズや色が変えてあるんですこれ・・・ごめんねくーねーっ(^^;)
読みづらいとかじゃなくて、他のいただきもの等などと雰囲気合わせたかっただけなの(−−;)