「名探偵KAITO」

  byはすみ

(冗談じゃねぇ。…なんで俺がこんなことを…)
“工藤新一”は、殺人現場で溜息をついた。
…滅多に見られない光景である。
無理もないのだが。

探偵である新一が、好奇心をそそるはずの現場で溜息をついたのには、理由があったのだ。


「あ、目暮警部。どうしたんですか?」
「おお、工藤君!たった今、キッドが出たところだよ。まんまと逃げられてしまったんだが…」
目暮はそう言って苦笑した。
「まったく…、上に頼まれて、一課から出向いてきたというのに…」
「お疲れさまです。それじゃ、僕はこれで…」
新一は、足早にその場を去った。
「…っぶねぇ★…んでも、結構ごまかせるもんなんだなぁ…」
新一…いや黒羽快斗は、新一の制服のネクタイをゆるめると息をついた。
別に好きで工藤新一の姿を借りているわけではなく、仕事を終えて、警察をまくのにたまたま使った相手が彼だっただけである。
しかし、まさかこの選択ひとつで、重大なことに巻き込まれてしまうとは、快斗は思ってもいなかったのである。
「あれ?新一じゃない!」
後ろから声を掛けられて、快斗はぎくりとした。
慌てて振り向くと…
(あ、青子!?)
「何してるの?さっき、あそこの曲がり角で分かれなかったっけ?」
(いや、違う…。蘭さんじゃねぇか…。工藤の彼女の…って、んなこと言ってる場合じゃねぇよっ)
「え?そうだったっけか?」
出来る限りのポーカーフェイス。
“工藤新一”は両手をあげて、戯けたような表情をして見せた。
「…?まあ、いいんだけど。そう言えば、高木刑事が探していたわよ」
「高木さんが?」
(…おいおいおい。何か話が…やべー方向に……)
快斗は冷や汗をかきながら、一応それに答える。
「うん。事件が起こったから、手伝って欲しいって。目暮警部は、二課の仕事でいないらしいのよ」
「ええええっ!?」
…思いっきり動揺したので、地が出てしまった。
けれど、声質は似てるから、別にどうってことない。…いや、そうじゃなくて。
「どうしたのよ?高木刑事、目暮警部を見つけてから現場に向かうって。今から新一の後を追おうと思ってたの。はい、これ現場への地図よ」
「……ああ、サンキュ」
蘭から地図を受け取ると、快斗は深い溜息をついた。
(どーしよ。…やっぱ現場に行くのか。でもよ…工藤に頼むって言う位なんだから相当難しいだろうし…)
「どうしたの?新一」
ひょいっと蘭が、新一の顔を覗き込む。
ドキッ★
…青子に似てる蘭の顔は、快斗の最大の弱点だった。
「あ、…な、何でもねーよ…」
よかった。
きっと工藤でも、こーいう反応するんだろうからやりやすいぜ。
快斗はそう考えて、少し苦笑した。

「密室殺人……」
今日何度付いたか分からない溜息を、快斗はもう一度つく。
横では、高木と佐藤が被害者の身元チェックをしているところだ。
「死亡したのは、城戸拓也さん、35歳。高校教師をしていて、この家に一人暮らしだったそうです。第一発見者は宮村さんですが…」
(っだーっ。分かるわけねーじゃねえかっ。何で密室殺人なんだよっ)
「どうかしたのかね?」
目暮が横から声を掛ける。
「あ、いや…。何でもないです…」
ははっと快斗は苦笑する。
「警部」
そこへ丁度鑑識がやってくる。
「どうやら死因はやはり、背中に突き立てられたナイフのようですね。死亡推定時刻は、今から二時間ほど前です」
「おお、そうか。となると、宮村さんが発見する一時間以上前だな」
(発見者…?……なんかよくあるパターンだよな、そいつが犯人ってこと)
何の根拠もないのに、快斗はそんなことを考えてみる。
「宮村さん、とりあえず、発見したときの状況を詳しく…」
「ああ。今日俺は、こいつと麻雀する約束していたんだよ。こいつの部屋に来るのは、初めてだな。部屋のチャイムならしても出ないから管理人を呼びに行って、部屋が開かないのを確認したあと、彼に頼んで合い鍵を取ってきてもらったら……城戸が……」
「……なるほど。それで、あなたが管理人の…」
目暮が頷いたあと、管理人である三戸に声をかけた。
「ええ、そうです」
「彼に、何か変わった様子などありましたか?」
「いえ、特にはありませんでしたよ。今日は頼まれていた合い鍵を彼に渡しに行っただけでして」
「……合い鍵?」
「はい。鍵を落としたとおっしゃられていて、マスターキーで合い鍵を作って届けに行ったんです。三時間ほど前でしょうか」
三戸がそう言って少し首を傾げる。
(…被害者が倒れていたのは部屋の中央。死因は背中のナイフ。部屋は密室で、鍵は遺体のポケットの中。…ん?真上に電灯…。ここならトリックとか仕掛けてもバレなさそうだけど…。んでも警察が調べれば分かっちまうか…)
とりあえず快斗は警官に頼んで、電灯のそばをチェックする。
「何かありますか?」
警官が聞く。
「あ、いえ…。ただ、ここに焦げたあとが……。……!」
「焦げたあと?」
警官の聞き返した言葉よりも、快斗は一瞬だけ変化した、宮村の表情を見逃さなかった。
自分がポーカーフェイスの持ち主だけに、他人のを見破るのも簡単だ。
(なるほど…?マジで怪しいかもしんねぇな…)
「いえ、何にもなかったです」
快斗は“工藤新一”になって少し苦笑し、それから宮村に向かって視線を移す。
(今日ばっかりは立場が逆だが、工藤になりすましたからには…暴いてやるぜ。この事件の謎を)
…その表情は、意識していなくても、“工藤新一”と同じ顔になっていた。

(電灯の裏に焦げたあと。そしてその真下のナイフ。だいぶ分かってきたような気がしたんだけどなぁ…)
「警部、被害者から睡眠薬が検出されました」
「何!?」
(睡眠薬…)
鑑識の言葉に目暮が驚く。
「すると犯人は、殺す前に被害者を眠らせていたということに…。だが何のために…」
(ははーん。なるほどな。そうしないと確実に殺せねぇからな…。とすると…)
快斗はクス、と笑うと、そっと宮村に視線を移す。
彼は先ほどから落ち着かない。
(何もかも分かったぜ。あんたが犯人だってことも、トリックも全てな…)
「おい、警部さん、そろそろ帰っても良いだろ?用事があるんだよ」
宮村が目暮に声を掛ける。
「俺にはアリバイがあるんだぜ。俺は城戸が殺された五時間前からずーっと友人といたんだぜ」
「ああ、まあ、事情聴取はまたと言うことで、今日はよろしいでしょう」
目暮がそういったその時。
「待って下さい、目暮警部」
快斗は名探偵“工藤新一”になる。…そして、彼が自分と対峙したときの笑みを浮かべてみせる。
「どうしたんだね、工藤君」
「まだ帰ってもらっちゃ困るんですよ…」
快斗はそういって宮村に視線を投げる。
「犯人の宮村さん。あなたにね」
「何だと!?」
「お、おい工藤君!」
目暮が慌てて口を挟む。
「それなら密室のトリックや彼のアリバイはどう説明するんだね?」
「簡単なことですよ、警部。密室なんて大袈裟な物じゃなかったんです。何故なら…」
快斗が宮村に向き直る。
「あなたは殺害のためのトリックを仕掛けたあと、堂々と部屋のドアから出ていったんですから。城戸さんから奪った鍵で部屋を施錠し、部屋が開かないところを管理人と一緒に確認した…。そして管理人が合い鍵を取りに行っている隙に部屋へ入り、鍵を再び城戸さんのポケットへしまったんだ。…違いますか?」
「何だって!?」
目暮が目を見開いた。
「…あなたは既に開いている部屋のドアを閉まってるように見せ、鍵で開ける振りをして錯覚させたんだ。この部屋は密室だったとね」
「ほう…。面白いことをいうじゃないか。いいだろう。君の推理を聞こうじゃないか」
宮村は、余裕ぶった声で答える。
「説明してもらおうか?俺がどうやって奴を殺したか…。俺には友人と一緒にいたというアリバイがある」
「確かに。…宮村さんはあるトリックを仕掛け、アリバイを作ったんです」
「!!」
宮村の表情が変わったが、すぐもとに戻る。
「まずあなたは、城戸さんを睡眠薬で眠らせ、部屋の中央に横たえた。そして、電灯から糸を吊した。…先端に、ナイフが付いている糸をね」
「せ、先端に?」
目暮が怪訝そうな顔をして問う。
「ええ。そしてその糸の適当な場所に、タバコを取り付けたんです。…時間が来たら、その炎で糸が切れ、先端のナイフは…」
快斗が宮村の方を見て笑う。
「城戸さんの背中に落下。…違いますか?」
「………」
宮村は口を開かない。
「しかし工藤君。それなら糸やタバコが残ってしまうじゃないか」
「だから宮村さんは、第一発見者になったんですよ。それらを回収するためにね。実際、管理人と遺体を発見したのは、宮村さんが仕掛けを回収したあとだったんでしょう。回収した糸などは、外の廊下から投げ捨てればいいだけのこと。細い糸とタバコなんて、簡単に落ちていても不自然ではありませんからね」
「そ、そうか!」
「証拠は!?証拠はあるのか!?」
宮村が声を荒げた。
(何………?)
確かに、今までの話は推理で、証拠があるわけじゃない。
「フン、あるわけねぇだろ?俺は犯人なんかじゃねぇんだからなぁ?そうだろ?高校生探偵、工藤新一君?」
「お、おい。工藤君」
目暮が横で慌てている。
快斗は黙ったままだ。
(畜生…。どうする?どうすれば………)
「証拠ならありますよ。決定的な証拠がね」
(え?)
突然後ろから、よく通る声が響いた。
「何だと?」
宮村がそこに視線をやり、そして大きく目を見開いた。
続いて快斗も振り返る。
「く……、工藤新一!?」
「な…。工藤君はここに…」
宮村と目暮が慌ててる中、快斗は本物の工藤新一の方に、微かな笑いを投げかけた。
(後は、任せるぜ。探偵君?)
新一もそれに答える。
(バーロ。適当に人の名を語んじゃねぇよ)
「じゃあ君は一体!?」
目暮がもう一度快斗の方を振り返ったが、“そこ”には誰もいなかった。
かわりに、微かな白煙が残っている。
ふっと新一が笑うと、前に進み出た。
「心配はいりませんよ、目暮警部。彼には、僕から決着を着けておきますから…」
「彼って…一体誰だったんだね?どう見ても工藤君にしか…」
汗を流す目暮に、新一は少し笑って答える。
「僕の……避けて通れぬ、運命の相手……ってところですね」
微笑する新一の後ろで、もうひとり不適に笑む影も…。

「フン、証拠だと?どーいうわけだか知らないが、ばかばかしい…」
宮村の言葉に、新一は真剣な表情に戻る。
「あなた、被害者が亡くなる五時間前から友人と一緒にいたんでしたね」
「そうだよ。それがどうか…」
「それなら」
新一がにや、と笑って。
「あなたの指紋が、彼の鍵に付いているはずありませんよね…?」
「!!」
宮村の顔色が変わる。
「恐らく仕掛けをするときは、あなたは手袋をしていたはずだ。捨てられた手袋も下のゴミ収集所で見つけました。…しかし、彼の鍵を使って部屋の中にはいるときには、手袋をしていなかったんじゃないですか?…何しろ、ぐずぐずしていたら管理人の三戸さんが戻ってきてしまう。遺体を発見したら、当分その場から動けず、持ち物チェックもされてしまうので、三戸さんが管理人室に戻っている間の短時間で手袋を捨てに行くことは不可能。糸やタバコと違い、手袋なんかは廊下から投げ捨てるわけにもいかない。…つまり、べったり付いてるはずなんですよ。あなたの指紋が、城戸さんの鍵にね!」
「…………」
宮村は俯いたまま答えない。
「さあ、説明してもらいましょうか。何故、あなたが留守にしている間に作られた鍵に、あなたの指紋が付いているのか」
新一はじっと宮村を見る。
「宮村さん…」
目暮の声に、宮村はふっと笑った。
「俺の負けだな。高校生探偵…工藤新一……」
そう言って宮村は、あらいざらいを全て白状し、警察の手へとわたった…。


「おい、いるんだろ?怪盗キッド」
新一の声に、ストッと屋根から白が降りてくる。
「見事な推理だったぜ?探偵君」
「バーロ。何勝手に人になりすましてんだよ…。もうちょっとで俺の株が下がるところだったぜ」
「おやおや、それは大変失礼いたしました」
キッドは戯けたような調子でそう言う。
「…にしても、お前さっさと現場から立ち去れよな。何最後まで推理聞いてんだよ」
「…気付かれてたんだな。…ま、俺も『真実』ってものが気になってね」
キッドは笑ってそう答える。
「それじゃ、本日はこれで失礼しましょう。名探偵君?…いや、」
キッドは途中で言葉を切り、少し間を空けて空を仰いだ。

「……私の、避けて通れぬ運命のお相手……工藤新一……」
ポンッと白煙が上がり、あっと思った次の瞬間には、キッドの姿は何処にもなかった。

「避けて通れぬ……運命の相手…か」
新一が下を向き、少し笑ってもう一度顔を上げた。
「…次こそは捕まえてやるぜ?…怪盗キッド」


<おまけ>

「あっ、新一っ」
「あ、よぉ、蘭」
自宅に入る直前に、買い物帰りの蘭と遭遇した新一は、彼女の妙な視線に気付く。
「…ん?なんだ?」
「えっ?な、ななななな何でもないわよっ」
蘭は真っ赤になって否定するが、これじゃ否定にも何もなってない。
「何だよ。何かあったのか?」
新一が蘭の顔を覗き込むと。
「何よっ、いきなり手にキスとかしてきたのに、何にもなかったような顔しちゃって!パカッ」
蘭は思いっきり新一の背中をはたくと、一目散に走っていってしまう。
「いってーっ。何なんだよっ。俺は手にキスなんかしてね……」
…手にキス?
そこで新一は我に返る。
…そして次の瞬間、怒りに打ち震えて叫ぶのだった。

「怪盗キッドぉーっ。ざけんじゃねーっ」



<おわり>

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後書き

こんにちは!はすみです(^^)
こんな長い小説(らしきモノ)にお付き合いしていただいてありがとうございました(><;)
ハッキリ言って、トリックとか滅茶苦茶です…;
ただリクエストで、「新一くんの代わりに事件を解くキッド様」を書くためだったんです…。
怪盗キッドは私の大好きなキャラクターで、コナンにはまったきっかけとも言えます(笑)
けれど難しいですね、やっぱり(^^;)
修行を積んで出直してきます(汗)
はすみ

くぬぎより♪

はすみねいさまからいただきました、くぬぎのリクです♪

快斗が推理に詰まった時、くぬぎも本気で「証拠!!なんかないのかな!?(−□−;)」とのたまってましたが、やっぱり真打でしたね♪「新一にーちゃあああんん!!」とホッとしてしまいました(^▽^)謎解きより謎かけの方が得意な快斗君ですもん、そこは御愛嬌♪
しかし・・・ラストの新一にーちゃん・・・(笑)やったな!キッド!(笑)と思ったのはくぬぎだけ・・・?(^^;)新一にーちゃんにはこれ以上の嫌がらせはないでしょう(爆笑)