君が幸福の中に在る様に。
怪盗としての自分が生まれたその場所で、彼は薄汚れた一通の封筒を見つけた。
元は真っ白い封筒だったらしいそれは、長い年月をそこで過ごしてきた事を物語るかの様に、降り積もった埃にまみれて汚れていた。
封筒が落ちていた痕跡をうっすらと残した床の埃に目をやれば。5年・・・いや、もっと以前からそこにあった物の様だった。
消印も、宛先も差出人の名前も無い―・・・
あるのは、赤い蝋に押し当てられた様な、どこかで見覚えのある刻印のみだった。
快斗は首を捻りながら、その封筒についた埃をそっと払った。
事の始まりは、盗一の残したその部屋を掃除しておこうという、快斗にしては珍しく殊勝な思いつきだった。
この間キッドの衣装を取りに入った時に、床の上にうっすらとついた、ネズミの足跡を見つけた所為だった。
埃ならともかく、ネズミが居る様では、盗一の残した物・・・―まだ快斗自身、その全部の物をチェックはしきれないでいる色々な物―・・・が無事で済むとはどうしても思えない。それに何より、盗一の残した部屋である。この不衛生な環境のまま知らぬフリは出来なかった。
幸い、母親も今日は朝から出かけていて・・・帰りも「夕飯時には帰る」という、まさに「隠し部屋」をこっそりと掃除するにはうってつけの日だった。
まずはいつもキッドの衣装を置いているその場所から片付け始め・・・掃除機を延長コードに繋いで持ち込んだ。とりあえず、どれくらい時間がかかるか分からないという状況なので、部屋の奥に天井高く積み上げられた・・・―とは言っても、この部屋の天井はそれほど高くは無いのであるが―・・・ダンボール箱へと手を伸ばした。
恐らく、手品の道具が詰め込まれた物だろう。やけに中身が軽い物もあれば、時々おやっと思う位には重みのある物と、様々だった。
一通り埃を払いながらそれらを運び終えた所に姿を現せたのがその封筒だったのである。
しばらく考え込んでいた快斗は、自分の身体を置くのに十分なスペースをその場に確保して座り込んだ。
手品用の切れないナイフをペーパーナイフの代わりにして、その封印を紐解いた―・・・。
中から出てきたのは、一枚のFDと、紙切れが一枚。古めかしい、といった様子のFDには、端が黄色くなりかけたラベルが貼り付けてあり、そこには「我が息子へ」という文字があった。それは、幼い頃に何度か目にしていた字だった。
FDについての事が書かれているのだろう、と快斗は紙切れを開いた。
盗一らしい、上質な真っ白い紙には、丁寧にインクで、予想外の言葉が書き記されてあった。
――――私は十万年には存在しないが、秒針が回りきる瞬間に一度、どの瞬間にも二度存在する―――――
・・・暗号、というよりは謎掛け、だろう・・・。
・・・だとしたら、このFDのパスワードなのだろうか、と快斗はそのFDに目を落とした。
紛れも無い盗一の書いた字。・・・恐らくこのFDは危険な物ではないだろう。
掃除を続けようにも、それが気になって集中出来る状況では居られなくなった。
・・・快斗は、微かに、盗一の存在を日常のリアルなものとして感じて、ふ、と苦笑した。
しょーがねーな、つきあってやっか・・・
怪盗キッドとしてではなく、天才マジシャンとしてではなく、普通の、父親としての盗一・・・その存在を感じながら、何とも言えない照れ臭さに口を尖らせてみせるのも・・・悪くは無い、と思った。
あとがき
序章にあとがきが要るのかなーとか思いつつ、なくぬぎです。
この「君が幸福の中に在る様に。」はこれよりもう少し長いくらいの短編が5本で構成されてます。
難なく読めちゃうというレベルのお話の長さにあたるわけですが、道中2つ、最後に1つ、パスワードクイズが設問してあります。
解けないと次に進めない、という構成です。
くぬぎの設問だから「げ」といったものだろう・・・と思われた方、御安心を^^;
快ちゃんが途中色々とヒントを出してくれていますし、今回の設問は「皆様に快ちゃんと謎解きを楽しんでもらおう」といった趣旨ですので、くぬぎのいつもの偏った(自覚してたのか)設問ではありませんから。恐らく、●●の教科が苦手だという方も、辞書を片手にある程度暗号をこねこねして解けるはずです。
ただ、これだけは申し訳ないのですが。
メールで救済要求されても、くぬぎはおそらくお返事できません^^;メールを下さった方が青山先生なら話は別ですけど。(その理由はどんぐりにてくぬぎの暴走をご存知の方はよーく分かってくださいますね?(^^;))
解読できた、という方も、掲示板等でパスワードの公開はしないでいただける様お願いします。
パスワードを突破した後の内容に関しては、あぶりだしでお願いします。