白鳥の湖

蘭ちゃんを捜し歩いていた新一君に、お城の王様から知らせが届きました。
なんでも、誕生日を祝うパーティに出席するようにとの命令です。
平次君も和葉ちゃんも一緒にお城に行く事になってしまいました。仕方なく新一君はしぶしぶお城に戻り、パーティに出席しましたが、隙を見てこっそり会場を抜け出しました。

「・・・今は蘭を捜してるんだ、それどころじゃねーよ・・・」

長い道程を馬で駆けて行くと、目の前に湖が広がってきました。
闇の中、月に照らされ、湖は吸い込まれるような美しさを放っていました。
ほとりに集まった白鳥達が、静かにその光を浴びながらたたずんでいます。
・・・へえ・・・こんな綺麗なとこがあったんだ。アイツに見せたらきっと喜ぶだろーな・・・
新一君がそう思っていると、月の光の中、白鳥たちが静かにその姿を変えていきました。
「・・・・・・・・・・・・・・!!!???」
新一君は目を見張りました。
その中でも一際美しい白鳥が、ゆっくりと・・・新一君の捜し求めているその姿に変身していったのです。
「・・・・・・・・・・・・・・ら・・・・・・・蘭・・・・・・・・・・・!!」
思わず駆け寄ってしまった新一君に、女の子達は驚いて悲鳴を上げました。
「あ・・・・・・新一君!?」
「・・・・・・・・そ、園子!?なにやってんだ、おめー・・・」
のんきな新一君に、園子ちゃんは苛立ちながら話します。
「何やってんだじゃないわよ!!・・・大変だったんだから!!悪い魔法使いにこんな姿にされちゃって!!」
そして、園子ちゃんは魔法使いに白鳥に変えられてしまったこと、夜の間だけは人間の姿に戻れることを話しました。
これまでの事情を涙ながらに話す園子ちゃんの言葉を、たったの一言も発せずに新一君は聞き入っていました。
「・・・・・・・・・そうか・・・・・・そんな事が・・・・・・・」
よく見ると、皆知っている女の子達です。
「・・・・・・・・・皆、新一君が来てくれるのをずっと待ってたんだよ!!?」
「・・・・・・・・・・・おれを?」
きょとんと聞き返す新一君に、園子ちゃんは少し躊躇いながら話し始めます。
「・・・・・・・・・・・その・・・・・・魔法を解くには、姫役の蘭が・・・蘭と新一君が、皆の前で愛を誓わなければいけないって・・・・・・」
「はあ!!!!?????」
「・・・・・・・・・・・・・・・・だから、新一君、あたし達を助けると思って」
園子ちゃんの言葉が終わらない内に、突然蘭ちゃんがその場から走り出しました。
「あっ!!!!蘭!!!!」
思わず、新一君は蘭ちゃんを追って駆け出していました。
後に残された園子ちゃんを始めとするクラスメートの女の子達が、一斉に溜息を吐きました。
「・・・誓ってくれるかな・・・工藤君・・・」
「・・・って、誓ってくれなきゃあたし達元に戻れないのよ!?」
「でも、ああいう風に言われたら工藤君、余計に言えないんじゃない・・・?」
クラスメートの一言に、その場はしんと静まり返ってしまいました。

「蘭!おいっ!!待て・・・って!!!」
なんとか新一君は蘭ちゃんに追いつき、逃げられないように腕を掴みました。
「・・・・・・・どうしたんだよ、急に・・・!!!」
蘭ちゃんは新一君の顔を見ようとせず、顔を背けます。
「・・・・・・・・・・・蘭?どうしたんだよ・・・?」
肩を抱き寄せ、新一君は蘭ちゃんの顔を・・・覗き込みました。蘭ちゃんは両肩を抱かれ、俯いて新一君の視線を避けました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・蘭?・・・震えてるのか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・かったんだよ・・・・・・・・怖かったんだよ・・・ずっと・・・・・新一が助けに来てくれるって・・・・・信じてたけど・・・・・・でも・・・・・・・・」
「おれも・・・ずっとおめーを捜してた・・・」
新一君を見上げた蘭ちゃんの瞳には、涙が潤んでいます。
「・・・やっと・・・・・・・・やっと・・・・・・・・・・見つけたんだ。・・・・離しゃしねーよ・・・・・・・」
新一君は蘭ちゃんをぐっと抱きしめました。
「・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だ・・・おれが何とかしてやっから・・・!」
「・・・・・・・だって・・・・・皆の前で誓うんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誓ってやるよ・・・おめーがそれで助かるんなら・・・・・・・・」
「・・・新一ぃ・・・!」
蘭ちゃんの大粒の涙が、新一君の服を濡らしました。
「・・・明日の夜、城へ来てくれ・・・そこで親父とおふくろと・・・皆の前で誓うから・・・・・・」
やっと元の姿に戻れる・・・
そんな蘭ちゃんの希望を、魔法使いが嘲笑を含んだ笑みで見守っていました。
「ふっ・・・せいぜい今の内に幸せに浸っておくんだな・・・・・・」
闇夜に漆黒のマントを翻し、魔法使いのジンは姿を消しました。

次の日の晩、新一君は覚悟を決めて、王様とお妃様と城中の人間だけでなく、平次君も和葉ちゃんもすべて集めました。
「何が始まるっちゅーねん・・・?」
首を傾げながら尋ねる平次君に、新一君はいたずらっぽく微笑んで答えました。
「・・・・・・・・・・・・・結婚式さ・・・・・・」
「け・・・・・結婚式ぃ!!?」
「だ・・・誰と結婚すんのん!?・・・蘭ちゃん見つかってもおらへんのに!!」
「・・・もうすぐ真実が解き明かされるさ・・・」
6人の美しい姫を前に、新一君はただただ蘭ちゃんの到着を待っていました。
余裕の表情の新一君に、平次君がむっとしながら釘を刺します。
「・・・おい、分かってるとは思うとるけど、この6人の中から和葉を選んだらただじゃおかへんで・・・?」
平次君の言葉に、新一君は吹き出したいのをこらえながら答えます。
「んなわけねーだろ・・・もうじき・・・」
新一君の言葉を遮るかのように扉が開いて、ウエディングドレスに身を包んだ蘭ちゃんが現れました。
「ウエディングドレス・・・気が早いって・・・」
新一君は苦笑しています。
「・・・・・・・・・ら・・・蘭ちゃん!!????」
和葉ちゃんも驚いて目を見開いています。
「・・・・・・・こっちに来いよ。」
差し伸べられた手に導かれ、蘭ちゃんは微笑みながら前へ進みました。
「・・・この人がおれの選んだ相手だよ」
そして、新一君は蘭ちゃんの顔を覆うベールをそっと上げようとしました。
「・・・・・・・待って・・・・・・それより先に誓いを立てて・・・」
新一君の手に、蘭ちゃんの手が重なりました。
「あ・・・ああ、そうだな・・・」
心臓が張り裂けそうな程、鼓膜が破れそうな程に大きな音を立てています。
「・・・・・・おれはおめーに永遠の愛を誓・・・・・・う・・・・・・・・・・」
言葉が不自然に途切れました。
新一君は改めて目の前の蘭ちゃんを見つめました。
ベール越しににっこりと蘭ちゃんは新一君に微笑みかけています。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰だ、おめー・・・・・・?」
「・・・・・・・・・」
蘭ちゃんはただただ微笑んで、答えようとしません。
「蘭じゃねーな・・・?」
目の前にいるのは確かに蘭ちゃんなのです。
でも、どこか不自然なのです。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おめーは一体誰なんだ・・・?」
目の前の蘭ちゃんはベールを上げると悲しそうにふっと笑いました。
その時、扉が大きな音を立てて開きました。
扉を開けたのは紛れも無く蘭ちゃん本人です。
蘭ちゃんが二人のこの状況に、平次君も和葉ちゃんも、王様の優作さんもお妃の有希子さんも、城中の全員が驚いていました。
「・・・・・・・・・・・・・・新一・・・・・・・どうしたの、皆・・・・・それに、その人は・・・?」
「・・・教えてやるよ。元の姿に戻れなくなった姫君・・・」
暗闇の中から、ジンが現れました。
「お前が待ち望んでいた誓いを、こいつは他の女にしてしまったのさ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・えっ・・・・・・・・・?」
「・・・もっとも、こいつはこの娘がお前だと思っていたようだがな・・・こいつの名前は青子、・・・こいつも魔法をかけて連れてきた娘さ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・嘘っ・・・・・・・・!」
涙を瞳いっぱいに溜めて、蘭ちゃんはその場から走り去りました。
「ら・・・蘭っ!!!」
新一君が止める声も、蘭ちゃんの耳には届きませんでした。
雷鳴が鳴り響き、城をどす黒い雲が覆いました。
「・・・私の名前は青子・・・。あの人と同じく、魔法をかけられて連れて来られたのです・・・。あなたがもっと早く青子に・・・蘭さんに気付いていれば・・・青子の魔法も解けたのですが・・・」
「・・・お前がこの娘に愛を誓った事を忘れるなよ・・・?」
冷たい笑みを浮かべたジンを新一君はギッと睨み付けました。
城中に響く雷鳴と共に、ジンと青子は姿を消しました。
「・・・・・・・・くそっ!!!!」
新一君は悔しさを拳に込めて、柱に打ち付けました。
「・・・工藤・・・」
心配そうに駆け寄った平次君に、新一君は鋭い視線を投げかけました。
「蘭を追う!・・・悪いが、ここで待っててくれ!!!」

湖のほとりで、蘭ちゃんは事情をクラスメートの女の子達に話しました。
皆一様に驚き、嘆き悲しみました。
「って・・・事は、あたし達、もう・・・元の姿には戻れないって事・・・?」
「そんな事はいーわよ、新一君と蘭はどうなるの・・・・・・・?」
「・・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・・皆・・・・・・・・・・・・!」
蘭ちゃんは、まっすぐ湖に向かって駆け出しました。
「蘭!!!??」
女の子達の悲鳴が、森の静寂を切り裂きます。
「・・・・・・・・・・・・・さよなら・・・・・・新一・・・・・・・・・!!」
蘭ちゃんは冷たい水の中を、足をとられながらも深みへと進んでいきます。
「ば・・・ばっかやろ――――!!!!」
新一君の声が、湖に響き渡りました。
驚いて振り返る女の子達を突っ切って、新一君は蘭ちゃんを捕まえに一直線に走っていきました。
「来ないで!!!」
腰まで冷たい水に浸かって、蘭ちゃんは悲しそうに叫びました。
「わ・・・・・・わたしが死んだら、園子たちにかかった魔法は解けるの!・・・・・・・・園子たちまで犠牲にしたくないよ!!!わたし一人の命で皆が助かるんなら・・・!!!」
「蘭っ、駄目ぇ!!!!」
女の子達も、園子ちゃんに続いて、湖に入って蘭ちゃんを追ってきました。その足を止めたのは、新一君の叫び声でした。
「おめーが!!!・・・・・・おめーが・・・人を殺す気かよ・・・!!!」
新一君の悲しみに満ちた叫び声が、胸まで水に浸かった蘭ちゃんの足を止めました。
「・・・・・・・・・・許さねーぞ!!!!・・・・・・・よりにもよっておれの一番大事な命を消すなんて真似はさせねー!!!絶対させねー!!!」
新一君の頬を光の粒が流れ落ちます。
「・・・・・・・・・・・・・・・し・・・・・・・新一・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな事したら、一生許さねーぞ・・・・・・!!!!!」
ザブザブと水音を立てて、新一君は蘭ちゃんの所まで辿り着きました。
「・・・泣いてる・・・・の・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・ばかやろー・・・・・・・」
新一君の頬を流れる涙を、蘭ちゃんはそっと手を伸ばして拭いました。
「・・・・・・・・・・・・・蘭・・・」
女の子達の見守る中、二人はお互いに互いの身体を抱きしめました。
「・・・約束してくれ・・・おれの命は一生、おめーに預ける・・・その代わり、おめーの命もおれに預けてくれ・・・二度と自分から死を望んだりしないでくれ・・・」
「・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・!」
二人がお互いの身体の温もりに、心を安らげていると、突然地鳴りのような音を立てて、風が森の木々を揺らし始めました。
「・・・・な・・・・・何!?」
「・・・・・・・・ジン!!!」
新一君の視線の先に現れたのは、冷たい表情のジンでした。
「別れは済んだか?」
余裕の笑みで二人を見下し、ジンは口を開きました。
「・・・・・・・・別れなんかじゃねー・・・ここから始まるんだ・・・・・・!おめーなんかにおれ達の心は分からねーだろーけどな!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・黙れ!!!」
ゆっくりと銃口を向けるジンに、新一君は蘭ちゃんの身体を庇うように立ちはだかります。
「悪の力には全てがひれ伏す・・・お前もその一人に加わるのさ。愛する彼女の死を持って、初めて知る事になる・・・!」
新一君も、水面の下で、ゆっくりと剣に手をかけます。
「・・・させねーさ・・・おめーの思い通りになんか・・・!」
水面から突然切りかけた新一君の剣に、ジンは一瞬驚いて怯みました。
「・・・・・今だ!」
新一君は手に手を取って、蘭ちゃんと冷たい水の中に潜り込みました。
銃弾が、水の中まで二人を追ってきましたが、なんとか二人は岸に辿り着く事ができました。
「こっちだ!!」
水を吸った重い服に足を取られながらも二人は湖にせり出した崖に辿り着きました。
「そこまでだ・・・!」
いつのまにか追いついたジンが、威嚇の銃弾で二人の足を止めました。
「・・・・・・・・・・・・・!」
「悪いが、お前はもちろん、その女もブラックリストに載ったのさ・・・なあに、一瞬で終わる・・・」
絶体絶命です。
新一君は蘭ちゃんの身体を抱きました。蘭ちゃんが驚いて新一君の顔を見つめています。
「・・・・・・・・・・・・なあ、蘭・・・確かこの後のセリフは『この世で二人の愛が叶えられないなら、悪魔に邪魔されない世界へ行こう』・・・だったよな・・・?」
「え・・・?」
「・・・手直しさせてもらうぜ・・・?『二人で共に生きよう。おれ達を認めようとしない全てに、二人の・・を認めさせていこう』・・・しっかり息を吸い込んでくれ!!」
新一君は蘭ちゃんをしっかりと抱きしめて頭を抱え込むと、崖から湖に飛び込みました。
真っ黒な水は優しく二人を抱き留めると、少しずつ明るい光を投げかけてきました。

「あ・・・朝日よ!!?」
園子ちゃん達の歓声があがりました。
「・・・・・・・朝になっても人間の姿でいられるわ!!」
「魔法が解けたのよ!!!」
「・・・・・・・・そ、そんなバカな・・・・・・・!!」
魔力を失ったジンは、光の中に溶けるように消えていきました。
水面に現れた新一君と蘭ちゃんの前に現れたのはキッドでした。
「・・・・・お、お前は!!!」
「よお、名探偵・・・お久しぶり。・・・僭越ながら、同じ魔法使いとしてあなた方にかけられた魔法を解きに参上しましたよ?」
「・・・どうして・・・」
「青子が・・・身代わりの彼女が世話になったお礼ですよ・・・。土壇場で気付いていただけたので、彼女のは魔法が解けたんです。」
「・・・いくらベールで顔が見えなくても、蘭かそうでないかくらいはすぐ分かったぜ?・・・危なく最後まで誓っちまう所だったけどな!」
「そのようですね・・・それでは、私はこの辺で失礼させていただきますよ!・・・またお会いしましょう、名探偵!」
光の中に消えていくキッドを見送って、二人は岸に戻りました。
女の子達が歓喜の中で迎えてくれました。
「すごいじゃない!!どうやって魔法を解いたの!?」
嬉しそうに尋ねる園子ちゃんに、新一君ははっとしてゆっくりその場から後ずさりを始めました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・新一君?」
首を傾げる女の子達に、新一君はひらりと馬に飛び乗ると、
「わ・・・わりぃ、事件が忙しくてさ―・・・」
と早々と立ち去りました。
「・・・・・・・・変なの・・・・・何があったの?蘭??」
蘭ちゃんは頬をほんの少し赤く染めて、にっこり微笑みました。
「・・・・・・・・・・・・・・なんでもなぁ〜い・・・・・・・!」
「何、それぇ!!?愛を誓ったから魔法が解けたんでしょ!?プロポーズの言葉はなんだったのよ、教えなさいよぉ!」
「・・・別に言わなかったわよ?・・・極めつけの一言は!」
「はあ!!!???」
「・・・・・・・・・本番までお預けかな?」
にっこり微笑んだ蘭ちゃんを、優しく光が照らしていました。

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昔話・・・では馴染みが無いかと思われますが、白鳥の湖です(^^;)
ヨーロッパの昔話をチャイコフスキーがバレエにしたというあの話が元になってます♪
いえ、折角青子ちゃんがいるんだしと思って(笑)

ラストの「この世で二人の愛が叶えられないのなら、悪魔に邪魔されない世界に行こう」というのは、どうしても新一君の口には合わないと思いましたので、くぬぎなりに変更、手を加えてみました。だって、新一君が心中するような真似は絶対しないで欲しいもん(^^;)大切な人を死なせるような真似は絶対しないと思うし・・・。それが蘭ちゃんなら尚更・・・。くぬぎの新一にーちゃん像です。あくまで勝手な(笑)で、プロポーズのセリフ(?)はやっぱり本編で青山先生に描いていただきたいのでわざと伏せ字(点)にしてしまいました♪だから、あれはプロポーズでもなければ告白でもありません(笑)

いばらひめから続くシリーズをこれで終えて、正直な所、ほっとしてます(^^;)
また続いたら面白いでしょうかねぇ?(笑)