いばらひめ

昔ある所に12人の妖精の祝福と、1人の妖精の呪いをかけられたお姫様が住んでいました。

姫が17になってしばらくして、王様とお妃様は出かけていたある日、姫は城の中を探検して歩いていました。
そして、塔のてっぺんの小部屋に入り、好奇心で触れた錘にさされて眠りに就いてしまいました。
その時ちょうど城に戻った王様もお妃様も、家来たちも・・・庭の犬も屋根の上の鳩も、かまどではぜていた火も、焼かれていた肉も・・・全てが眠りに落ちました。そして、お城の周りにいばらの垣根が伸び出して、お城を包み込んでしまいました。

隣国の王子がその話を耳にして、慌てて姫を助けにきました。

「うっわ〜〜〜〜〜、すっげーなぁ、このいばら・・・!!」
新一君が城を覆ういばらを見上げていると、そこへ平次君がやってきました。
「くっ・・・工藤!?」
「は・・・服部ぃ!!?」
二人はお互い指を差し合って驚きました。
「おめーどーして・・・」
「お前こそなんや!?」
「おれは・・・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おれもや!・・・・・・・奇遇やな・・・」
二人が向かい合って渇いた笑いを振りまくと、ちょうど二人の前のいばらのつぼみが開きました。
「あ・・・・・・・・ばらが・・・・・」
「・・・・・・来いっつー事か?」
「おもしれーじゃねーか!」
二人がいばらに手をかけると、ふっといばらの蔓がほどけて、道を示しました。
「よっしゃ、行ったろやないか!!なあ、工藤?」
「あ・・・・・・・ああ・・・・・」
新一君は少し浮かない表情で平次君の顔を見ました。
『まずい時にまずい奴に会ったなぁ・・・もし、この中で眠っているのが蘭だったら・・・』
確か、お姫様を起こすためにキスしなくてはならないはず・・・なのです。
『冷やかされる程度で済めばまだましかもしれないな・・・』
でも、なんとしても自分以外の男と蘭がそんな事になるのだけは許せません。
「ん?なんや、工藤・・・さっきから人の顔じ〜っと見て・・・」
「なんでもねーよっ!」
「まさか、中で眠ってるってお姫様、あのねーちゃんなんか?」
「・・・・・・・・・・・・・やっぱそうなのか!!?」
顔色を変えた新一君の表情を、平次君が見逃すはずがありません。
「いや?・・・なんか隣の国に眠ったままの綺麗なお姫様がおるて聞いて、誰やろと思って顔を拝みに来たんや・・・。ひょっとしたら工藤が来るんやないかと思ってな?」
「・・・あ・・・」
新一君の顔に、全身の血液が集中していきます。
「おもろいもんが見れそーやな!!」
平次君が浮かれて先に進もうとしました。
「あ・・・痛っ!!」
「・・・どーした、服部・・・?」
痛みを感じた指からは、鮮血が膨らんでいます。
「どーしたんだよ、服部・・・あ、血ぃ出てんじゃねーか・・・。気ぃつけてねーからだよ」
にっと笑って進む新一君の周りの蔓は、新一君を傷付けないように道を開けているかのように見えました。
「・・・・・・なんや、この蔓・・・・・・おれには入って欲しないみたいやな・・・」
「はあ!?蔓が!!??・・・服部、おめー大丈夫かぁ?蔓がそんな意志持ってるわけねーじゃねーか・・・」
こうしている間にも、新一君はどんどんと突き進んで行こうとします。新一君の背中が少し小さくなったと思ったら、いばらの蔓が平次君の目の前を塞ぎはじめました。
「だああ!!!もう、うっとおしーやっちゃなぁ!!!なんで工藤は良ぉておれは駄目なんや!!??」
無理に茂みの中を突き進もうとして、平次君の頬に棘が触れました。頬を横切るかのようについた傷からは、赤い血がすーっと流れて落ちました。・・・・・・・それを見て驚いたかのように、蔓は平次君の周りを抱きしめるように取り囲みます。
・・・・・・・・・・・・・なんや・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
頬が切れた痛みも、周りを優しく取り囲む棘の痛みも、いつかどこかで感じたような感覚でした。
「置いてくぞ!服部ぃ!!!」
新一君の声が少し小さくなりました。大分離れてしまったようです。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おまえ・・・・・・・・・・・・もしかして、和葉か・・・・・・・・・・・・・?」
平次君は思い切っていばらの蔓に話し掛けました。
蔓はぴくんと動いた後、そのまま動きが止まってしまいました。
「・・・・・・・・・・・探しとったんやで・・・・・・・・お前見当たらへんかったし・・・・・・・・・・・・・・なんや、いばらにされとったんかい・・・」
棘も気にせず、平次君はいばらの蔓をぎゅっと抱きしめました。頬にも腕にも、いばらの鋭い棘が突き刺さります。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いばらか・・・お前にはぴったりやな。すぐきっつい事言いよるし、口より先にすぐ手が出るもんな。よお似合ぉとるで?」
蔓は平次君に絡み付き、ぎゅっと締め付けました。
「あたたたた!!!!・・・・・・・ちょ、待てぇや、和葉!!!そないに怒んなや・・・・・・続きがあるんやから!!!」
蔓は少し戸惑いつつも、締め付ける力を和らげてくれました。
「・・・・・・いばらなんかにされとるお前見てんのも・・・おれかて辛いし、・・・幼なじみのよしみや・・・・・・・・・・おれが助けたるから、待っとれよ、和葉・・・!」
いばらの蔓がすっと離れて、道を作り始めました。
「・・・なんや?そっちに行け言うてんのか?」
いばらに一輪、赤い花が咲きました。
「せやけど、工藤が行ったのはこっちの方やで?」
赤い花がぽんぽんと道を照らすローソクのように、道を指し示します。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・和葉・・・・・・・・・・」
平次君はしばらく考え込むと、意を決して歩き始めました。
「・・・・・・・・・・・・・・和葉、道案内頼むで?」
赤い花が嬉しそうに、平次君の通った道に咲き溢れて後を追いかけていきます。

その頃、新一君は蔓はよけて通してくれるものの、進むべき方向を見失ってしまっていました。
「くっそ〜・・・どこだ、蘭!!」
とにかく、平次君と合流した方が良いと、新一君は来た道を引き返し始めました。

「・・・・・・・・和葉、具合悪いんか?」
平次君が躊躇いながらそう尋ねました。
お城の中に入った頃から、花が咲くスピードが落ちてきているのです。
咲くのもやっとといった感じで、咲いては萎れ、咲いては萎れ・・・目に見えて限界が近づいてきているようでした。
「・・・・・・・・・・・無理すんなや・・・・・・もう、ここまで来れたら後はおれが自分でなんとかしてやるから・・・・・・・・」
平次君の言葉に安心しきってしまったかの様に、蔓ごと一気に萎れ始めました。
「・・・・・・・・・・・和葉!!!???・・・・・・しっかりせえ!!!」
黄色くなりかけた葉がちらちらと落ちていきます。
一刻の猶予も無い事を平次君に知らせるかのように、それは平次君の上にも降り注ぎます。
「・・・・・・・・・おれを誘導すんのに頑張りすぎたんか!?・・・・・・待っとれ、もう少しや!もう少しで・・・・・!!」
平次君は葉が落ちる中を焦りながら階段を駆け上がっていきました。

「な・・・なんだぁ!!?いばらが・・・!!!」
庭では新一君がいばらの急変に驚いていました。
急速に枯れていくいばらが、今まで遮っていた視界を覗かせ始めました。
「・・・・・・城が見えた!!!あっちか!!」
新一君はその先にいるはずの蘭ちゃんの元へとまっすぐに駆け出しました。
「待ってろよ、蘭!!!」
平次君が蘭ちゃんに・・・などとは思っていないのですが、でも、やっぱり蘭ちゃんの危機に一番に駆けつけるのは自分でありたいと、新一君は必死です。
息をする事すら忘れたかのように、新一君は一気に階段を駆け上がっていきました。そして、視線の先に現れたのは・・・
「・・・・・・服部!!?」
平次君でした。・・・・・・平次君はドアの前に立ちすくんでいました。
「何してんだよ、早く部屋に入って・・・」
強引にドアを開けようとした新一君を服部君が制します。
「ちょ、待ってくれ!!」
「な・・・なんだってんだよ、一体!!」
「この・・・・・・この蔓ばら、和葉なんや!!ドアを強引に開けたら和葉がちぎれてまう!!」
「え!?」
新一君は改めてドアを見ました。
一面ばらの蔓がびっしりドアを覆っています。
「・・・・・・どうしろってんだよ・・・・・・!」
新一君が平次君を振り返ると、もうそこに平次君の姿はありませんでした。
「は・・・服部・・・?」

平次君は、一階下の階段の明かり取りの窓から城の外に出て、壁を伝って登っていました。
目的の部屋は、この城の最上階・・・ビルの5階位の高さです。
落ちたらただでは済みません。
でも、平次君にはそんな事に対する恐怖感などありませんでした。
そんな事より、大切な幼なじみを失う事の方がよっぽど怖かったのでしょう、小さなレンガの隙間に指をかけて、汗びっしょりになって登っていきます。指先からは血が滲み始めました。
いばらが、平次君の足がかりにと、最後の力を振り絞って何度も手助けしようとしたのですが、その度に平次君は「あほ、いらん事しとらんと、おれが助けるまでしっかりしとれ!!」と叱り付けます。

平次君があと少しの所まで来た時です。
足がかりにしていたレンガが欠けて、平次君の身体が大きくバランスを崩しました。
「・・・・・・!」
もう駄目かと思った時、平次君の身体が宙に浮きました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?」
いばらがネットを張るかのように、平次君の身体を抱き留めてくれたのです。
「・・・・・・・・和葉・・・・・・・」
いばらはどんどん黄色く変色していきます。
「和葉、待っとれ、今助けてやるからな!!!」
窓を壊すと、平次君は強引に部屋の中に入りました。

そこは、小さな塔の最上階にある小さな部屋でした。
明かり取りの窓から漏れる日の光に、小さなベッドに横たわるお姫様の姿が優しく照らされています。
その姫の顔を見た平次君は驚きのあまり、声も出ませんでした。
姫は、和葉ちゃん自身だったのです。
その顔色に、平次君は愕然としました。
いつも現場で見慣れている顔色そのものだったからです。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・遅かったんか・・・・・・・・・・?」
和葉ちゃんは何も応えません。平次君の目に、涙が溢れてきました・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あほが・・・・・・おれを助けたりなんかするからや・・・・・・」
平次君は横たわる和葉ちゃんの手をぎゅっと握り締めました。平次君の両手の血が、和葉ちゃんの手を赤く染めます。
「・・・・・・・・・・和葉の・・・・・・・あほぉ・・・・血の気の無いお前なんか、見とないわ・・・」
指先の自分の血で、平次君は和葉ちゃんの唇を赤く染めました。
「・・・・・・・・・・・・・・・・あほ・・・・」
こつん、と平次君は和葉ちゃんの額に自分の額を押し当てました。
頭の中では、和葉ちゃんの元気な声が響いています。
「・・・・・・・・・・あほあほて、言ーてくれるやん!平次の方こそあほや!!!」
そうそう、きっと和葉が聞いていたらこんな・・・・・・
「大体なんや、死んでる人間とそうでない人間の区別もつかへんの!!???」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
「現場で見慣れてるはずやん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・和葉!!!???」
驚いて飛びのく平次君に、和葉ちゃんは起き上がると呆れ返って言いました。
「・・・・・・・・大体、こーゆー話やったら、王子様のキスで目が覚めるって知らんのん!?」
無骨な服部王子がそんな事を知るはずもないのですが・・・・・・
「あ・・・・・」
言った後で、和葉ちゃんは自分の発言にはっとして、口を押えて赤くなってしまいました。
「キ・・・キスしたら良かったんか・・・なんや・・・・・・・」
気が抜けた平次君も、思わず発した自分の発言にうろたえてしまいました。
「あ・・・・・・・・・」
「ま、まあ、・・・・・・その・・・・・・おれも王子様って柄でもないし!・・・・・な!!」
「せ、せやね・・・!・・・・・・・あたしかて、お姫様なんて恥ずかしいて死にそうやもん!!」
二人はお互いの無事を喜び合って笑い合いました。

「あ、忘れとった・・・!」
平次君がドアを開けると、そこには見るからに不機嫌な新一君が立っていました。
「わ・・・悪いな、工藤・・・・・・」
「おめーなー!!!・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・」
平次君に食ってかかった新一君は、その奥にいる和葉ちゃんに気付きました。
「・・・・・・・和葉さんだったんだ・・・・・」
「・・・・・ああ、おれもびっくりしたんやけどな・・・・・・」
にやにやと自分を見る新一君の視線に気付いて、平次君は不思議そうに新一君を見た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんや、工藤・・・・・・・・・・変な笑い方して・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キスしたのか?」
「・・・・・・へ!!??」
新一君の言葉に過剰に反応したのは平次君だけではありませんでした。
「なっ・・・・なんでやのん!!!」
「・・・・・・・・し、してへんっ!!してへん!!!!」
「そんなに慌てるこたねーだろ?」
「あほあほ言ーてたら起きたんや!!」
赤くなって必死に否定する二人を、新一君は面白そうに眺めています。
「聞いてるんか!!?」
「ま、そういう事にしといてやるよ!!・・・良かったな、和葉さん!」
「・・・・・・・・・・・・してへんて言ーてんのに・・・・・・・。そんな事より、工藤君これからどうすんのん?」
和葉の言葉に、新一君は不思議そうに聞き返しました。
「だって、蘭ちゃん探してんのんやろ?・・・・・・・アタシ蘭ちゃんのおるとこ知っとるよ?」
「お!そや、工藤、お前一人じゃ心細いかもしれへんから、おれらがついてったるわ!!」
「え!!?・・・・・や、おれは一人で大丈夫だし・・・・・・・・」
「そう言わんと!・・・・・・おれらかて心配なんやし!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・心配・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
新一君の不審そうな眼差しに、平次君は明るく取り繕います。
どっちかっつーと面白がってるって表情だろ?
・・・・・・・・視線が訴えています。
おれらだけ見世物にされて終わりなんて、そんな事させるかい!!!
内心とは裏腹に、にっこりと表面を取り繕っている平次君を、新一君はちゃんと見抜いていました。
でも蘭ちゃんの居場所を知っているという和葉ちゃんの情報には変えられません―・・・。
ま、いいか、・・・・・・なんとか途中で二人をまけば・・・。
「じゃ、和葉さん、道案内頼むぜ。・・・・・・・・・・服部、馬貸してくれ・・・」
「おお、ええで!・・・・・・・じゃ、蘭さん探しに出発や!!!」

こうして3人は蘭ちゃんを探しに出かけたのでした。

恐ろしい事に続くらしいこの話・・・(笑)

いばらは和葉ちゃんのイメージかな、と(^^;)
棘があるけど、でもそこが魅力的・・・。まあ、正確には和葉ちゃんの棘は棘じゃないんですよね。
文中で平次が棘を抱きしめるシーンがありますが、和葉ちゃんの棘は、棘であっても痛くない種類の棘じゃないかなとくぬぎは勝手にイメージしてます。

さて、リベンジなるか、平次!!?(笑)
新一にーちゃんの明日はどっちだ!!???(あしたの●ョー??・・・古い(ーー;))

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