風の中の真実
平ちゃんの視点からです(^^;)和葉ちゃんの側からの視点は「願い事は」をどぞ!
「あかん、ちょっと行ってくる・・・・・・・・・・・」
とうとう、といった感じで平次が音を上げた。
昨夜和葉と出かけた先で、偶発的に事件に巻き込まれ、たまたまその場に居合わせたという事で平次の本領発揮となった。
和葉の手前、ホントは遠慮したい所も少しはあったのだが、やっぱり好奇心というか、この事件を前にして熱くなる気持ちには勝てない。
和葉に悪いなと思いつつ、平次は事件に自分から巻き込まれて行く。
「和葉、お前はパトカーの中で寝とれ・・・長引くかもしれへんから・・・」
でも、と躊躇う和葉の手を取ると、平次はバタンとパトカーのドアを閉めた。
せめて、先に家に帰してやれたら良いのだが・・・
事件で一人でも人手が欲しい今、それは無理な相談だった。
不安そうな和葉の様子に、平次は柔らかな微笑みを向けた。
「・・・・・・俺は慣れとるけど、明日も学校があんねん・・・後で事件の事はなんぼでも聞かせてやるから・・・な?」
それでも少し不満気な和葉に、不安を抱きつつ、パトカーのドアをロックすると平次は現場へ向かった。
事件自体はそれほど難しい物ではなかったのだが、証拠として犯人を追いつめるだけの切り札がなかなか手に入らず、事件が大団円を迎えたのはもう午前様なんてかわいらしい時間帯ではなかった。
自宅まで送ってくれるという大滝の好意に甘えて、平次は和葉のいるパトカーに乗り込んだ。
「和葉・・・寝てるんか・・・」
「疲れたんとちゃいますか?・・・時間も時間やし」
大滝のにこやかな言葉と表情とは裏腹に、平次は思いつめた表情でパトカーに乗り込んだ。
和葉に無理させて付き合わせて・・・何しとんのや、俺は・・・
事件の後味はかなり・・・いや、今までに無い程悪い物だった。
犯人の女性の境遇は、何よりも和葉を彷彿とさせた。
背伸びをして一人の男を追い続け、無理が来た挙げ句の犯行だった。
「・・・・・・・・あいつは本望かもしれないわね・・・自分のやりたい事やり続けて死ねたんだもの。・・・・・・女はその犠牲になるだけなのよね」
連行される時に平次に彼女が投げかけた言葉が深く深く突き刺さる―・・・。
弱気になっているのはその所為もあった。
すぐ隣の和葉の寝顔を眺める―・・・
正直、和葉を異性として見た事が無いわけではなかった。
和葉は、平次の目から見ても、充分可愛いのだ。
こいつ、俺にくっついて歩いとって無理してんのと違うやろか・・・
幼馴染で、昔から一緒にいた。
それが当たり前で、普通の事だった。
「ん・・・」
コツン、と和葉の頭が平次の肩にもたれかかる。
「なあ、和葉・・・お前俺なんかにくっついて歩いとってええんか?」
平次の囁く様な問いかけに、和葉の目がゆっくりと開いた。
「・・・・・・・・・・あ、平次・・・・・・・?」
「起きたか・・・よぉ寝とったで・・・」
まだぼんやりしているらしい。
和葉は目をこすりながら、平次から身体を離した。
「・・・・・・・平次・・・・・寝た?」
「アホ、寝とるわけないやないか・・・今犯人捕まえたとこやで?」
証拠を見つけるのに、工藤やったらここまで時間かからへんかったかもしれへんな・・・
後味の悪い事件を思い出しながら、自嘲的な笑みを携えていた・・・
「じゃあ寝とらへんのん?・・・・・・今日も学校やで?」
「・・・・・大丈夫やて、いつもの事や。それより、ほら、着いたで・・・」
心配そうに自分の顔を覗き込む和葉に、平次はにこっと微笑んで見せた。
「お前んとこには電話しといたけど・・・まだちょっと時間あるし、今度はベッドでちゃんと寝ぇ・・・。」
ホントなら玄関先まで送って行くのだが・・・
そこまで気丈には振る舞えなかった。
「付き合わせて悪かったな・・・」
それだけ言うのが精一杯だった。
「なあ、平ちゃん・・・?」
和葉がいなくなった車中で、おもむろに大滝が口を開いた。
「なんや思いつめとる様やけど・・・考え過ぎなんと違うか・・・?」
「・・・・・・・考え過ぎでもないねん・・・あいつ、俺とおると危ない目ぇに遭ってばっかりや・・・。崖から落ちそうになったり、犯人に下手したら殺されとったかもしれへん事も・・・あったな・・・」
助手席に移って、窓の外を眺める平次に、大滝はふっと微笑んだ。
「そやけど、平ちゃんは和葉ちゃんを手放すのは嫌なんか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁあ??」
大滝の言葉に平次は思わず気の抜けた返事を返す。
「そういう事やろ?・・・・・・・・そのさっきから浮かれない表情は。・・・なんや、気ぃついとらんかったんかいな?」
青空の下、大滝の言葉を反芻しながら目を閉じる―・・・。
こんな考え事をするには、よく晴れた屋上は最適の場所だった。
今日は少し風が冷たいものの、学ランを羽織っていれば気になるほどではない。
かえって、この風が冷静な自分に戻してくれている。
冷たい風の中、和葉と離れる事を少し想像してみる。
例えば、一人でいる自分と和葉。
「・・・・・・・・・・・・・・・あ〜、何かなぁ・・・・・・想像つかへんな・・・・・・・」
「平ちゃんが一番気にせなアカンのは、和葉ちゃんの心配やのぅて・・・・・・別のとこにあるんやないか?」
昨夜の大滝の言葉が頭の中に響く。
「和葉の心配やのぅて・・・?」
青空に向かって思わず呟く。
「・・・何を気にせえっちゅーんや・・・」
西の名探偵は迷宮に迷い込んでいた。
「平次〜?」
遠くから柔らかな和葉の声が聞こえる。
どうやら少しうとうとしていたらしい。
昨夜は全く寝ていないのだから、それも当然と言えば当然なのだが。
和葉の自分を呼ぶ声を、夢現で懐かしい感覚に浸りながら聞いていた。
和葉も平次に気付いたらしく、足音を忍ばせてそっと近づいてきた。
起こさない様に気をつけながら和葉がそっと自分の顔を覗き込むのが、目を閉じていても分かった。
「疲れてたんやね・・・」
和葉は、そっと平次の隣に座り込んだ。
あ・・・・・・・・・?
風が・・・・・・止んだ・・・・・
目を閉じている分、周りの感覚に敏感になっている。
和葉が隣に来た事で、風除けになったのだ。
二人の間に、暖かく穏やかな空気が満ちている。
・・・ああ、なんや・・・ホッとするな・・・・・・
二人の間の柔らかい光に、空気に・・・・・・・平次は確かに居心地の良さを感じた。
「なあ、平次・・・アタシに出来る事あったら何でも言うてな・・・?平次の重たい荷物、一緒に持ってあげられる様になりたいねん・・・」
いつになく、和葉の声も心なしか暖かく平次の内に満ちてきた。
「って・・・起きてる時にはこんな事言えんけど・・・」
和葉が照れ隠しに苦笑しているのが分かる。
このままずっと・・・・・・・・
この、正体の知れない居心地の良さに酔いしれていたい。
そう思った時だった。
「・・・・・・・!」
和葉の後ろから、少し強い風が吹いてきたのが、和葉の身体からすり抜けてきた空気の微妙な流れで読み取れた。
アホ、我慢してたらお前が風邪ひいてまうやないか・・・
そっと、和葉の背中に腕をまわす。
背に掛けた学ランに一緒にくるむ様にして、その華奢な身体を抱き寄せた。
これで、少しは和葉も風をしのげるはず・・・。
平次自身にも和葉の体温が伝わって、暖かかった。
「・・・こんなとこにそないな寒そうなカッコで来るもんやないで?」
案の定、和葉はこれ以上ない程に動揺している。
「へっ平次、起きてたん!!?」
「・・・・・・・・・そないなデカイ声で喋っとるんや、起きんわけないやろ・・・」
「ど、どの辺から起きてたん!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前が俺を探しとるとこから・・・・・・・・・・・・悪ぃ、寝かせてくれ・・・・」
「て、最初っからやんっ!意地悪やなぁ、起きてるなら起きてるで言うてくれればええのにっ!!」
和葉の体温が伝わる。
・・・・・・・・・・暖かい・・・・・
この沸き上がる感情を何と呼ぶのかは分からなかったが・・・大滝の出した謎かけの答を見つけた様な気がした。
ここだけは・・・・・・・・・心から安心出来た。
「・・・あぁ・・・やっぱり落ちつくな・・・・・・・・」
それだけ言うと、平次は和葉の肩に頭をこつんと乗せてすうすうと寝息を立て始めた。
「もう・・・なんなん?・・・・・・・・・弁当冷めちゃうやん・・・」
2つ分の弁当を膝の上に乗せて、和葉もそっと平次に寄り添った。
冷たい風の中でも、ここだけは温もりを感じられた―。